ミサイル防衛態勢の抜本的見直しを!

山下 輝男

1 北朝鮮のミサイル発射、新ステージへ

 北朝鮮は、8月3日午前8時前、日本のほぼ全域を射程とする弾道ミサイル「ノドン」を北朝鮮西部のウンリュル付近から発射し、秋田県男鹿半島沖約250㎞の日本の排他的経済水域(EEZ)に弾頭部分が初めて着弾した。(過去には、1998年に発射された「テポドン1」の先端部の覆いが太平洋側のEEZ内に落下した例などがある。)海上自衛隊が弾頭部分と思われる物体を回収した。


2 分析・評価等
(1)日本に対する明白な威嚇
 内閣改造日を狙って、意図的に(であろうと考えるのが妥当だろう。)、日本のEEZ内に着弾させたことは、極めて高い精度を有していることを示し、必要があればピンポイントで射撃できることを実証したものであり、日本に対する強烈な威嚇そのものである。秋田県知事が「戦前なら応戦する事態だ」と述べたが、それほどの事態であった。然し乍ら、国民の目は内閣改造に向けられ、残念ながら、この深刻な事実を直視していないように見受けられる。
(2)ノドンは、200基以上が実戦配備されているとされていたが、高い実戦能力を証明した。しかも、今までとは違う射撃陣地から射撃しているので、移動式発射台(TEL)を使用したものと考えられる。懸念されていた通り、事前に発射の兆候を把握することが出来なかった。
 J-ALERTが作動しなかったことに関して、政府筋は日本に落下する恐れがないと判断したためであるとしている。確かに、我が国の領域には着弾しなかったとしても、その恐れがゼロではなかった筈だし、EEZ内には我が国のイカ釣り漁船等が操業していた可能性が高かったのである。結果的に被害がなかったとしても、EEZ内で操業等する船舶に対するJ-ALERT通報を可能とするよう措置する必要がある。
(3)事前兆候の把握も出来ず、まして対処態勢を採り得なかったのは、ノドンに対する我が国の防衛態勢の脆弱性を露呈した。ミサイル発射実験を行う際には、国際慣習に基づき、国連海洋法条約第87条2項の妥当な考慮の一環として、近隣諸国に事前通報するべきであり、そうされていたが、今回はそれがなされて居らず、対処態勢を採り得なかったのである。
(4)今までは、事前に把握していた情報に基づき対処態勢を取っていたので、日本のミサイル防衛は一見万全なような印象を与えていたが、200基以上のミサイルが何処に向けて発射されるのか、何時発射されるのかも不明な状況下で、その全てに対処し得るほどの能力が我が国にある筈もないことを理解すべきだ。
(5)日本の抗議など、彼等にとっては蛙の面に小便ほどの痛痒をも感じないだろうし、国連安保理も、精々非難声明止まりである。先ほどのニュースでは非難声明も出されないようだ。ならば、実効的な制裁を伴う決議は、尚更に望めないことは明らかである。

3 抜本的なミサイル防衛態勢を構築せよ!
(1)ミサイル防衛態勢の見直しを!
 日本を標的とするノドンミサイルが200基以上も実戦配備されている現状に鑑み、現在のミサイル防衛態勢で十分なのかを真剣に検討すべきだ。今回の事案は、我が国のミサイル防衛態勢の脆弱性を露呈したと云えよう。
 あるべきミサイル防衛態勢の検討のために、幾つかのケースをシミュレーションしてみれば、如何にあるべきかが明確になろう。日米の共同対処をも含め、我が国のミサイル防衛態勢の再検討することが必要だ。
 その上で、財政的にどこまで整備し得るのか、その場合のリスクは如何ほどなのかを明らかにすべきだ。有能な我が後輩諸氏がwar gameで最適解を見出して呉れよう。
 ただ、単にミサイル対処部隊に平時から任務を付与すればいいというような単純な話ではない。そのような態勢を維持するということは大変なことだ。
 常時、十分な警戒監視・対処態勢を維持するには、多分、絶対的な量が不足するのだろう。それを料理するのは政治の仕事だ。
(2)日米韓の連携をさらに進めるべし
 北朝鮮に接し日々脅威を肌で感じている韓国の情報は、我が国のミサイル防衛には是非とも必要だ。日本に対する蟠りが韓国にはあるのだろうが、小異を乗り越える度量を持つべきだ。米国の早期警戒情報に依存せざるを得ない状況においては、米国との情報連携をさらに進めるべきだし、韓国に配備される米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)用の早期警戒レーダーの情報共有をも進めねばならない。
(3)J-ALERT発令基準について
 J-ALERTを令するかどうかの判断基準の見直しをすべきではないのか?EEZに着弾する可能性がある場合にどうするのか、配信する場合に技術的な問題はどうなのか?着弾の恐れある場合にその情報を提供するのは政府の重要な仕事だ。
(4)ミサイル防衛対象の優先順位決定と抗堪性の確保を!
 我が国に対するミサイル攻撃の目的・狙いに応じて被攻撃対象が異なるが、それらをも勘案して重要防護対象のミサイル攻撃からの抗堪性の確保を期す必要がある。被害の極限措置をも当然講じられねばならない。
(5)ミサイルを背景にした脅迫に屈しない国民の気概の構築を!
(6)敵基地攻撃能力の保持を!
 明らかに我が国に対する攻撃と予期される場合に座して死を待つのが本義でないのであれば、それらの能力を自衛隊に付与すべきである。
(7)わが国独自の情報収集能力をも検討すべき
 米国との緊密な調整も必要であるかもしれぬが、矢張り喫緊の情報については、自らが収集し活用する能力を持つべきである。米国の早期警戒情報が万全でない可能性もあるのであれば、それを補完する意味でも自ら情報収集能力を持つ必要がある。
(8)北朝鮮に核・ミサイルを放棄させるための直接・間接のあらゆる力の行使を!
 北朝鮮が国際社会の説得を受け入れる可能性はゼロだ。彼等には、その政策を放擲させるような強制的な手段こそが必要だ。日本、自らが出来ることは限られているが、国際社会と、或いは有志連合との共同が必要ではないか?そのような時期に差し掛かっていると考えるが、どうだろうか?

(8月4日記)