イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第十二計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第十二計 順手牽羊(じゅんしゅけんよう)“手に従い羊を引く”

出典 《古今雑劇》 “羊飼が眠りをしている間に、旅人がこっそりと一匹の羊を盗んでそ知らぬ顔をして旅を続けた。羊飼いが気付いたときには、旅人は遥か彼方にいたので、羊を取り戻すことは出来なかった。”

原文解釈 “微隙のあるは必ず乗ずる所なり。微利のあるは必ず得る所なり。少しく陰、少しく陽。”
 相手の失敗に付け込んで、勝利を収める。敵には必ず隙がある。それを見つけて、無ければ作り出してでも、いかなる敵の隙にでも付け込むことが、勝利の道である。敵の僅かな隙を見逃さずに、僅かな勝利を確実に得ていく事が、最終の勝利につながる。


 我々は、どうしても大きな目立つ手柄を求めたがるが、大きな手柄には大きなリスクが付きものである。手柄の内にリスクあり。

考証  紀元前770年、宋は、陳の攻撃にさらされていた。宋は“囲魏救趙”の策を用いて、陳の都を攻めて、陳の軍勢を自国の都の防衛に振り向けさせて、宋の危機を自ら脱した。陳を攻撃し宋軍は帰路に、敵対していた小国泰を攻撃した。泰は陳に救援を求めたため、これを知った宋軍は、泰攻撃を止めて帰国した。救援に向かった陳軍は、泰の国王の無警戒によって、泰の都の大門を開いて丁重に迎えられた。宋軍は撤退しているので脅威が無いことを確認した陳王は、この機会を逃さず、泰王を拉致して泰を制圧した。

 戦いは冷酷である。“昨日の友は今日の敵”となる。
危機を脱したからといって油断してはならない。危機は、弱点があればいつでもやって来る。
 戦いでは、仏と思っている相手は、いつでも鬼になる。

応用事例        “ソニーのトランジスター勝利”
 1948年、ベル研究所はトランジスターを発明した。米国における2大電機メーカーであったRCAとGEは、この発明の重要性は認識していたが、トランジスターが真空管に取って代わるには20年後であろうと読んでいた。また、両社共に、真空管の製品工程に多額の資金を投入しており、他社の脅威も無かったためトランジスターの製品工程に切り替えるのに躊躇していた。
 ソニー社長の盛田昭夫は、この米国両社の判断ミスをついて、1950年代当初、ベル研究所からわずか2万5千ドルでこのトランジスターの製造権を取得した。これをもって、ソニーは、全力で技術開発に取り組み、RCAとGEが予想していたトランジスターの実用化に成功し、両社が予想していた20年後の製品化を2年で達成した。ソニー携帯トランジスターラジオを、当時のラジオの三分の一の価格で売り出し、今日のソニーを築いたのである。

 油断や隙は、驕りや自信の裏返しである。また、油断は独断の産物である。安定している時こそ、先が見えずに自信過剰になったり、億劫になって決断を躊躇しがちになる。
 常に緊張感をもって調査研究と改善を進めることが覚悟を持続させる。 マンネリが緊張感を失い油断を生む。しかし、マンネリそのものに気付くことが先決である。
 自分の殻を打ち破らないと、殻の中のマンネリは見えない。

(第十二計 了)