イワン・チェンナムの中国便り
-見て聞いて知った最近の中国情勢 全6回(その1)-

イワン・チェンナム

 全6回(その1)

「はじめに」
 チャンネルNipponの皆様お初にお目にかかります。
これからお話しする内容はあくまで、私がこれまで中国に滞在した中で見聞した内容であり、当然のことながら、事実ではあっても真実を物語るものではありません。
 2013年3月5日~3月17日まで開催された中国の全国人民代表大会において、習近平国家主席及び李克強首相による新たな指導体制が発足いたしました。しかし、未だこの新体制の評価をうんぬんするのは早計であり、しばらくは静観することが大切であると思います。
 昨今の日中間の情勢が混とんとする中においては、特に、親日とか親中とかの意識を度外視して、見聞したことをそのまま述べることが重要であると考えます。一般に言われることですが、日本人は特に“インフォメーションとインテリジェンス”を混同しがちです。両者ともに、日本語では「情報」と訳されますが、インフォメーションは、「事象やデータ」であり、インテリジェンスは、「事象やデータを分析評価した真実に近づけた事実」であります。 最近の新聞やテレビ等のマスコミ報道は、中国問題で過熱気味ですので、多くの知識を国民の皆さんが得られていることも事実ですが、同じ事実でも、マスコミによってはコメントが異なります。インフォメーションは同じでも、インテリジェンスの数は、マスコミの数ほどあります。 裁判における検察と弁護の両者間においても、同じインフォメーション(証拠)であってもインテリジェンス(犯人確定の真実)は異なる場合が多くあります。 日本語の“情報”は事実であっても真実であるとは限りません。真実はジグソーパズルの下絵のようなものであり、事実はジグソーパズルの1片(ワンピース)であります。 今回私がお話しする内容も、当然のことながら、インフォメーション(事象やデータ)であります。従って、学問的かつ体系的な内容ではなく、体験や経験に基づく断片的なものであることを御承知ください。そして、この私のインフォメーションを皆様がそれぞれの目的に応じて分析評価して、皆様のそれぞれの専門分野において有効なインテリジェンスとしていただき、より現実的な真実に近づけていただければ幸いであります。

 とりあえず、多くの講演会においてお話しさせていただいた中国の体験的実情をお話ししたいと思います。

 この冒頭の表題の写真は、北京の銀座通りと言われます「王府井」の裏通りにある観光客向けの屋台やお土産屋が並んでいる小路です。サソリが5匹、ヒトデが一匹でそれぞれ20元(約260円)です。これらは皆生きたまま串刺しにされています。注文すると、目の前で鉄板焼きにしてくれます。中国は食の文化と言われますが、四つ足では、机と椅子以外は何でも食べると言われるほどです。サソリは、沢蟹のから揚げの様で美味しかったですが、ヒトデは中身の黒い卵がキャビアのようでしたが、あまり味は感じませんでした。 このような食材は、この北京の小路に限らず、青島にも大連にもありました。日本では味わえない食材ですが、中国では珍しいものではないようです。
 食文化一つでも、このように異なるのですから、日本とは政治経済文化等々国状が異なる中国において、様々な異なる状況があることも当然の事であります。これからお話しすることは、中国を、日本と比較して考えるのではなく、あくまで中国という国を冷静かつ現実的に見るための参考としていただければ幸いです。

「白髪三千丈の中国の実感」
 2006年2月、北京大学に留学をいたしました。62歳の時です。歓迎会の席で、北京大学の代表者が「悠久の2千年の歴史の中国にようこそ!」と言って歓迎してくれました。この2千年という年数は、紀元前221年に秦の始皇帝が戦国時代に終止符を打ってからの歴史を指したものでした。その後、20008年の春、駐在のために北京空港に降り立った時に、ある中国企業の宣伝の看板に「3千年の歴史の中国にようこそ!」という文字が目にとまりました。そして、2008年8月8日、北京オリオンピックの開会式では、胡錦濤国家主席は「5千年の歴史の中国にようこそ!」という祝辞を述べております。後で、中国のいろいろな方に聞いたことですが、この5千年の歴史とは、黄河文明からの歴史年数です。5千年の歴史に対抗できるのは、インダス文明やメソポタミア文明等の発祥地だけです。これを国家発祥の歴史に結びつけたのは中国が初めてだと思います。少なくとも、わずか半年足らずで中国の悠久の歴史観は、2千年ほど伸びたのです。今では、北京空港の観光看板も、“中国5千年の歴史”とあります。これが中国です。 未だに、中国の歴史は2千年か3千年であり、5千年の歴史認識が現在の中国の通説になっていることを知る日本人は少ないのではないようです。国として、日本の歴史は、縄文弥生時代からでも3千年程度、韓国においても同じようです。5千年の歴史の中国には対抗できません。このような歴史観が、共産党や政府の決定として進められている国が中国です。

「中国の人口と民族問題」
 2001年の国連の統計資料では、中国の人口は12億7千6百万人ほどでしたが、2011年10月31年の発表では、中国の人口は13億4千8百万人ほどになっています。10年間で約7千万人ほど増えています。 1979年から開始された人口抑制策「一人っ子政策」の下で人口抑制を図っても人口は増え続けています。 現在、地球の人口は約70億と言われています。そのうち中国の人口は約20%を占めております。世界中の華僑等を入れれば4人に一人は中国人とも言われます。中国においては、56の民族が暮らしておりますが、漢民族が約12億ほどであり、残りの55の民族が1億チョットということです。中国は、実質は漢民族国家なのです。 現在、世界には3千ほどの民族が暮らしていると言われています。民族と言っても、種族や部族や豪族的な集団もいますが、ここで言われる民族とは、風習や文化等は多少異なっても一緒に国を作って生活したいと願う集団のことと定義されます。
 日本でも、かつては大和民族の他にも九州の隼人民族や北海道のアイヌ民族等が存在しましたが、時代と共に大和民族以外は、大和民族に吸収(混血化等)されて淘汰されてきました。 中国においても同様に、少数民族は更に少数化の傾向にあります。2010年、チベットを旅行した時に、現地のチベット人ガイドが、チベット(西蔵)鉄道ができて北京とチベットの首都ラサの間は48時間で結ばれるようになり、チベットの漢民族化が急速に進んでいると述べておりました。同じような傾向は内モンゴルやウイグル自治区においても進んでおります。純血なチベット人やモンゴル人が減少していることも事実です。このような状況が、民族主義を急進化させている一因にもなっているようです。
 また、チベット、新疆ウイグル、内モンゴルの三つの自治区の面積は中国全土の40%以上になっております。すべて、これらは少数民族の土地です。もしこれに、旧満州地域の朝鮮族が多い黒竜江省や吉林省が、朝鮮族の自治区になったとしたならば、中国国土の50%以上が、漢民族に反抗的な少数民族によって確保されることになります。また、これらの地域に地下資源の存在が確認されてきていることも事実です。中国の民族問題は、漢族と少数民族という単純な問題だけでなく、資源問題や宗教問題や格差問題を含めた複雑な構図が存在しています。

 

「新旧混濁の中国の現状」
 北京大学留学時に万里の長城について、少しばかり勉強をしました。最近、新たな長城が発見されておりますが、総延長数は、少なくとも6千キロ以上に及ぶと言われております。 この万里の長城は、基本的には、武装した兵隊6人ほどが横隊で通れるほどの幅があります。この城壁は、明代以前は、日干し煉瓦が使われていましたが、明代以降は、レンガの強度を高めるために焼きレンガが使用されました。この焼きレンガを造るためには、長城の周辺に焼きレンガ工場が必要であり、これと共に多くの苦役者と薪が必要となりました。当然のことながら、建設された長城の周辺の山林は伐採され、植樹などはされることは有りませんでした。 数年前に放映された「赤壁」という映画では、揚子江の赤壁に、両軍合わせて大小数千隻の木造船が投入されており、その大半の船が焼失する場面がありました。この木造船の材料も、揚子江周辺をはじめとする山林から伐採されたものです。我々は万里の長城や赤壁の戦いを、戦闘場面から見がちですが、裏を返せば、自然破壊と苦役の象徴でもあります。この、環境破壊の歴史が、中国の砂漠化を急速に進める一因にもなっており、最近問題となっている日本に飛来する黄砂等の一因にもなっております。
 また、2008年9月、北京オリンピックの一か月後には、有人人工衛星「神舟7号」の打ち上げに成功しております。また、1992年に崩壊したソ連の航空母艦「ワリヤーグ(中国名:遼寧)」をウクライナから購入し改修して、2011年の9月末には、中国海軍に編入しました。技術開発と近代化が表面化した証左です。 しかし、この航空母艦は、外見は出来ていますが、実際に戦闘機を搭載して空母としての機能を発揮するためには、5年~10年の期間が必要です。いたずらに、外見に驚くことなく冷静に対応することが重要です。また、巷では、定年した老人たちが、朝から中国将棋やトランプに興じております。中国のサラリーマンは、原則として女性は57歳、男性は60歳が定年です。その後は、年金生活者となります。原則として働くことはできません。老人が働けば、若い人たちの仕事を奪うからです。特に、都市部では、生活費が高いため、若者夫婦は共稼ぎですし、男女同権意識の高い中国では、尚更、共稼ぎが多いです。このため、朝晩の公園は、定年退職した年寄り夫婦と孫とペットのたまり場です。今、中国は、新旧混濁の中にあります。 日本の東京オリンピックの時代とよく似ています。ここにも歴史は繰り返してます。

万里の長城の悲しい歴史
冬のさなかでも苦役は続いた。苦役の労働者は、異民族の捕虜等が当てられた。
急速な近代化の象徴「神舟7号」の打ち上げ
これは写真発表ですので、この射場の真偽のほどは分かりません。

「日常生活」
 
最近は、片足相撲が盛んである。特に女性の片足相撲が人気である。毎日のようにテレビで放映されている。男女同権の象徴のようにも思われる。ちなみに、中国は、夫婦別姓であるので、名前だけでは、既婚者かどうか分からない。このようことも、中国人が簡単に離婚する理由の一つに挙げられている。 冬でも、同じような光景が見られる。
中国将棋は、王将は自陣の中央の9マスの範囲しか動けない。敵陣に行くことはできない。歩は、敵陣に入るまでは、前進のみしかできないが、敵陣に入れば、横に動くことはできるが後退は出来ない。敵から奪った駒は使えない。(日本の将棋と異なる戦い)
北京における一般的な市民の高級住宅100㎡で、家賃が5万円/月程度。日本人駐在員は、家賃20万円以上/月の日本人専用の高級マンションに住んでいる。日本人は特に日本人だけの集団で暮らしている。春節(正月)時には、日本人が住むマンションでは花火が禁止されている。私は、このマンションに3年間住んでいたが私以外の日本人は、たった一人であった。 一般的な中国人のアパート。築40年以上がほとんどである。建築当時は、ベランダであったが、自分で改築してサンルームにしている。外気が汚れているため、直接洗濯ものを干すことができない。3階までは、金網を張っている。(ドロボー除け)最近、古いアパートが強制的に取り壊されて問題となっているが、老朽化による危険も背景にある。
私が住んでいたマンションの地下2階です。
近年建造されたマンション等のビルの地下には必ずこのような地下室が設けられています。通常は、単なる空部屋になっていますが、非常時には、住民の避難場所になります。この扉の厚さは15cm以上はありました。
一般の中国人市街地には、「成人保健」と書かれた看板のある店が、100mくらいの間隔で見られます。これはアダルトショップを兼ねた避妊具店です。1979年から始まった「一人っ子」政策のための店でもあります。この店では、強壮剤等も売られています。

 北京オリンピックや上海万博の時には、多くの定年退職した市民が、ボランテイアとして市中の警備要員として動員されておりました。特に、北京オリンピックの時には、約60万人もの市民がこのようなTシャツ1枚をもらって、自分の自治会等の周辺の警備を担当していました。市民のボランテイア意識は高く、北京オリンピックにおいてテロや暴動の発生を未然に防いだ功労者として新聞等において高く評価されておりました。 このような施策は、高齢化社会における人材活用として注目に値する活動であり、学生やサラリーマンのボランテイア活動にも影響を与えています。 また、このような施策がナショナリズムを高める役割を担っていることも事実であると思われます。

(その1 了)