「竹島の轍を踏むな!」

山下 輝男

1 初めに
 日韓の懸案事項は多々あるが、その最たるものは竹島問題であろう。李承晩ラインを韓国が一方的に設定した1952(S27)1月から1954(S29)年夏までの日韓の動きを眺めると、日本は何故毅然たる対応をしなかったのかと悔やまれる。そして目の前にある尖閣諸島の危機に思いを致すとき、日本が同じ轍を踏むのではないかと危惧される。本稿は、そのような問題認識の下、この間の日韓の動きを追って何所に問題があったのかを考察するものである。

2 竹島は、明白に日本固有の領土
 まず、最初に明確にしておかねばならないのは、竹島は歴史上も国際法上も明白に日本固有の領土であるということである。
  ・領土権原:歴史的に日本の領有権は確立、1905年には日本領土への編入
  ・無主地の先占、国家の領有意思の明確、実効占有していた。
  ・サンフランシスコ平和条約締結後 竹島は含まず、日本は放棄していない。
  ・ラスク書簡の再通知
  ・一方的な領海宣言(李ライン)は無効 等々
 竹島は韓国に不法に占拠されていると云うのは紛れもない事実である。

3 竹島問題の発端
 サンフランシスコ平和条約で日本が主権を回復する1952(昭27)年4月28日を見越したかのように、韓国李承晩大統領は1月28日、平和条約の発効に伴うマッカーサーラインの廃止を前にして、韓国水産業の保護を目的とした「海洋主権宣言」所謂李承晩ラインを設定した。ライン内に竹島も取り込まれた。
 日本政府の抗議と韓国の反駁があり、4月28日にサンフランシスコ平和条約が発効した。7月、竹島が在日米軍の爆撃訓練区域に指定され、それは翌年3月解除されるまで継続した。
 この解除以降、韓国の動きが急になり、日本は後手後手に回った感がある。
 後知恵ではあるが、李承晩ライン宣言に関する情報は入手していなかったのか、或いは宣言後直ちに実効支配の措置は何故取られなかったのか、主権回復が全てに優先している段階であり、難しかったのであろう。

4 悔恨の昭和28年夏から翌年にかけての日韓の動き
 何故日本は韓国の実効支配を許してしまったのか
(1)竹島への韓国漁民の上陸・操業等と日本の対応(監視、銃撃被弾事件)
  ア 事実関係
  ・3月19日 爆撃訓練区域解除
  ・5月28日 島根県水産試験場の島根丸が数隻の韓国漁船を発見、交歓する。事実は県や政府にも報告された。
  ・6月17日 八管 竹島周辺海域の密航密漁取締り強化決定
  ・6月22日 日本、韓国代表部に韓国漁民の不法上陸・操業を指摘
  ・6月26日 韓国から「竹島は韓国の一部である。」旨の回答
  ・6月25日 隠岐水産高校の練習船「鵬丸」竹島渡航、続いて個人所有の「美保丸」が渡航
        韓国漁船員を発見、鬱陵島と連絡とれぬとのこと
        (この鵬丸の渡航を受け、当時の市川隠岐水産高校長は戒告処分を受けた。
        渡航中止命令を是とするか否とするかは議論のあるところではあるが如何にも日本的ではないか?)
  ・6月27日 巡視船2隻 竹島渡航 韓国漁船員に退去要求、「島根県穏地郡五箇村竹島」との標柱設置、
        写真撮影船舶の竹島への航行
  ・6月25日 外務省抗議文送達、
  ・7月2日  韓国は韓国海軍船艇を竹島に派遣する旨の発表
  ・7月1-2日 竹島及び周辺に人及び船が居ないのを確認
  ・7月8-9日 同上
  ・7月12日 韓国漁民・漁船多数発見(警官7名を含む来島者約40名、漁船3隻、伝馬船1隻)、
        ボートで上陸しようとした巡視船「へくら」の保安官に退去要求、母船への帰船時数十発の銃撃、2発被弾
  ・7月13-14日 韓国代表部に抗議、閣議で抗議認めぬ場合は米英の仲介によって事態解決と決す
  ・7月21日 韓国海軍参謀長、必要に応じ艦艇を竹島派遣し、監視するとの談話
  ・8月    韓国からの抗議と日本政府の反論口上書
  ・8月7日、10月6日 日本政府標柱再設置
  ・10月21日 日本の標柱撤去確認、韓国の標柱あり、
  ・10月23日 韓国標柱撤去、日本の標柱再設置

  イ 評価・問題点は何か
  当初は韓国の漁船員が漁のために立ち寄っていただけであったが、韓国が逸早く海軍船艇を派遣するとの決断を行い、
 それを粛々と実行した。日本は先制されたと云える。状況が流動的な段階では速やかな決断と実行が命運を決する。
  この年の8月以降は日韓の標柱設置・撤去の繰り返しであり、猟期になると韓国漁船団が多数操業すると云う状況が継続する
 こととなった。

(2)昭和29年韓国の実効支配確立へ
  ア 事実関係
  ・6月17日 韓国内務部 沿岸警備隊の駐留部隊派遣を発表
  ・7月28日 韓国警備隊関係者らしき韓国人、伝馬船を確認
  ・8月23日 日本の巡視船が竹島から発砲を受け被弾、島上に灯台建設を確認
  ・事後 日韓の抗議応酬
  ・国際司法裁判所への付託提案と韓国の拒否
  ・逐次に実効支配の強化 砲、無線柱、警備員、韓国旗掲揚等
  イ 評価と問題点
   既に機先を制せられた日本としては、監視と抗議と国際司法裁判所への付託提議しかなかったのかも知れぬ。韓国側の強硬な
  動きは掴めなかったのだろうか、そういう意味における国家の戦略的情報収集体制に問題はなかったのか?最も、独立間もない
  時であり、止むを得ないとは思うが、その幣は今尚という感じがするのは小生のみか。

5 日本政府として検討された対処方策等
(1)巡視船「へくら」の銃撃事件(S28年7月12日)を受けて
   国会で政府批判や日本も強硬策を採るべしとの議論が起きた。政府は不法入国であり警察権の行使はするが、問題解決の
  ための武力行使は「国際紛争解決のために武力を行使しない」憲法9条で禁止されていると回答した。忍耐強く主張を繰り返す
  日本領土と認識せしむる努力をし、武力は行使しないと言明した。

(2)その他の検討された事項
  ア 日米安保の発動について
   撃ちあいが起こっても直ちに侵略と断じて日米安保発動要請には至らないとの見解を示した。
  イ 自衛権発動について
   自衛権について、慎重な解釈が行われており、現在に近い見解が纏められたのは、1954(S29)年12月であり、時の首相
  鳩山一郎は、竹島問題での自衛権行使を問われ、領土侵略であり自衛権を発動してもいいと思うと表明した。然しながら、
  時間が経過しているので、戦争によらず外交的努力により解決するが穏当と述べた。
  ウ 海上警察権
   当時の海保は装備も不十分で韓国に対抗し得ない状況であった。

   これ等の対抗策は何れも実施不可能であり、唯一可能でかつ平和的手段であったものが、国際司法裁判所への付託の提議で
  あった。然しながら、韓国の同意が得られず、付託は未だにされていない。

(3)以上みてきたように、韓国漁船の来襲や韓国公権力による実効支配に対して、日本は何ら有効な対策を採りえず、現在に
  至っていると云うのが実情である。平和的手段こそが望ましいとの判断や、日韓関係の重要性に鑑みれば、今余り事を
  荒立てずに将来的な解決に期待したいとの願いもあって、結局は韓国の実効支配を許容してしまうと云う結末に至った。
   日韓間の紛争解決に関する交換公文が締結されているが、韓国側は竹島には紛争はないとの立場であり、議論はかみ合わず、
  平行線のままである。

6 竹島の実効支配を許した原因は何か?
(1)韓国の強硬策を見抜けず、日本の対策が後手後手に回ってしまった。当時の我が国の状況からは無理からぬ点がある
  とは云え、国家戦略情報の収集に欠陥があったのではないか?韓国の思惑を把握出来ておれば先んじることも出来たのではない
  だろうか?

(2)領域警備等に関する我が国の国家意思の不明確さ
  毅然として断固たる措置を取ってまで領域を守るとの国家意思が確立されていたのか、どうも疑問だ。平和的手段は確かに
  望ましいが、それで領域警備が万全になる訳ではなく、最悪の事態にも備える態勢の確立が必要である。

(3)国家としての領域警備関する態勢の未整備
  (2)項に関連するが、明確な国家意思とそれを担保する態勢整備が、今ですら十全でないのだから、当時は想定外だったの
  だろう。

7 終わりに
(1)一端実効支配を許してしまうとそれを打破するのは事実上困難であることを銘肝すべきである。
(2)領域警備に関する明確な国家意思の確立が肝要である。平和的手段を追求するのは正しいとしても、それのみでは事態は
  改善されないばかりか悪化するのは自明だ。力を行使することを躊躇ってはならない。
(3)当該地域やその周辺に対する警戒監視能力の向上のみならず、戦略情報の収集体制や対処態勢を適切に構築する必要がある。
(4)云わば、グレーゾーン事態にもなり得るので、対処のための警察、海保、自衛隊の連携をしっかり詰めることも重要だ。
  勿論、危機時の国家としての情勢判断や指揮命令に遺漏がないように措置されねばならない。
  グレーゾーン事態対応に関しては、平和安全法制の概要(2)第19話を参照して頂きたい。
  (http://www.jpsn.org/lecture/yama_vol5/8264/
(5)昭和28年から29年にかけての竹島係争、何か違う手を打つことが出来たならば、事態は改善されていたかもしれない。
   今、正に尖閣諸島に対する中国の領有権主張と公船等の接続水域航行や領海侵入、漁船の来襲等が行われており、これに
  対する対応が、竹島と同じ轍を踏むことにならねば良いがと懸念している。
   最近の報道によれば、中国海警局が、浙江省温州市に大型船が停泊可能な大規模基地を建設する計画を進めており、これは
  対尖閣で拠点基地建設とみられている。虎視眈々と隙あらばと窺っているのである。彼等に隙を見せぬように態勢を整備する
  ことが必要だ。

有益な関係資料を御教示頂いた島根県総務部総務課竹島資料室に感謝申し上げると共に、竹島問題に国民が関心を持ち、その解決する日の来らんを祈りつつ、本稿の筆を擱く。