我は何を為しうるのか?

山下 輝男

1 中国の尖閣周辺海域における活動、新たなステージへ
 中国の尖閣諸島周辺海域における我が国への挑発が止まらない。7月12日の仲裁裁の判決以降、中国は南シナ海における活動を控え気味にしつつ、東シナ海特に尖閣諸島周辺において、中国海警局の公船が接続水域の航行や領海侵入を繰り返し、公船に援護されるような形で漁船200隻以上が同域で航行している。公船から漁船に乗り移る等管轄権を主張しているかのような特異行動も見られる。
 内閣改造の時期、五輪への関心高揚の状況、夏季休暇の時期等を狙っての中国の行動である。9月上旬に開催される中国で開催されるG20前にASEANとこれ以上事を荒立てるよりは、尖閣諸島で積極的行動をとることにより国民に強い姿勢を堅持していることをアピールしたいとの思惑もあるものと考えられている。
 尖閣諸島周辺でのこれらの行動が一時的なものか、新たなステージに入ったのかは現時点では断定はできないが、引き続きその動向を注視してゆく必要がある。
 参考:「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」(海保HP)
  http://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/senkaku/senkaku.html

2 中国の斯かる挑発的行動に如何に対処するか?
 度重なる我が国の抗議にも拘わらず、一向に挑発を止める気配はない。政府は、冷静・沈着に、毅然と対応するとし、海上自衛隊に特段の活動任務の付与は中国軍介入の口実を与えるとして慎重姿勢を堅持している。
 冷静に、毅然とし、然も相手の挑発の乗ることなく、効果的に対処するには、我が国は何を為すべきか?
 非常に難しい課題であるが、この課題に的確な解答を見つけなければならない。そのオプションを幾つか提示したい。
 これらのオプションを速やかに、順次或いは同時に適用して、中国による挑発を抑止しなければならない。

① 海上保安庁の全勢力を尖閣諸島周辺に集中とバックアップ体制
 海上保安庁の全勢力を尖閣専従警備部隊に増強して、海上警察権行使体制を万全にする。状況が長引く可能性もあり、ローテーションも考慮すれば、現在の体制では必ずしも十分ではないと考える。海上保安庁の部隊を緊急造成する必要がある。また、尖閣以外の正面の警備が手薄になることも考えられるが、それは海上自衛隊に任務付与することで一時的な対処は可能だろう。
 また、海上自衛隊や航空自衛隊等による警戒監視活動による海上保安庁のバックアップ体制を見直し更に強化すべきだ。

② 尖閣諸島守備部隊等の創設
 尖閣諸島を国有化した以降、特段の実効支配体制を構築していない。灯台や気象観測施設でも良い。ローテーションによる警察官(分署)配備も選択肢だ。日本としての実効支配の明確な意思を、この際厳然と示すべきだ。勿論、自衛隊の警備・監視部隊でも良い。
 我が国政府の優柔不断な姿勢が中国の行動を増長させている一因ではないのか。中国に対しても、国際社会に対しても我が国の断固として尖閣諸島を守り抜くとの意思を示す必要がある。韓国の竹島実効支配状況を見て見よ。日本が如何に生温いかが解る。
 現在推進中の南西諸島防衛のための施策を前倒し実施すると共に、新たな事態に対応するための施策を検討・推進すべきだ。
 沖縄の普天間基地の移設も何時までももたもたしている訳にはいかない。斯かる状態に関し、沖縄県民に、普天間基地移設がどれほど対中抑止に寄与しているか理解を求め、早急なる移設を期待したい。

③ 海外発信力の更なる強化
 遅きに過ぎるとは思うが、外務省が中国船の動きを纏めた資料を公表した。また、岸田外相は積極的に各国への働きかけを強めている。日本の海外発信は弱体であったが、やっと覚醒したと云える。更に積極的に海外発信すべきだ。各国に駐在する大使館を通じての説明は素より駐日各国大使にも説明を強めるべきだ。

④ 日米戦略調整の緊密化と訓練実施
 尖閣諸島に対する最大の抑止は、云うまでもなく日米安保条約が適用されることだ。米国は懸念を表明しているが、より強いメッセージが必要ではないか。
 日米の緊密な連携を内外に強くアピールすべきだし、日米間の戦略調整をより緊密する必要がある。当然、継続的には行っている筈だが、それを目に見える形でも行う必要もあろう。公表し得る部分と非公表の部分を明確にして各種調整を行うべし。
 その一環としても、尖閣諸島周辺海域における共同演習を行うのも必要だ。日米の軍事力を見せつけることもこのような国に対しては必要だ。砲艦外交と謗られても良い。

⑤ G20から中国を排除することも選択肢
 南シナ海や東シナ海における中国の横暴が止まらないのであれば、G8からロシアを排除したのと同じく、中国を排除することも考慮すべきだ。ロシアが行ったクリミア併合に匹敵はしないと云えるのか?
 日本の外交カードは少ないが、持っているカードを如何に有効に活用するか。微罪や拡大解釈による邦人逮捕のような、いわば、中国と同じレベルでの中国人に対する嫌がらせまではする必要ないとは思うが、…。
 ASEAN諸国との更なる連携も重要だ。中国のこれ以上の無謀な行動を抑止させるために、強固な対中包囲網が必要だ。

⑥ 日中漁業協定の改定提議
 2000年の日中漁業新協定では、尖閣諸島の北方は「中間水域」とされ、相手国の許可を得ることなく操業でき、各国は自国の漁船のみついての取り締まり権限を持つとされる。妥協の産物ではあるが、如何にも日本が弱い印象がある。
 中国が応ずるとは思えぬけれども、日本の本来の主張に基づくように改定すべきではないのか?日本漁船が安全に操業できないような漁業実態を明確にして国際社会に示せ。

⑦ 国際司法の場における解決策の模索
 国際司法裁判所における管轄権の基本が、全ての当事国の同意が条件であり、中国が同意する見込みはゼロだし、日本が提訴して中国が応訴する見込みもない。
 中国は既に「領海法」を整備して、国連海洋法条約での「立法管轄権」や執行権を設定しているので、日本としては、領有権についての負託合意とならざるを得ず、領土問題は存在しないとする政府の従来の主張と矛盾してしまう。
 実効支配を強化してこなかった政府の大失敗だが、今さら言っても詮無いことだ。国際司法の場での手詰まりを如何に打破すべきか、その方策はないのか、模索して欲しいものだ。

⑧ 海上警備行動の発令準備の万全
 海上警備行動の発令を迅速に行うべく措置されたが、如何なるケースで発令するのかを明確にしておかねばならない。発令のケースに該当する場合には間髪を入れずに対応して、事態のエスカレートを抑制すべきだ。

⑨ 不測事態への備えを確実に!
 事態の拡大を防止することは重要であるが、それでも尚、不測事態が惹起しないとは断定できない。その不測事態に即応し得るべく所要の準備を推進すると共に、所要の意思決定を迅速に行えるシステムを事前に検証しておかねばならない。グレーゾーンから有事への移行はどのようにすべきなのか、国際社会への対応は、国民には如何なるメッセージを出し、何を求めるのか、国会承認を如何に求めるのか、それらが明確になっているのか?政府と与野党の事前調整等も必要だろう。何れにしても初めてのことでと言い訳できないのだ。ケース研究を行っておくことが必須だ。

⑩ 国民に覚悟を求めよ!
 我が国が決して妥協しない、如何なることがあろうと断固として主権を守ることを国民に明示して、非常事態にも決して慌てることがないよう、正確な情報を提供して、覚悟を求めるべきだ。
 最後の砦は断固たる国民意思である。断じて行えば、鬼神をも之を避く。

3 結言
 危機管理の要諦は、最悪の事態に備えることである。想定外をも想定してあらゆる準 備を行って事態の惹起を抑止し、或いは拡大を防止しなければならない。そういう意味において、尖閣諸島をめぐる情勢は我が国の鼎の軽重が問われている。徒に対決を煽るものではないが、状況を直視し、為しうる限りの準備を行うことが肝要だ。

(8月12日記)