イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第五計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第五計 趁火打劫 (ちんかだきょう)“ 火に付け込んで押し込みを働く”

出典 吴承恩《西遊記》

原文解釈 “敵の害大なれば、勢いに就き利を取る。剛、柔を決するなり。”
敵が苦境に陥ったときは、その機に乗じて一気に攻め立てねばならない。

これが強者が弱者を負かす鉄則である。火事場泥棒の責めを負おうとも。

考証  紀元前498年,呉と越は決戦に臨み、呉は大勝を帰した。これにより越の王は捕虜となり呉王の馬番の奴隷として扱われた。彼は一言も不平を言わず、ただ黙々と働いた。三年後(紀元前495年)、この働き振りが認められ呉の忠誠者として、越への帰国を許された。越に帰国して王に復帰した彼は、隠忍自重し外見は呉への忠誠と服従の態度を示し続け、毎年、呉に多額の献金することも忘れなかった。開放から10年後に呉に旱魃が襲い呉の国力が疲弊し、また呉王が最も有能な将軍を処刑するという愚行を犯したのをみて、反抗の時期が近いことを読み取り、越軍の強化を急いだ。開放から13年後(紀元前483年)、呉王が主力を率いて都を離れた機会を狙って呉の都を制圧した。臥薪嘗胆の勝利であった。
 敵の悩みが内部にあるときは、その領土を奪い取り、悩みが外部にあるときは、その民の人心を得て民を奪い、内憂外患の兆しあれば国を奪い取る。
 戦機とは、相手の弱点が生じた時であり、攻め時である。そのためには、16年(敗戦し奴隷となってから呉を制圧するまで)も待ったのである。 焦らず迷わず挫けずにである。

応用事例-1       “米国が火をつけて日本が掠め取る“
 20世紀80年代初期、米国においてエイズの恐怖が吹き荒れた。当時は、何の特効薬もなく、まさに死神の到来のように恐れられた。既に性の解放の考えに立ち、子供が出来ることを避けていたアメリカ人が、その後この死神病を避ける小道具として発見したものが避妊サックであった。しかし、当時は米国内には大量の長期的な避妊サックの在庫がなかったが、突如として大量の需要が市場に求められた。当然品不足となった。このとき、はるか離れた地球の東半球において、嗅覚の鋭い二人の日本商人がこれを嗅ぎつけて、即刻、本社工場の製造機器を稼動させ増産に次ぐ増産を図り、これをもって米国市場を席巻した。しばらくの間は、米国のほとんどの代理店は門前市をなすほどの賑わいとなり、2億個以上もの避妊サックが瞬く間に消費された。
 エイズという“火”はアメリカ人の恐怖心に火をつけ、我先にと避妊サックを買わせてしめて、市場の供給バランスを崩して価格を高騰させた。日本商人は、好機を見定めて、“趁火打劫”をもって、一気に一儲けをしたのである。このように、目先の聞く企業家は、鋭敏な視野と仔細な洞察力を持って、好機を逃さず、迅速に行動することにより、商戦を勝ち抜くことが出来た。
 相手の隙を突くことが、戦勝の鉄則である。
 戦いに“清く 正しく 美しく”は無い。
 軍人は、銃の引き金を引いた時から、人ではなく鬼になる。

応用事例-2       “三菱が騒乱に応じて財を成す”
 1973年3月、ザイールにおいて反乱が起きた。これは、遥か彼方の日本企業のとってはあまり意味のないことのように思えたが、三菱商事の上層部はこの情報を見逃すことなく、この反乱により自社への影響があるものと考えて、慎重に推移を見守った。そして、反乱軍の動向に注目して、情報を集めるように命じた。すぐさま、反乱軍はザンビヤに移動した。会社は、これらの情報を逐一分析して、反乱軍が交通を遮断することを予測し、これにより、ザンビヤの銅の輸出が影響を受けて、世界市場の銅の価格が上がるものと判断した。
 会社は、状況の推移を分析し、果敢に事後の方策を検討し、大量に市場の銅を購入した。この時には、まだ反乱軍は交通を遮断しておらず、市場の銅価格もあまり大きくは変動をしていなかった。会社は、この機に乗じて大量の銅を買い進め、売る機会を待った。
 その後、反乱軍は、会社が予測したとおり交通を遮断したので、トン当たり60ポンド以上も値上がりし、多大の利益を上げ得た。
 同じ情報であっても、それを運用する人によって“宝”にもなれば“ゴミ”にもなる。 “分析力”と“判断力”の差が勝敗を決する。

(第五計 了)