イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第十三計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第十三計 打草驚蛇(だそうきょうだ)“草を突いて蛇を驚かす”

出典 唐《西陽雑俎》 “唐の県令王魯は、人民から搾取して、貪欲なまでに財を成していた。ある日、地元の農民が王魯の部下を収賄で告発した。この状況を見て、王魯は自己の不正までが露見することを非常に恐れた。そして、もうこれからは領地を好き勝手に出来ないことを嘆いて、「草をたたいて、蛇を出した」と言った”

“やぶ蛇”の語源にもなっている。

原文解釈 “疑わばもって実を叩き、察して後に動く。復するは陰の媒なり。”
敵の動きが掴めなければ、偵察して確かめ、状況を把握してから作戦行動に移らねばならない。偵察を繰り返すことは、隠れた敵を発見する手段である。


 偵察には、“威力偵察”と“隠密偵察”がある。
偵察行動の失敗が、敵を警戒させ反撃を受けることにもなる。“やぶ蛇”にならない行動が大切である。

考証 宮本武蔵-五輪書
 「陰を動かす」とは、敵の意図が不明の時の対処方法である。多勢の敵を相手にするときに、その状況が分からない場合には、自ら攻撃するように見せかけて、敵の対応を見極めることが重要である。敵の対応が分かれば、勝利は得やすい。


 吉岡一門との戦いは、まさに、この戦法であったのであろう。

応用事例        “クライスラーの新たなる飛躍”
 20世紀80年代初頭、クライスラー社長アイコッカは、クライスラーを再起させるためにオープンカーを販売の重点にするという“賭け”に打って出た。当時は、モダンなクーラーやステレオを搭載する必要の無いオープンカーはあまり人気がなく、話題にもならなかった。このため、米国の自動車業界ではもう10年近く製造を停止していた。しかしながら、このオープカーの再出荷は従来のカーマニアには歓迎されないかもしれないという心配はあったが、新たな若い世代のカーマニアの注目を集めるものと考えた。
 しかし、クライスラーは、連続4年欠損を続けており、更なる欠損は許されなかった。このため、アイコッカは、“打草驚蛇”の試販を行った。
 アイコッカは、工員に命じて一台の鮮やかで奇抜なオープンカーを作らせた。まさに夏の盛りに、アイコッカは、このオープンカーを自ら運転して、混雑している道路を選んで疾走した。色々な車が行き交う中で、そのオープンカーが、惑星の怪物のようであり、たちまちこの車の後に長蛇の列を作るほどの人気となり、最後には、アイコッカのオープンカーが道端に止まるたびに、高級車に乗った人々が近づいてきて、“この車はどこの会社製なのか?”“何という名前の車か”と聞いてきた。アイコッカは笑って答えた。そして密かにこの車の売れ行きの感触をつかんだ。さらに、彼は、検証を進めるために、人の集まるマーケットや繁華街に車を止めた。どこでも、この車の周りには人垣が出来て、車を見定めていた。このような検証調査を繰り返した後に、クライスラーは、“男爵”と言う名のオープンカーの生産を正式に発表した。米国中から当初年度23000台の受注が殺到し、その中には女性客もあった。

 アイコッカのこの作戦は、単なる“賭け”ではなく、周到な調査と準備があった。賭けは“勘”に頼り、“周到”さには、理論と確信がある。

(第十三計 了)