イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第二十七計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第二十七計 仮痴不癫(かちふてん) “痴を偽わるも癫(テン)せず”

出典 《唐演義・第六十二回》  痴人を装って油断をさせて利口者の勝ちを得る

原文解釈 “むしろ偽りて知らず戸為してなさずとも、偽りて知るを仮るをなして妄(みだ)りに為すことなかれ。静かにして機を現わさず。雲雷、屯なり”
 下手に利口ぶって軽挙妄動に走るくらいなら、馬鹿なふりをして、じっとしているほうが良い。時が来るまで秘策を持って待つことが大切である。
 それはあたかも、雷雲が冬の間はじっと隠れて力を蓄えて稲妻を放つのを待っているようなものである。これが出来ない人は、本当の馬鹿である。

 大石内蔵助の心境である。

考証  西暦249年、曹夾と司馬懿は共に魏の役人であった。魏の皇帝が亡くなり若い王子が即位したため、二人が皇帝の補佐役に任命された。当初は二人の力は均衡していたが、次第に曹夾が実権を全て掌握し、司馬懿を閑職へと追いやった。司馬懿は、曹夾が自分の命までも奪うものと恐れて、気が振れたふりをして生活することにした。口も満足に利けず、食事も自分では食べられず、人の助けを必要とする生活をしていた。この噂を聞いた曹夾は、彼がもう自分のライバルでないと判断して、彼を生かしておき、そのうちすっかり司馬懿のことを忘れてしまっていた。そんなある日、曹夾は亡き皇帝の墓参りのために若い皇帝と共に都を離れた。司馬懿はこの好機を見逃さず、自分の手勢をすばやく招集して、反乱を起こした。四日後、彼は魏を制圧し、曹夾を処刑して皇帝の補佐役に返り咲いた。

 何も知らない馬鹿な振りをすることが,最高の利口の智慧となる!! 目的がしっかりしていれば、見栄も外聞も恥も関係ない。

応用事例          “海運王オナシスの馬鹿げた買い物”
 1929年、世界の経済恐慌は、海運業にも波及していた。当時、カナダの国営鉄道会社は、6隻の貨物船を、10年前には200万ドルしたものを、1隻僅か2万ドルで売りに出した。これを耳にしたギリシャの海運王のオナシスは鷹のようにこの獲物に飛びついて、早速、カナダに行って商談に入った。この様な、時流に合わない、不景気のときに船を買い求めるという行動は、周囲の者にとっては、不可思議であっけに取られるばかりであった。 海運業界が低迷しているときに、多くの海運企業家は、この状況の過ぎ去るのをじっと待っていた。オナシスが海運業に更に投資をするということは、まさに気が狂ったとしか思われず、白波の立つ大海に小船を漕ぎ出すような遭難を前提とした行動と見られていた。多くの友人は、忠告をしたり、彼は理性を失ってしまったのではないかと心配した。
 しかし、この心配は全く余分なことであった。オナシスは、当然勝算をもって現地に行き、損をすることなど考えてもいなかった。
 彼の考えは明白であった。現在は経済成長も終わって停滞期であるが、この経済危機が過ぎれば、物価も低迷から高騰に転じる。この安い掘り出し物の船を今買っておけば、その時に、また売り出せば高く売れて必ず儲かる。彼は、即座にこれらの船を全て買い上げた。
 案の定、経済危機が過ぎ去り、海運業は経済復興の最前線にあった。オナシスは、カナダから買い求めたこれらの船を、大幅な高値で一夜にして売り払ってしまった。彼の資産は、百倍以上にもなり、一挙に世界の海運業界の覇者となった。

 馬鹿な振りをすることも大事であるが、この馬鹿な振りをいつ解くかが重要である。それを解く戦機を見極められる人が、この策の成功者になれる。

(第二十七計 了)