イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第九計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第九計 隔岸観火(かくがんかんが)“岸を隔てて火を見る”

出典 《孫子・軍令編》 “以冶待敵、以静待哗” 静観も方策のうちである

原文解釈 “陽はなれ秩序乱るれば、陰をもって逆を待つ。暴戻意識は、その勢い自ら倒れん。順もって動くは予なり。予は順以って動く。”
 敵の内部で秩序の乱れが生じているときはじっと静観していれば、その内部は乱れが高まり自ずと崩壊の道をたどる。座してこれを見届けて、漁夫の利を得るのが良い。


考証  西暦202年、曹操のライバルであった袁绍は度重なる敗北の末に病に倒れて他界した。彼には三人の息子がいたが、伝統に反して、次男が跡継ぎとなった。三男はこれを支持したが、長男は納得せず、両者間において権力闘争が発生した。曹操は、この状況において、本格的な攻撃を控えて、内乱の行方を見守った。内乱に嫌気をさしていた彼らの家臣や将軍たちを懐柔してその領土を逐次難なく奪うことに成功し、遂には長男を滅ぼし、次男と三男を追いやることに成功した。

 この三人の内乱中に曹操が攻撃を仕掛けていたならば、三人は団結して曹操に立ち向かうことを曹操は悟っていた。
 静観することは、ただ黙ってみていることではなく、状況の推移を常に分析をして、我に有利になるような“仕掛け”を怠らないことである。

応用事例        “利を得る戦いの妙案”
 些細なことで相手を仲違いさせて、互いに争わせて、自分は傍観して、漁夫の利を占めるのが、高邁な戦略家の常套手段である。
 国際市場における商人は、“利益を求める戦い”の妙案を熟知しており、一方では相手と一致協力し、一方では相手の国内の競合を作為したり利用したりして、その中から利益を探し出している。上海のある会社では、サッカリンを1キロ当たり6.8ドルでEUに輸出しており、すでに安定した占有市場となって、国家的にも少なからぬ外貨の獲得となっていた。しかし、その後、ここに天津と江蘇の会社が参入することとなった。そこで両者は、“内輪喧嘩”を演じた。天津の会社はキロ当たり5.4ドルの価格を提示した途端、江蘇の会社は、5.07ドルの安値を提示した。外国の商社はこの両者の価格競争を利用して、直ちに江蘇の会社と65万トンの契約を結んで、10万ドルの利益を得た。しかしながら、EUの規定によると、サッカリンのキロ当たりの最低価格は6.5ドルとされていたため、これに違反すると、“ダンピング税”を支払わなければならなかった。中国の貿易担当者はこのことに無知であったために、まんまとEUにダンピング税を徴収された。競争相手の米国や韓国は静観を決め込み、漁夫の利を得て、中国の弱みに乗じて有利な立場を確保できた。

 相手の弱みは常に自分の強みになるとは限らない。
同じ痛さを受けているのである。我慢比べでもある。
相手の痛さと自分の痛さは同じである。自分のほうが痛いと思ったら負けである。どうしても、自分のほうが痛いと思いがちになる。
 部下は、指揮官の顔や言動や容姿を見みて“痛さ”を判断する。
  戦いは、やせ我慢!!

(第九計 了)