イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第二計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第二計 围魏救赵 (いぎきゅうちょう)“魏を囲んで趙を救う”

 出典  戦国時代の孙膑《围魏救赵》の故事

原文解釈 “共通の敵は分散させるべし。太陽たる敵は月にすればよい。”
 精強かつ一箇所に集中している敵を攻撃するのであれば、まず敵を分散させ、敵の戦力を削減させてから、それを各個撃破すべし。精強な敵を正面から攻撃するよりも、敵の手薄な弱点を攻めて勝利することが、作戦目的に合致している。

 戦果は大きく、損害は少なく。特に、近代戦においては、損害の大きい戦いは、いくら戦果が大きくても国民の賛同は得られ難い。
考証  公元前354年、戦国時代において、魏は趙の都邯郸(かんたん)を攻めた。趙は同盟国の斉に救援を求めた。このとき斉の救援部隊は、参謀孙膑(そんびん)の建議により、趙に行かずに魏の都大梁(だいりょう)を攻撃した.魏軍は兵を裂いて、急遽魏に引き返したが、斉軍の待ち伏せと長旅による魏兵の疲労により大敗を喫した。その後、魏は趙の包囲を解かざるを得なかった。斉の魏の都の攻撃が、結果として趙の救援となった。
 この時の参謀孙膑の建議とは、以下のようなものであった。
 “錯乱状態のものを静めようとするときには、殴ってもダメです。救出者は極力戦闘を避けるべきである。大声でまっしぐらに突進すれば手に負えない状況になってしまう。言って聞かせて自ら自覚させることが良い。”
 作戦は治水と同じである。賢者は正面攻撃を避ける。状況に従い無理をしない。弱者は自分の弱点を塞ごうとする。堤防のごとくである。
 溺れている人を助ける場合には、正面から近付けば必死に抱きつかれて共倒れになってしまう。溺れている人の背後から近付いて顎に手をかけて引っ張って助けるのが常道である。錯乱状態にある人は、他人のことは考えていない。狂人と同じである。
応用事例             “コカコーラ社の妙案”
 コカコーラ社は、第11回アジア大会において主要なスポンサーとして、300万ドル以上の基金を提供したが、どういうわけか、その広告は最も目に付く場所には表示されなかった。同じ状況下でありながら、アメリカのmmチョコレートの広告は音も色も攻勢的で、長安街の広告画面には、空に羽ばたく飛行艇や黄色のTシャツを着た人達で目立つものであった。
 大会社ゆえに、広告宣伝を遠慮してしまったのであろうか ? いや、コカコーラ社は即座に気がついていたが、別の考えがあった。それが以下のような“围魏救赵”の計略であった。宣伝の重点をアジア大会のサービスに置いていたのである。1500人のアジア大会担当員の中から1300人以上をアジア大会の会場で直接勤務させた。残りの僅かの人員を広告業務に当たらせた。コカコーラ社の目的は、派手な宣伝をすることではなく、一流のサービスを提供し、当日、参加者にコカコーラを飲ませて、その味を忘れさせないことであった。445台ものコーラ調理機が、各大会会場に設置された。これにより常に一定の清涼度と口当たりの良いコカコーラを現場で作ることが出来た。これと同時に、1280名の北京職専高校の学生を中国大酒店に送り込んだ。そしてそこで、彼らは各会場でサービスするために、世界的にも評判の良いマクドナルド社のサービス要領を台湾の教育専門家から厳しく教育された。このようにして、冷たい飲み物が“コーラレディ”からの誠心誠意のサービスにより提供されたことが、選手達に霊験新たかな効果を与えようとは、誰が想像したことであろうか ! 男子十種競技の金メダリスト金子宗弘は、表彰台から飛び降りるなり真っ先に“コーラレディ”の前に行き、花束を彼女に渡した。“もし貴方が、あの試合中に、タイミングよく私に飲み物をくれなかったならば、この私の金メダルは無かったのです。”
 金子宗弘ばかりでなく、コカコーラ社の出色のサービスは多くの人々に忘れがたい好印象を植え付けた。
 これこそ広告的でない真の広告です。国外において、顧客に対して優れたサービスを提供することは、その企業にとって顧客に好印象を植え付ける有力な方法である。コカコーラ社の方法はなんら新しい趣向ではなく、そのやり方は百年来変わっていないものであり、数式で表されるようなものではなく、その時々の状況に応じて顧客に対応することなのである。
 アジア大会期間中、コカコーラ社以外では、富士フィルムやキャノン等の会社がサービスに力を入れていた。富士フィルム社は、顧客の現像を無料で行ったばかりでなく、撮影記者のネガの縁取りまでも無料で行った。キャノンは最新の撮影機材を無料で記者に貸し出した。これらの状況からみて、明らかなことは、これらの会社の目的は、ただ一つ、優秀なサービスを企業として提供することである。当今の世界では、あらゆる企業の成功はすべてサービスの如何によって決められている。企業家にとっては、サービスは企業とユーザーを繋ぐ架け橋となっており、この架け橋は顧客の関心の基本的なものである。単純に商品を売ることだけを考えていたのでは、企業にとっては成功者とはなりえない。
 企業が更に成功するためには、サービスの言葉の意味を「服務」から「奉仕」に切り替える努力が必要である。
「服務」:上司から言われたことを確実にやる
「奉仕」:客の立場になって忠実にやる
  特に、中国ではまだ「服務」の概念が強い。
 「服務」のサービスしか知らない店に、「奉仕」のサービスで対抗すれば必ず勝てる。

(第二計 了)