イワン・チェンナムの中国便り
-見て聞いて知った最近の中国情勢 全6回(その2)-

イワン・チェンナム

 全6回(その2)

「北京オリンピック」
 北京オリンピックに関わらず、東京オリンピックもソウルオリンピックも、その開催国の発展の引き金となったことは間違いありません。1964年の東京オリンピック時には、東京の空は光化学スモッグに覆われており、都内は地方からの出稼ぎ労働者で溢れ返っておりました。また、新幹線「こだま」号が開通したのもこの時です。2008年の北京オリンピックの北京の空も、当時の東京と同様に、やはり空気は悪く、農民工と呼ばれる地方からの出稼ぎ労働者が北京市内にあふれておりました。オリンピック開催期間だけは彼らの建設現場の仕事を中止させて、一時帰京までさせていました。また、北京~天津間の新幹線もこの時に開通しています。東京オリンピック時の東京の状況は、そのまま北京オリンピックの中国の状況にも当てはまります。まさに、歴史は繰り返しています。現在の日本と中国を、単なる経済情勢だけで比較することは正しくはありません。中国が、ドッグイヤーのごとく発展をしてきたし矛盾や齟齬をただすには、日本が辿ったと同じような道筋をたどるための年月が必要になるのかもしれません。GNPだけで国の成り行きを判断することが、果たして正しい事なのかどうか、日本人にも問われている問題だと思います。
東京オリンピック後には、日本もバブル景気に沸いた時期がありました。当時は「ジャパンアズナンバーワン」という標語が日本中のみならず世界中に飛び交っていました。北京オリンピック後には上海万博も成功し、日本を抜いて世界代2位の経済大国となった中国は、まさに「チャイナアズナンバーワン」の意識をもって国内外に中国の国威を発揚しています。 成金の国家や国民は、傲慢不遜となり世界中でひんしゅくを買うことは、バブル時代の日本と同じように、現在の中国も同じ状況にあるのかもしれません。日米間においても貿易摩擦が起こり、ニューヨークやワシントンで、日本車が焼打ちにあったことは記憶に新しい事です。
今また、日中韓においても、原因や理由の違いはあっても同じようなことが起こっています。ここでも、歴史は繰り返されています。

         「歴史は繰り返している?」

         東京オリンピック         北京オリンピック
開催       1964.10.10            2008.8.8
経緯       第二次大戦にて一度中止      2000年シドニーに敗退
経済       当時GDP東京人4700ドル       GDP北京人6000ドル
         1968 GNP ドイツ抜き2位      20011GNP日本を抜き2位
         毎年10%の伸び           10.6%の伸び
         *高度経済成長          *改革解放:市場経済
         「ジャパンアズナンバーワン」   「チャイナアズナンバーワン」
生活       大卒給料1万5千円/月        同 3万円/月
         カラーテレビ40万円        車 300万円
         マンション 500万円       マンション4000万円

         高速道路建設ラッシュ         同左
         首都高速、モノレール         同左
         建築ラッシュ             同左
         地下鉄ラッシュ            同左
         金メダル 最多:16個      金メダル 最多:51個

「中国を動かした9人」と「今後の7人」
 2011年9月28日に、やっと共産党大会の開催日(11月8日~)が発表されました。共産党大会は、中国国内の最も重要な大会です。ましてや、2012年の共産党大会は、今後10年間の中国共産党のリーダを決める大会です。その、大会の日程が、やっと約1か月前に決定されたのです。
 その指導体制による今後の中国を占う見方が、現在の9人の共産党政治局常務委員によっても覗えます。建国時においては、この政治局常務委員は11人の時もありましたが、文革時には5人となり、現在は9人です。今後も、その時々の権力闘争の結果等により、この人数の変動があり得ます。原則は奇数人数です。取り決めは多数決が原則ですから、偶数では困るのです。かつて、毛沢東は、その語録の中で「会議を思い通りに運ぶためには、その会議のメンバーに強力な同調者を最低2名は参加させて、自分の意図に合った意見を強力に主張させることである。」と述べております。日本人は会議下手と言われ、賛成意見も反対意見も、強力に主張することが苦手ですが、欧米や中国では、会議は自分の栄達の手段であり、熾烈極まりないことは当然の事です。その象徴的な事案が、文化大革命でした。自己批判をして、自分の過ちを認めることは、失脚につながり、時には死にもつながります。その中国における最高決定機関が、共産党常務委員なのです。命を懸けた死闘とも言われる権力闘争が行われることは当然のことです。薄煕来事件もその延長戦上にあるのだと思います。
特に今年の共産党大会において選出される共産党政治局常務委員は、原則として今後2期10年は、中国を動かすメンバーとして君臨できることになります。現在の9人のメンバーにおいて、胡錦濤派と江沢民派とか、共青団派と太子党派とかに分別されることは、マスコミ等でも盛んに報道されているところですので、あえてコメントは控えさせていただきますが、人数が少なくなれば独裁的になり、多くなれば国家主席の権勢が弱まり、集団指導体制となることは当然のことです。
これ以外の見方として、これまでの9人の経歴に注目する必要があります。序列7番目の李克強だけが、経済と法律の専門家であり、他の8人は全て技術者です。胡錦濤は清華大学出身のダム建設の権威者です。世界最大級の三峡ダムの推進者とも言われております。温家宝も地質学者です。やはりダムや堤防の権威者と言われています。技術者の集団が、現在の中国を動かしています。当然のことながら、ダムや堤防やビルや新幹線や地下鉄等の鉄道や工場建設の推進は得意とするところです。
 今回、共産党政治局常務委員に選出された習近平及び李克強以下7名のメンバーは、これまでの9人のメンバーに比較すると、まだそれぞれの個性が明らかではありません。今後、この7人のメンバーが具体的にどのような活動や言動をするのかを注目する必要があるものと考えます。
 しかし、今回の全人代においてこの7人の常務委員がそれぞれ分科会に出席しております。これは、今後、この7人のメンバーがそれぞれ重視する担当分野であるともみられます。特に習近平国家主席は科学技術分科会に、李克強首相は、経済及び農業分科会に出席をしていることは注目すべきことと思います。これにも、それぞれの卒業大学の経歴が生かされているように思えます。
 現在、日本のマスコミでは、今後の中国のかじ取りをするこれら7人の常務委員の経歴を、共産党青年団と太子党に弁別したり、胡錦濤派と江沢民派に分けて盛んに論じられていますが、このような見方は一理あることは確かですが、更に彼等の学歴や職歴そして具体的な活動を注視することが今後の中国の行方を見るために重要と思います。
 以下の表に見られるとおり、学歴だけを見ても、多くの事が分かります。

旧中国共産党政治局常務委員の構成 2013.12現在
党内序列 氏 名  出  身                   .  現  職  等
1 胡錦濤 精華大学水力エンジニアリング学部河川中枢発電学科 国家主席
              70歳
2 呉邦国 精華大学無線電子学部真空トランジスタ学科  全国人民代表大会常務委員長
3 温家宝 北京地質学院(現:中国地質大学) 国務院総理
              70歳
4 賈慶林 河北工学院電力学部 (電気設計、製造専攻) 全国政治協商会議主席
              68歳
5 李長春 ハルピン工学大学電機学部 中央精神文明建設指導委員会主任
              68歳
6 習近平 精華大学化学工程学部 国家副主席
              59歳
7 李克強 北京大学法学部 (法学及び経済学博士) 国務院副総理
              57歳
8 賀国強 北京化学工業学院無線化学工業学部 中央規律検査委員会書記
              69歳
9 周永康 北京石油学院 公安部長、国務院副総理 *薄事件
              70歳

新中国共産党政治局常務委員の構成 2013.3現在
党内序列 氏 名  出  身                   .  現  職  等
1 習近平 精華大学化学工程学部卒 党総書記  党軍事委員会主席
国家主席
              59歳
2 李克強 北京大学法学部卒 (法学及び経済学博士)  国務院首相
              57歳
3 張徳江 延辺大学朝鮮語学部卒  金日成総合大学留学    全人代常務委員長
              66歳
4 兪正声 ハルピン軍事工程学院ミサイル工学部卒 全国政治協商会議主席
              67歳
5 劉雲山 内モンゴル自治区集宁師範学校卒 書記処書記
              65歳
6 王岐山 西北大学歴史学科卒 党規律検査委書記
              64歳
7 張高麗 アモイ大学経済学部卒 副首相(金融担当)
              66歳
*経済通の増加 技術系出身者の減少
*北朝鮮以外の留学経験者なし
*ほぼ全員が文革による下放体験者
*鄧小平の影響を受けている
*5年後に70歳に達するメンバーが半数以上
*経歴から見ればほぼ全員が太子党

(その2 了)