護衛艦乗組員の自殺に想う(追記)―元艦長から再び直言

海自OB(元艦長)

 約1週間前、元艦長からの直言として想うところを述べた。しかし、注文ばかり言って改善策を提示しないのはあまりにも無責任。本稿では前回言い尽くせなかったことを「追記」として述べてみたい。
 筆者は海自を退官して10年余りとなるが、在職期間中の後半には海自艦艇もインド洋給油活動、PKO、国際緊急援助活動等の「実任務」に従事するようになっていたものの、筆者の在職中は有事に備えた戦闘技量向上のための「訓練」が主体であった。
 近年はソマリア沖海賊対処、弾道ミサイル対処、警戒監視行動など、艦艇の実任務従事が顕著になってきており、自衛隊は「整備・訓練」の時代から「運用・実任務」の時代に移行しつつある。
 実任務に当たる艦艇部隊はいったん洋上に出ると、1ケ月~3ケ月、状況によっては6ケ月と、長期間の航海に従事する。長期航海が終了し母港に帰っても機器等の整備、次回任務・訓練の準備など多くの業務があり、休養も十分ではないようだ。
 しかしながら、このような過酷な状況下にあっても護衛艦の乗組員は黙々と任務を遂行している。
 前回、乗組員の士気は艦内の雰囲気、〝気風″に大きく左右される、と述べた。任務・訓練がいかに厳しくともこの気風が良ければ明るさを失うことなく、すべての乗組員は嬉々として任務・訓練にまい進するものである。
 それでは、「良い気風」とはどういうことか?まず、最近聞いた旧海軍出身者(水兵から下士官・兵のトップ、駆逐艦の先任伍長までを経験)の話を紹介しよう。

 旧海軍においては、兵隊のレベルでいわゆる「しごき」(制裁)があったことはよく知られている。また、「鬼の山城(戦艦名)、蛇の長門(戦艦名)」との言葉があるように過酷な訓練もあった、と聞く。
 しかしながら、これら艦内での「しごき」は個人を特定しておこなう陰惨な「いじめ」ではなく、連帯責任の追及であり、艦の戦闘力発揮のための純然たる部下教育であった、とのこと。また、特に駆逐艦(乗組員二百名程度)の艦長はよく乗組員と身近に接し、下士官・兵などの意見にも上司はよく耳を傾けてくれ、戦争中であっても艦内には明るさがあったという。
 これを要約すると、「上司は部下を思いやり、部下は上司の思いやりに応えて上司を敬う」との「良い気風」が確立されていた、ということである。

 「良い気風」ということは、自由闊達に意見が言えることもあって、「艦内の風通しが良い」ということになる。それでは、
「風通し」が良くなるためには、どうすればいいのか?
 筆者の経験から、艦内のリーダー的存在である艦長、士官グループ及び先任海曹グループに対し以下のように提言したい。

①部下より先にメシを食うな
 まず私心を捨て部下の命は俺が守る、責任は俺がとる、苦しいこと・厳しいことには先頭に立つ、との気概と行動を日頃から
 示すことが大切。そうすれば部下は自らついてくる。
②昼間は仕事をするな
 艦艇にあっても報告書類作成等ペーパーワークは多い。このため自室にこもりがちとなるのだが、部下と真剣に向き合う
 ためには、極端なことになるが、昼間は部下の仕事場に行き、その仕事ぶり、悩み、体調などの把握に努め、自分の仕事は
 夜やれ、ということである。このことについては特に初級士官の頃、上司から厳しく指導を受けたものだ。言葉を掛けなければ
 部下はついてこない。
③厳しき中にも明るさを
 任務の遂行にせよ、訓練の実施にせよ、厳しさをもって臨むことは言うまでもないことである。単に明るいだけで強い艦は
 できない。厳しさの中にも明るさを、ということ。上司がいかに厳しくとも私心がなく明るさがあれば部下はついてくる。

 以上3点を挙げたが、この「よい気風」を確立するには、艦長はもとより、リーダー的存在の士官・先任海曹グループがまず
私心を捨て「部下を思いやる気持ち」を持つことが肝要である。

(平成26年9月24日 記)