『「反日」中国の文明史』を読んで!

山下 輝男

1 はじめに
 大国の近縁に位置する島嶼国(日本を島嶼国と云うには問題はあるが・・)の地政学的な課題は、大陸と如何に付き合い、立ち向かうかである。我が国は、その黎明期以来、支那大陸と親しく、時には距離を置きながら対処してきたのは周知の事実だ。
 想像を絶する大陸に深入りしたことは国策を誤ったとも云えよう。一方、一衣帯水、同文同種とされ、最も文化的影響を受けた支那大陸に、日本人は一方的なシンパシーを感じてきたのも事実だ。
 然しながら、最近の中国の行動には、首を傾げることが多い。自分達が知っている支那大陸の国家はこんなものではない筈だと思いたがっている。
 近年の中国にどう向き合うかは、日本にとって極めて重要である。彼等の最近の行動等、即ち中華民族の偉大なる復興を掲げ、新型の大国関係を要求し、愛国無罪を唱え、日本に対する謂われなき誹謗中傷を殊更に行い、ユネスコへ記憶遺産への執拗なる登録働きかけ等々彼等の我が国や東南アジア諸国への対応には、我々の理解を超えたものがある。
 中国の行動原理を如何に理解すべきなのか?彼らの行動原理を知ることは彼等に如何に対応すべきかの示唆を与えてくれるのではなかろうか?
 中国の行動原理を4000年以上の中国の歴史を俯瞰し、中国とは何者なのかを解き明かそうと試みた本が、2014年7月発売された。
『「反日」中国の文明史(平野聡著 ちくま新書)』がそれである。

2 同書の首肯できる部分紹介
 以下、小生が我が意を得たりと感じたところを幾つか紹介してみたい。

① 不安ゆえに「民族の一心団結」を鼓舞
 「そもそも、もし中国が歴史的に順調に発展し、例えば台湾や香港のように豊かで繁栄した社会を構築しているならば、今さら敢えてかくも国家総動員的なスローガンを叫ぶ必要はない。(中略)しかし中国の場合は全くそうではない。」(20p)

② 他者の夢を強いられた中国
 「中国は古来完全なる文明として理想を高らかに掲げ、その他の世界全体の尊敬を勝ち得てきたはずであったにもかかわらず、西洋列強の出現以来完全に圧倒されてしまい、むしろ西洋文明の後塵を拝してきたという屈辱と悔恨の感情・・・」(25p)
 特にアヘン戦争(1840~)以来の屈辱感は、日本人の想像以上のものがあろう。日清戦争での敗戦(天下=中国文明世界の崩壊、文明観の衝突)、前の大戦での八路軍の連戦連敗、西欧列強への屈辱も大なるものがある。

③ 「中国夢の沸騰する勢いは、北京五輪とリーマンショックが起きた2008年以降決定的なものになっているという。」(26p)
 世界経済の牽引役としての自信、中国との協力を望むあまり強い態度に出なくなった西欧諸国を尻目に、中国モデルこそ21世紀の希望と声高に叫ぶ。

④ 中国文明は普遍的とのゆるぎなき確信
 「そもそも中国文明が生まれ、拡大してゆく過程は、一定の段階になるまで常に、より「優れた」中国文明が恩恵あふれた」≪教化≫を行い、より「劣った」漢字を用いない人々が中国文明を尊敬するというものであった。」(31p)
 相対的でなく、相互尊重の念もない、一方的な上下関係・差別を是認する中華思想の根源がここにある。不平等・上下・優劣の存在を前提として、それを理性的に操作する方が、より現実的であるとの彼等の論理に与し得ようか? 全く、近代民主主義と相容れない論理で彼等は動いているのである。

⑤ 中国の論理
本書で述べられている中国の諸論理等には以下のようなものがある。それらをアットランダムに挙げて見ると彼等の行動原理等が朧げながらも見えてくる。
・易姓革命 ・朝貢関係(冊封関係) ・祖先崇拝と宗族、そして族譜、
・清室優待・満蒙回蔵各族優待、・変法自強の論理、人間の積極性を死滅させる計画経済、農村戸籍と都市戸籍、中華民族という幻想、主権国家・国民国家システムと相容れない「中国式天下」、・中国宗主権の下の自治邦、排満革命と日中「同文同種」の罠等々

⑥ 「文明の優等生」朝鮮、慕華意識、朝鮮版小中華思想
 これ等が、日本に対する鮮烈な潜在意識となっているのだろう。

⑦ 中国という名称は、本来黄河の中流で生まれた文明の名称であって、領域の名前ではない、領域は中華18省。
 中国の民族問題は、近代中国が非漢字圏の意向と関係なく、清という帝国の統治構造を改めたことによるものである。(同君連合・国家連合的なものから単一の主権による国民国家へ)(187p)
 モンゴルが独立に成功し、チベットが独立に失敗しているのは、複雑な国際関係の結果である。(189p)
 漢人ナショナリストの本音は、漢、満、蒙、回、蔵の違いを残したままでの「五族共和」ではない。(193p)

⑧ 最後に頼る歴史とナショナリズム
 現在の中共の政治体制は、もはやいかなる方向に向かうこともできない。・・今の矛盾を抱えたまま突っ走るか、あるいは危機管理に失敗して挫折するしかない。(241p)
 一つは中央政府の強権による徹底した反汚職の締めつけ、他は中国ナショナリズムの理想「中華民族の偉大な復興」を旨とする中国夢に向かうしかない。

⑨ 尖閣問題への視点
 単に島そのものの領有をめぐる問題なのではない。中国という文明と国家が歴史的に受けてきた傷を癒し、自らの理想=中国を中心とした上限関係に沿って世界を作り替えようとする戦略の足がかりなのである。(246p)
 西洋文明の模範生である日本に対する屈辱の象徴

⑩ 新華夷秩序
 『愛国主義教育によって焚きつけられた「急激に発展した中国が国際社会から正当に評価されていない」という不満、そして八方ふさがりの国内矛盾による不満や不安を何とか強行突破したいという願望。これが現実の中共の国際戦略における「核心的利益(とされた領土との確保、日米安保体制をはじめとした中国包囲網の突破、さらには米中両国が「新型大国関係」を結んで太平洋の東西をそれぞれの勢力圏とするという構想と結びついて、中共と過激なナショナリズムが相互に馴れ合っているのが現状である。
 そこで中共が、戦略の第一歩として自らの従属下に置こうとしているのが日本である一尖閣問題は島そのものが問題なのではない。「日本が侵略している」と言い立て、日本は第二次大戦の勝者である中国に従わず「戦後秩序を守らない世界のトラブルメーカー」であると中傷することで日本の国際的地位を押し下げ、そのうえで堂々と太平洋に風穴を開け、中米の当面の大共存を実現しようという戦略の一環なのである。日本が屈服すれば、あとはアジァ諸国に一対一で従属を迫り、「中国を中心とした真に平和で公正な国際秩序」をつくれば良いという。
 これは、二一世紀における純粋な上下関係の国際秩序、すなわち新・華夷秩序と呼ぶべきものである。これこそが中国文明の復興であり、「中国夢」の目指す理想の境地である。』 (243p~244p)

3 終わりに
 我が国は近代自由民主主義に基づく価値観を基調としているが、対する中国は我等とは全く違う価値観(新華夷秩序)で行動している。我等は、彼等の価値観を決して認めるべきではないし、中国を変えんと欲すれば自ら変わるべし等と云うまやかしに乗ぜられてもならない。
 出来ることは、大陸の一般大衆に国際社会の規範はどうあるべきかを粘り強く説き続けることのみだ。実を結ばないかも知れないが、それ以外に手はない。毅然として備えつつ、長く遠い道ではあるが、やらねばならない。何れは彼等自らが変わることを期待しつつ。

(了)