イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第二十五計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第二十五計 偷梁換柱(とうりょうかんちゅう)“梁を偸みて柱を換える”

出典 《漁家楽傳奇》 

原文解釈  “頻りにその陣を変え、その頚旅を抜き、その自ら負るを待ちて、後に乗ずる。その輪を曳くなり。”
 たびたび相手の陣形を変えさせたり、その主力部隊を翻弄させて相手の屋台骨を崩して、ガタガタにする。自滅するのを待って、一気に攻め立てて乗っ取る。車の車輪さえ押さえてしまえば、その進行を制御できるのと同じである。
 古代中国において行われた戦闘における、典型的な戦闘隊形は、縦軸の“天梁”と横軸の“地柱”によって構成されていた。戦闘は、この何れかの軸を基準にして行われた。したがって、双方共に、この軸を崩す作戦が功を奏すれば勝ち戦となった。

 相手が最も重視するところが弱点でもある。“長所は短所なり”

考証  六朝時代西暦383年、強国秦と劣勢な晋が国境の川の両岸で対峙した。双方共に、渡河をして攻撃すれば、渡河の最中に攻撃されることを警戒して、膠着状態が続いていた。劣勢な晋は、この状態を打破すべく、一計を案じた。それは、秦に使者を送り、秦軍がひとまず河岸から後退し、晋が渡河して、秦の領土内の陸上にて戦闘をして雌雄を決することを提案した。秦は、この提案を検討して受け入れることとした。
 なぜならば、晋の提案を受け入れる振りをして、一旦、兵を引いて、晋が渡河を開始したならば、急遽、反転して渡河中の晋軍を攻撃する作戦を立てていた。しかし、この秦の作戦は、晋の想定内のものであった。
 晋は、秦の同意を取り付けた後、直ちに晋の兵士に秦軍の軍服を着せて秦軍の陣営に忍び込ませ、“晋の軍隊は予想以上に手強いので、我が秦軍は撤退するらしい”という噂を流させた。しかる後に、両軍は、協定どおりの行動に移った。即ち、秦軍は、河岸から退却をしたのである。秦の兵卒には、秦軍の本音の作戦計画は知らされていなかったため、晋の偽装兵が流した“晋軍は予想以上に強い”と言う噂を真実と思い込み、秦の兵隊は浮き足立ってしまい、我先にと武器を捨てて逃げ出す者まで現れた。これにより秦軍は大混乱となり、軍の陣形は総崩れとなり、渡河中の晋軍を攻撃するどころではなくなり、劣勢の晋は救われた。

 作戦は、相手の裏をかくことまでは容易に考えるが、そのまた裏をかかれることまでは、なかなか予想しない。相手の裏をかくことで安心し慢心してしまう。また、作戦の本旨を秘匿することは、自軍の混乱を招く結果ともなる。秦軍に厳正な指揮があったならば、晋のデマに惑わされる事なく、“渡河中の晋軍を攻撃する”という秦軍の作戦は成功していたであろう。

応用事例          “アルゼンチンのバナナ”
 ジミー・ボーレスは、“商売の奇才”と言われている。彼は幼少時代から貧困家庭に育ち、苦労をしていた。その苦労の環境の中から商才を発揮していったのである。10歳のとき、世界規模の大不況が、彼の父のミネソタの会社にも波及し、彼の父は失業をした。彼は、課外の時間を働かざるを得なくなった。しばらくして、彼は、あるス-パ-の食品会社のアルバイト店員の仕事を探した。彼は惜しみなく働き、接客も良く、多くの経験を積んでいった。社長は、彼の将来を見込んで本店の研修にも行かせた。そのダラスの本店において、彼は果物の販売を任された。そこにおいても、彼は益々商才を磨き、頭角を現していった。そんなある日、彼が担当する本店の果物倉庫から火事が起こってしまった。火事は、直ちに消防によって消し止められたが、バナナが火炎によって変色し外側には黒い斑点が出て、見た目が悪く売りものにはならなくなってしまった。社長は、彼にこの見てくれの悪い13箱のバナナを、値段は安くてもいいから、売ってしまうことを命じた。彼は、“こんな見てくれの悪いバナナは売れるはずはない。しかし、これが売れなければ、社長は、自分の販売能力を見下げてしまうことだろう。どうしたものか!”と思案した。彼は、かまわずにこのバナナを店頭に並べ始めた。最低の値段をつけて懸命に売り込みを始めたが、客は一目このバナナを見ただけで、ただ通り過ぎていってしまうばかりであった。しかし、彼は、この見てくれの悪いバナナの味はすこぶる甘くて美味しいことを知っていた。
 “他のバナナよりは絶対に美味しいのだから、売れないわけがない!!”
 彼は、ある販売方法を思いついた。翌日、このバナナを並べ終わると“サー買った買った、アルゼンチンバナナだよ!味も風味も絶品だよ、早い者勝ちだよ、これしかないよ!”と大声を張り上げた。この声につられて、客は集まってきたが、見てくれの悪いバナナを見て、買うのを躊躇していた。客の一人が“これは本当にアルゼンチンバナナなの?”彼は答えた。“お客さん。アルゼンチンバナナをまだ見たことがないでしょ!
 見てくれは悪いけれども、味は他のよりも美味しいよ! 信じないなら食べてみないかい。”彼は、その客にバナナを剥いて試食させた。”彼の舌先三寸は絶好調であった。“これは美味しい!”客は、集まった他の客にも吹聴した。
 客達は、我先にと試食しては、この“アルゼンチンバナナ”を買っていった。このバナナの値段は、昨日とは違い普通のバナナの倍の値段にしてあったが、瞬く間に、13箱の“アルゼンチンバナナ”は売切れてしまった。彼も。本当のアルゼンチンバナナは食べたことがなかったのは当然であった。彼は、空になったバナナ台を見て、暫くの間、一人で高笑いをしていた。

 バナナに対する客のこれまでの認識(相手の梁)を一変させたことが、勝因である。相手の梁を崩したのである。相手の梁(拠り所)は、相手が決めるとは限らない、相手の梁を、自ら張り替えるほどの、積極策が功を奏したのである。
 現在でも、バナナ通は、外皮に黒い斑点が出来た時が一番美味しい食べ頃であると言われている。彼は、嘘を言ってバナナを売ってはいるが、本当に美味しいバナナを売ろうとしたことが成功に結びついたのである。

(第二十五計 了)