イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第二十二計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第二十二計 関門捉賊(かんもんそくぞく)“門を閉じて賊を捕らえる”

出典 《草芦征略・游兵》

原文解釈 “小敵はこれを苦しむ。剥は往くところあるによろしからず”
 弱小の敵は、包囲殲滅させればよい。しかし、あまり追い詰めると、死に物狂いで向かってくるので、深追いせずに活路を与えてやる。そして、敵が衰弱するまでじっくりと待って、仕留めれば、損害も少なく戦果も大きい。


 背水の陣を敷く敵は、予想外の力を発揮する
 侮るべからず―火事場の馬鹿力
考証  紀元前260年、秦と趙は天下分け目の戦端を開いた。双方互いに譲らぬ互角の戦いとなったが、あるとき、秦の老獪な指揮官は、趙の指揮官が新進気鋭の、まさに、やる気満々の若手に交代したことを知った。この機に乗じて、秦は趙軍に戦いを仕掛けて、超軍を誘き出すことに成功した。秦軍は、趙軍を包囲したまま、持久作戦をとり、超軍の兵站を絶って趙軍を疲弊させていった。64日目になって、趙軍は乾坤一擲の戦いに望んだが、秦軍は、全力では戦わず、これも空振りに終わらせ、超軍を自滅させていった。超軍の反撃力がなくなったことを見極めてから、秦軍は本格的な攻撃を開始して、容易にこれを撃破して、長年にわたる対立に終止符を打った。

 持久戦には、長期的な準備と、敵の必死の反撃に対する備えが必要である。また、短期決戦を迫る内部の急進派の説得も容易ではなく、確固たるリーダーシップが求められる。持久戦は双方にとって辛い作戦である。
 打ちのめすより生かすほうが困難であるが、成果は大である。
 “人材も同じ!”

応用事例          “客を全て取り込んでしまうサービス”
 社会が発展し豊かになるに従い、人々の欲求が高まっていくところに、大きなビジネスチャンスが眠っている。誕生日のサービスもそれである。町のどこかでは必ず毎日のように誕生日が開かれている。誕生日にはどこの家庭でも奮発して豪華な料理を準備し、部屋を飾ったり、お祝いの品を買ったりと、誕生日にはいつも以上の出費がなされている。目先の利いた商人は、この一大市場に着目した。誕生日の食事会場や誕生日品の商店等では、誕生日を迎える人達に、あらゆることに対応するサービスを提供した。すなわち、宴会場の準備、その進行、写真や録画のサービス、贈り物の販売、お客が指定した祝辞を書いたカード付きの誕生―ケーキ等である。誕生日を迎えると、人々は誕生日商品の店に買い物に行く。そこにはあらゆる品が取り揃えられている。レストランや商店は、その誕生日を盛り上げるために、店の入り口は思い思いの趣向を凝らした装飾を施し、店内も綺麗でアイデアに富んだメニューや品を準備している。これにより、誕生日でない客さえも引き込んでしまうのである。誕生日のサービスと同じように、結婚のサービスもまた魅力的な市場である。米国のある会社は、新婚夫婦のために、緻密なサービスを行っている。たとえば、結婚前には、頃合を見計らって、結婚衣装を作って贈り、全ての結婚案内状を製作発送し、結婚式から宴会までを取り仕切り、結婚時には、会社は夫妻にある非常に有意義な贈り物をする。それは、二人の結婚を印した一対の皿とナイフとフォークである。新婚時代には、夫妻が挙げた目録に従って、生活用品を販売し、遂には、懐妊時には、担当者を派遣して、懐妊時に必要な知識読本や必需品を持参することにより、関係商品の販売を手掛けるなど、息の長い商売をしているのである。
 この様に周到に準備されたサービスは、顧客の結婚前後の煩わしさを解消し、客を長期的に取り込む巧妙な“関門捉賊”の策である。

 この策の運用には、相手の情報を継続的にかつ正確に把握する努力が重要である。相手の心理を読み、それに応じた戦略的対応こそが成功の道となる。
 “戦略の効果は、自分の生前には分からないこともある。”しかし、“自己の在任中の成果を求めがちである。”この矛盾と葛藤を乗り越えられる指揮官こそが、真のリーダーであろう。

(第二十二計 了)