イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第十計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第十計 笑裏蔵刀  “笑いの裏に刀を隠す”

出典 唐代詩人白居易《無可度》 “火中にあって火を消すことを叫びながらも、酒を飲んで、酔いつぶれたふりをしている”

原文解釈 “信にしてこれを安じ、密かにもってこれを図る。備えて後に動き、変あらしむことなかれ。中を剛にして外を柔にするなり。”
表面上は友好的な態度を装っておいて、敵の警戒心を解き、密かに妥当の策を練る。十分に準備を整えてから行動し、自軍の真意は見破られてはならない。闘志は内に秘めて、外見は柔和に装う。


“顔で笑って心で泣く”技は、簡単に身に付くものではない。
鍛錬が必要である。嘘泣きや嘘笑いはばれやすい。感情が入っていない。
考証  紀元前342年、秦と魏は交戦状態にあった。魏軍は疲弊し、敗色濃厚の状況であった。このとき、魏の一人の将軍が、魏王に献策をした。この将軍は秦軍の将軍と幼馴染であるので、その関係を利用して和平を提案してみることであった。魏王は早速この献策を受け入れて、この将軍を秦との和平交渉に当たらせた。両者は秦の陣地において会見を行った。秦の幼馴染の将軍も、建前上はこの幼馴染の関係を尊重して、招宴を開いて歓迎したように見せかけていた。宴たけなわのとき、秦の将軍は、この幼馴染の将軍を拉致して、その将軍と従者の軍服を秦軍兵士に着せて偽装し、魏の陣門を突破して魏の町を一気に陥落させた。魏軍は、和平交渉のさなかにそれも自軍になり済まして、秦が攻めてくるとは思いもよらぬことであった。 秦は、無理な正面攻撃による犠牲を出さずに、敵を油断させて、最小の犠牲で最大の戦果を挙げた。

 思いもよらぬことは“非常識”ではない。単なる油断である。

応用事例        “商売繁盛の漢正街”
 武漢市宝慶港付近にある漢正街は小売卸市場であり、色々な装飾品や玩具等の小物雑貨商品100種類2000品目もの品数を誇っている。それらの品は江蘇、上海、福建、広東等12省40以上の都市県からのものであり、市場は商品が満載で、売れ行きもよく、繁盛している。これは、既に主な販売ルートとなり、特に農村部に対する独占的な小売卸市場となっている。
 商品販売は、湖北省30以上の県のほか安徽、湖南、四川、河北、新疆の各地にも及んでおり、一大商品流通網を形成している。この市場の経営にあたっては、非常に特色のある販売方法があり、それは価格の決め方であり、それが繁盛の理由となっている。ここの販売人たちは品物の価格の付け方を心得ており、客の購入量に応じて値段を決めている。あらかじめ、購入数量によって値段の割引率を決めている。例えば、靴下一足を買う客には、仕入れ値に1角を利益として上乗せし、1ダースを買う客には、同じく一足につき5分を上乗せし、1箱を買う客には2分を上乗せして売っている。このようにして、顧客を引き止めているのである。即ち、一度に大量に買わせず、しかしながら、一ヶ月以内に一定量の品を購入してくれた客には、同様な割引をするようにしている。これにより、顧客を末永くこの市場に通わせることが出来る。 (一度に大量に買わせると、暫くは客は来なくなる。一定期間に、何度も客足を運ばせることが、繁盛のコツである。商いは、客に飽きられないことである。何度も来てくれると、ついで買いをしてくれる。これが儲けである。)
 この市場では、このほかに、売れ筋の商品によっては、色や模様やサイズにより、高いもの、安いもの、ほどほどのものを揃えて売っている。彼らは、薄利多売をモットーにしており、2百元ほどの売り上げでも、せいぜい7毛ほどの儲けで済ませている。ある店では、マッチ4箱1ダースの仕入れ値は160元であり、売値は161.5元である。4ダース売っても儲けは、合計6元にしかならない。あまり売れない商品は、原価割れでも売ってしまい、最終的にはほどほどの商いにしている。このほかにも、“端数切捨て”の値段により商売をしている。たとえば、20元数角の値段であれば、客からお金をもらうときに、“よし!お客さんのたばこ銭にしてよ!!!”といって、端数の数角を切り捨てて、まけてしまう。このような、威勢のいい商売のやり方が、漢正街市場を盛り上げて活気づかせている。

 “活気”は気風と心意気の現れである。ただの元気とは違う。
  活気が熱気を生み、本気にさせる。

(第十計 了)