イワン・チェンナムの中国便り
-見て聞いて知った最近の中国情勢 全6回(その4)-

イワン・チェンナム

 全6回(その4)

「改革解放の実情」
 中国では、初代の律令国家と言われる始皇帝の秦朝から宣統帝溥儀の清朝が崩壊した直接の原因は全て農民や学生、労働者の一揆やデモや暴動によるものです。始皇帝の秦は長く続いたように思われますが、わずか15年で農民一揆により崩壊しています。最後の清朝は、北京大学等の学生運動「五四運動」が発端となって崩壊しております。現在の中国は、改革解放により更に情報の開示が進み、一般市民や農民は、以前にもまして国や役人に対する見方が厳しくなっていることも事実です。
 最近盛んに行われている反日デモにおいては、反日を表すプラカードと共に、施策の改善を求めるプラカードが堂々と掲げられております。また、過去の五四運動の時に見られた内容と同じような政府を糾弾するようなプラカードも見られております。加えて、文化大革命時に紅衛兵が掲げた「革命無罪」という標語をまねた「愛国無罪」のような標語やシュプレシコールも見られます。最近の反日デモの時に掲げられたプラカードや横断幕は、規格が統一された同様のものが各地で使用されており、反日や反政府活動が組織的に行われていることが伺えます。
 北京空港と北京市内の中間に“大山(ダーシャン)”という地区があります。そこには数年前から「798芸術区」という場所があり世界各国の芸術家が住み着いて絵画や彫刻や写真等の活動を続けています。この地区は本来は「798工場区」として、冷戦崩壊以前には東欧向けの兵器生産工場でしたが、冷戦崩壊後は工場地区は殆ど休止したため、その跡地に芸術家たちが安い家賃で集まってきたとのことです。この地域は、かつての工場の建物がそのまま使われております。その廃屋的な工場跡の風情に芸術の気風がマッチし、若者好みの場所として、若者が集まる北京の名所になっております。その地域は拡大の一途を辿っております。 鄧小平の掛け声で始まった改革解放路線は、当初の経済分野だけに留まらず文化、芸術、生活、教育宗教等の広い分野に急速に波及していることが伺えます。
 北京に出張の折は、知人の出迎えを断り、空港から市内までは必ずタクシーを使います。これには私なりの理由があります。空港から市内までは約40分程度ですが、最近は市内の渋滞が激しく時には1時間以上かかる事もあります。この間は、タクシーの助手席に乗って運転手と会話を楽しみます。どこの国でも、タクシー運転手は一般大衆の意見を代弁してくれていますので、貴重な情報が得られます。タクシー運転手は各種の客を乗せており、客待ちの時にはラジオを聞いていることが多いので世情にも通じているのです。最近では、タクシー運転手の1か月の稼ぎ(給料)を聞く機会がありました。渋滞が多くて、乗車時間に比べて稼ぎは減収だそうです。1日12時間勤務で1カ月の稼ぎは日本円で平均3万円~5万円だそうです。これは、北京のような大都市の国立大学での初任給並です。この稼ぎで、北京のような大都市で親子3人が生活するには苦しいと言っておりました。このような生活レベルの労働者が北京では7割以上を占めております。彼等のような低所得階層にとっては、改革解放よりも、毛沢東時代の共産社会を支持する気持ちがあることも事実のようです。
 北京に住む友人の4歳になる女の子が幼稚園に入園することになりました。彼には日頃から大変世話になっているので、入園祝いを持って、彼のアパートを訪問しました。彼も奥さんも、浮かぬ顔をしております。子供の入園というおめでたい事なのにです。いろいろと話をするうちに、浮かぬ顔の原因が分かりました。彼等は、山東省出身の夫婦で、戸籍は山東省の青島にあります。北京市民ではありませんでした。そのため、幼稚園に入るのにも、一ヶ月分の給料以上の費用がかかったそうです。原則として、北京市にある学校や病院等の公的施設は北京市民のためのものです。中国の市民は、自分の戸籍のある都市において行政のサービスを受けることができるのです。彼等は、青島に住んでいれば、幼稚園も病院も無料に近い金額でサービスを受けられますが、戸籍の無い都市では、外国人と同様に、経費の負担や手続きが必要です。ここからも格差の問題が生じています。  


マスコミ報道等から得た最近の反日デモの写真  
 「打倒小日本、釣魚島防衛」  「国の恥を忘れるな 民族は強くなれ」
「貧富の格差をなくせ」 「小日本を追い出せ」「薄煕来を早く戻せ」
「原因の転嫁を絶対に許すな」
「売国奴(漢族の裏切者:汉奸)を許すな」
「798芸術区の展示物」  
 このような廃屋を画廊にしている。
 日本の「東京画廊」も出店していた。
 工場内部跡には、かつての軍事工場時代の標語がそのまま残されている。「毛主席万歳・・」
 芸術区最大の建物の入り口にある芸術作品  北京市内では絶対に見られない光景である。
 かつての標語の横には裸婦の写真がある。  若者に人気の油絵である。

(その4 了)