イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第二十四計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第二十四計 仮道伐虢(かどうばっかく)“道を借りて虢を討つ”

出典 《左傳・僖公二年》 考証参照

原文解釈  “両大の間、敵脅かすに従をもってすれば、我仮るに勢をもってす。
 困は、言うことあるも信ぜられず。”
 自国と敵国の間の小国が、その敵国に攻められているときは、直ちに小国を救援して、自国の勢力を拡大することにする。ただ、口約束だけでは、相手は信用しない。実際に行動を起こして、信頼を得た後に小国を手に入れればよい。提携は一時的なものに過ぎない、それは、あくまで自分の目的を果たす手段である。


考証  紀元前658年、晋は領土拡大のために、隣国の小国である虞と虢を手に入れることを望んでいたが、この両国は同盟を結んで、晋の攻撃を防いでいた。このため、晋に対する防御は堅固であったが、両国の国境線の防備は手薄になっていた。これを察知した晋の将軍は、晋王に建策をした“両国の防備が手薄であるので、虞と提携してまず虢を攻めて、然る後に虞を手に入れればよい。そのために、虞王に破格の贈り物をして晋を信じ込ませて虞から虢への間道を通過させてもらうようにすればよい。”晋王は、破格の贈り物をすることを渋ったが、この将軍は更に付け加えた。“この虞への贈り物は、あげるのではなく、ただ虞に預けておくだけです。”晋王は、これにより虞との貢物による協定に同意した。晋からの虞へのこの提案は、虞の将軍達は、虞と虢との同盟こそが虞の生きる道であることを*“唇滅びて歯寒し”の例えを引用して、虞王に説いたが、欲深い王はこの破格の貢物に目がくらみ、間道の通過を許可して、このヒスイと立派な馬の献上品を受け取ってしまった。晋は、この間道のおかげで、虢を攻め滅ぼし、帰りがけに虞をも攻めて、これもまた制圧した。献上品のヒスイと馬は、件の将軍が晋に持ち帰ったことは当然であった。 まさに、目的のためには手段を選ばぬ作戦である。
 君主は、“第3者を攻撃する場合には、自分より強い相手と手を組むことは、避けるべきである。”たとえ勝利を収めても、その後は、強い相手の軍門に下ることになるからである。君主は、他人の意のままになるべきではない。

* “唇滅びて歯寒し”:互いに助け合う者の一方が滅びてしまうと、他の一方も危うくなるという例え

 リーダーには、目先の利益や感情に押し流されない堅確な意思と長期戦略が求められる。リーダーも人の子、時には情に流され、目先のものにも捉われる。 “任重く道遠し”

応用事例-1  “一時的に提携して力を蓄えてから、競争の優位な位置を確保する。”
1984年、柳傳志は、8万ドルで、レジェンド社を創設した。当初は、中国科学技術院が開発した技術の販売であったが、次第に、中国国内の中堅コンピュータ会社として成長を遂げていった。国内ではヒューレットパッカード(HP)や東芝のパソコンを扱う最大手の販売会社となった。これらの企業から、販売やサービスのノウハウを吸収して、更なる発展を遂げていった。このほかインテル等の会社とも提携して、民族企業が衰退していくのを尻目に業績を伸ばしていった。今日のレジェンドの中国マーケットシェアーは、30%を占めるまでになった。IBM、HP、コンパックといった企業にも大差をつけている。この教訓は、常に相手企業の力を利用して、これを吸収し続けたことにある。
 DHLは中国において、中国大手物流会社のシノトランス社と提携をして中国シェアーを拡大したが、事後、両社は提携関係を解消し、競合しあう関係となっている。また、かつて、米国の建設機器メーカーがコマツと企業提携を熱望したが、彼ら米国企業も、コマツが望んでいるのは、コマツの最大のライバルであるキャタピラー社と戦うためであり、提携は一時的なものであることは十分承知していた。

 提携を解消するタイミングを決心することが重要である。提携は易しいが解消は難しい。
 人間関係も同じである。“別れ話には、刃物が要る”

応用事例‐2          “策士が策に溺れて、損をした”
 骨董は儲かるので、最近は、市中で探し出すのは難しくなっている。そこで、骨董商達はそこら中を駆け巡って、骨董を探し回っている。
 一人の骨董商がある村に来たとき、目を見張ってしまった。目の前に欠けた皿があり、その皿は数世紀前のもので、価値のあるものであることが一目瞭然であった。しかも、その持ち主は、その価値が全く分かっていないようであった。なぜならば、その皿を猫のエサ受けにしていたのである。その猫の飼い主は、猫をとても可愛がっているようであった。
 そこで、その骨董商は、非常に興奮して、期待を込めてその持ち主のおばさんに声をかけた。案の定、彼女は、以前飼っていた猫が死んでしまい悲しんでいたときに、死んだ猫と良く似たこの猫を見つけて可愛がっているのであった。古物商は次第に親密になっていき、暫くしてから、それとなく言い出した。“この猫を売ってくれませんか?”彼女も嬉しそうに答えた。“貴方の奥さんがこの猫を可愛がってくれるのであれば、売ってあげてもいいよ!”骨董商は、もう天にも昇るほどの嬉しさを表して、自分の感謝の気持ちを示すために、彼女が提案した売値の倍の金を払った。二人とも互いに喜び合った。彼は猫を持ち帰ろうとしたときに、遂に彼は、この場の最終局面を迎えて、努めて冷静に何食わぬ態度で彼女に申し出た。“この猫を看ていると、さっきから、その欠けた皿の中のエサしか食べていないようです。猫の事思うと、その皿と一緒の方が、環境も一緒なので猫も喜ぶと思うので、その欠けた皿を猫のためにください。”彼女は、即座に答えた。“それはダメだよ。今日また5匹の猫を買って来てしまった。この皿は、又使わなければならない。”骨董商は、気絶するほどに落胆して言葉を失ってしまった。
 骨董商は、猫を口実にして只でその皿を得ようとしたが、彼女の方が上手であったのである。彼女は、皿を口実にして、猫を売っていたのであった。彼女は皿の価値を、骨董商以上に知っていたのである。

 所詮、策略は、相手にその意図を見破られたら、使い物にならないばかりでなく、逆に利用されてしまう。反対に、相手の意図が分かれば、思い通りの作戦が立てられる。焦らずに、まず相手の動きをよく見ることである。 戦いは、“思い立っても吉日にはならない”

(第二十四計 了)