ODA大綱見直しに関連して

山下 輝男 
(平成26年7月2日 脱稿)

 6月27日の報道によれば、ODA大綱を見直すと云う。従前から,ODAの戦略的活用を訴えてきた身にとっては、やっとと云う思いではあるが、素直に歓迎もしたい。
 気になって、日本が行ってきた韓国や中国に対するODAを含む経済的支援について調べてみた。中国については、データは容易に把握できたが、韓国に対する支援はネットにあるものの、その根拠が不明であり、調べるのに手古摺った。

1 中国に対するODA等
(1)実績
 対中ODAは、1979年に開始され、これまでに有償資金協力(緩やかな条件による貸し付け、円借款、北京五輪で円借款は打ち切り)を約3兆3165億円、無償資金協力(返済義務を課さないで貸与)を1572億円、技術協力を1797億円、総額約3.6兆円以上のODAを実施した。(2013年まで)
 尚、2013年度の実績は、無償資金協力6.48億ドル、技術協力25.27億ドルとなっている。
 一方、対中国事業開発等金融(非ODA)(国際協力銀行により実施)は次の通りである。事業開発等金融は、ODAではなく、我が国の貿易、投資等海外経済活動のための環境整備や開発途上国が行う構造調整等に対する日本からの資機材の調達を条件としない資金協力のことである。中国に対する累積承認額は2003年度末まで約2兆2,842億円である。 (以上外務省HP)

(2)基本方針(外務省HP)
 対中ODAについては、既に一定の役割を果たしたことを踏まえ、現在では、両国が直面する共通の課題であって、我が国国民の生命や安全に直接影響するもの(例えば、我が国への越境公害、黄砂、感染症、食品の安全など)といった、限定され、かつ我が国のためにもなる分野に絞り込んで実施している。

2 韓国に対するODA等
(1)全般
 65年の国交正常化時に締結された経済協力協定に始まり、円借款を中心に実施されてきたが、その規模は韓国の経済発展に伴い70年代後半にかけて減少した。その後、83年の中曾根総理(当時)訪韓に際し、新たに7年間で18.5億ドルを目途とする円借款を供与する旨表明され、累計3,281億円(約18.49億ドル)が供与された。同借款供与の終了にあたり、韓国経済が既に援助からの卒業段階に達しているとして、対韓円借款供与は以後行わないことが確認された。
 無償資金協力については、韓国の経済発展、所得水準の向上に伴い、79年以降は災害緊急援助を除き供与実績はない。
 技術協力については、韓国とは、開発援助のパートナーとして、相互に補完しあう関係を構築し、第3国への協力を行っている。(外務省HP)

(2)日韓基本条約締結に伴う経済協力  1965年
  3億ドル相当の生産物及び役務 無償  (当時は1ドル=360円)
  2億ドル 円有償
  3億ドル以上 民間借款
  当時の韓国の国家予算は3.5億ドル、日本の外貨準備額は18億ドル程度

  参考:1949年韓国は日本に対し21億ドルプラス現物返還の対日賠償要求を行ったが、日本はこれを拒否、遺棄せざるを得なかった在韓日本資産返還要求(約53億ドル、軍事資産除く)を行った。最も日本の対韓請求権は存在しないこととなり日本も受け入れた。

(3)日韓安保経協による円借款 1983年
 1981年8月、全斗煥大統領は、日本は韓国に自らの安全保障の多くを依存しているとして60億ドルの借款を要求した。82年の教科書問題を挟み、1983年1月中曽根首相の電撃的な訪韓により、日韓安全保障経済協力問題が決着した。中曽根は日本の植民地支配について遺憾を表明し、日韓両首脳は40億ドルの借款協定に合意した。

(4)韓国の通貨危機(1997~2001)時の支援準備
 1997年7月タイから始まったアジア通貨危機で韓国はデフォルト寸前となりIMFの管理下に入った。先進国協調による韓国に対する総額570億ドルの金融支援パッケージが組まれ、日本も第二線準備として100億ドルの支援を表明するも、発動には至らなかった。韓国は2001年8月195億ドルを返却しIMF支援体制から脱却した。

(5)日韓ワールドカップのスタジアム建設費問題 2002年
 アジア通貨危機でデフォルト寸前の韓国はIMFの管理下に入り、スタジアム建設費の捻出が厳しくなり、当初30億ドル、次いで更に2億ドルの融資を求めてきて、日本は快諾したが、結果的には韓国が断り、融資はされなかった。然しながら、米国同時多発テロでまたも失速し、新宮沢構想の下、韓国に対し23.5億ドルの国際協力銀行のアンタイドローンを融資した。アンタイド・ローンであるため、スタジアム建設に使用されたか否かは不明である。

(6)ウォン高救済 2006年 (ネットに記事があり広く出回っているが、明確な根拠の確認が出来ず、更に調査を継続する必要がある。)
     IMF経由によるウォン高救済支援 200億ドル
     (韓国高官は「日本の援助は迷惑だった」と不快感を表明)

(7)日韓通貨スワップ協定による支援  2008年
 通貨スワップとは、通貨危機に陥った際にお互いに通貨を融通しあう制度で、日本と韓国は2005年に協定を締結した。
 2008年のサブプライムローンに端を発するリーマンショックにより韓国のウォンが大幅に下落し韓国は通貨危機に陥った。日本は、同年12月引出限度額をそれまでの30億ドルから200億ドル相当に引き上げた。2010年4月為替市場が安定したので、増額措置を終了した。余談ではあるが、200億ドルへの引き上げが遅いとして、韓国財政部長官は日本が出し惜しみしている気がする等不快感を表明している。
 欧州金融市場の不安定に伴い、引出限度額を700億ドル相当に増額(2012年10月末までの時限措置)した。
 協定の期限を2013年7月まで延長していたが、満期終了。尚、両国間のスワップ協定はチェンマイ・イニシアティブによる2015年2月までの100億ドル。
 本スワップ協定は日韓相互的であるが、実質的には韓国救済のための措置である。
 実際に引き出さずとも、日本による信用補強としての意義もある。

3 日本の中・韓に対するODA等の経済的支援の功罪
(1)中・韓それぞれの国の経済発展に大いに寄与
 韓国は漢江の奇跡と呼ばれる経済発展をし、何回かの経済的危機を克服することができた。
(2)中・韓の国民は日本の支援を承知しているか?
 ネット等で見る限りにおいては殆ど周知されていない。承知している者は、日本はかって迷惑をかけたのだから、戦争賠償の代替として当然のことをしていると認識しているのではないかと疑われる。
(3)中・韓の政府レベルにおいても感謝の意が表されたことは極めて稀である。遅いとか出し惜しみだとかの不快感すら表明されている。
(4)日本の支援にも関わらず、中・韓の反日的対応は益々激しくなりつつあり、日本の経済的支援が全く効果なかったとも言える。効果があったからこの程度で済んでいるという言い方もあるのだろうが・・
(5)日本の支援を受けながら、関係国に経済的支援をするという矛盾を感じる。最も腰の重い政府も打ち切りに動いてきたが、遅かりし由良之助だ。

4 新国家安全保障戦略におけるODA
 平成25年12月17日策定された「国家安全保障戦略」には、政府開発援助(ODA)について幾つかの記述がある。NSS策定の趣旨において、「本戦略は、国家安全保障に関する基本方針として、海洋、宇宙、サイバー、政府開発援助(ODA)、エネルギー等国家安全保障に関連する分野の政策に指針を与えるものである。」としていることからも明らかなようにODAも国家安全保障に寄与するように施策される必要があるということである。
 今までのODAが、国家安全保障戦略とは直接リンクしない形で運営されてきた反省を踏まえた提言であろう。

5 ODA大綱見直しに期待するもの
 ODAで諸外国に融資されるお金は言うまでもなく、国民の血税であり、その運用に当たっては国益に合致する必要がある。お金持ちがあり余ったお金をばらまくのではない。従って、ODAの運用に当たっては、その目的・狙いを明確にして、国益に裨益するように運営されると共に、相手国の真の発展等に役立ち、相互信頼感の醸成に寄与すべきである。選択と集中が必要である。
 今までのODAは、国益との視点が欠如し、途上国のインフラ整備や貧困対策などに使用され、それは人間の安全保障という独特の理念で語られてきた。この事自体を否定するつもりは毛頭ないが、財政厳しき折に今までと同じという訳にもいくまい。
 以上の観点から、見直しの方向性が現大綱の「軍事的用途の回避」原則を緩和し、「民政目的、災害救助など非軍事的目的」であれば支援できるようしていることは大なる転換である。
 国益という視点から以下の諸点を考慮して欲しいものである。

 (1)日本の安全保障上のキーとなる国家または国家群に対する積極的な支援
 日本の安全保障上の最大の課題は、異形の大国、覇権主義的な行動著しい中国に如何に備えるかであり、その為にASEAN、印、豪、台湾、韓国そして米国との対中抑止態勢の構築である。ODA対象国でもあり、かつ態勢の弱点と思われるのは、云うまでもなくASEANであり、その中には親中傾向のある国もあり、ASEANの対中抑止力の向上が喫緊の課題であろう。その為に我が国のODAを積極的に活用する必要がある。ASEAN諸国の海上警察力の強化等は喫緊の課題である。

 (2)日本の資源・エネルギー安全保障上のキー国家等への支援
 日本の発展・繁栄のためには、引き続き資源・エネルギーの継続・安定的な確保が極めて重要であり、それらの国々との一層の連携は重要だ。SLOCをも含んでの関係国への積極的な支援が必要だ。化石燃料に限らず、レアアース等の希少金属にも目を向けその開発段階からの支援が必要である。

 (3)PKO等との連携
 日本は、国際災害救援活動や国連平和維持活動に積極的に参加してきた。ODAを活用すれば、それらの活動がより容易になるであろう。また、それらの活動が終わったら、それで終わりという訳ではなく、これら活動の成果を更に拡充する必要があり、その為にODAは絶好のツール足り得るだろう。

 (4)国連における日本への信頼獲得
 日本は将来的には、国際社会において相応の責任を果たすべきであると思料する。その第一は国連安保理の常任理事国になることであり、第二は国連等の集団安全保障に参加できる態勢を構築することであろう。常任理事国になるためには、アジアアフリカ諸国の信頼を獲得することが肝要であり、その為にODAが運用されることがあって然るべきである。

6 終わりに
 我が国のODAは、色々な批判が展開されてきた。有償資金協力の比率が大、国民総所得に対する支出額が小、インフラ整備重視、アジア重視等である。また、国家戦略との接合不十分、多様なアクターとの連携不十分、国際競争力の低下等々とも言われてきたし、国民の理解・支持が不十分ではないかとも云われる。
 本稿では、「国益からの視点」からの大綱見直しに対する要望を述べたが、旗幟鮮明にして国益に裨益して且つ広く国民の理解を得られるようにして頂きたいものである。