イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第三十三計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第三十三計  反間計(はんかんけい)“反間の計”

出典 《孙子・用間編》 “反間者は敵の中に作ってこれを用うべし。用間は五種あり、有郷間、有内間、有反間、有死間、有生間”敵の様々な仲介者に働きかけて、敵が拠り所としている人間関係を無力化する

原文解釈 “疑中の疑なり。これに比すること内よりとすは、自ら失わざればなり”
敵を疑心暗鬼に陥れれば、戦いに勝てる。特に、内通者を利用すれば敵は自ら崩れていく。敵のスパイの逆用は最も効果がある。

考証     “反間の計により赤壁の戦いを制した周瑜”
 西暦208年、赤壁の戦いが開始されようとしていた。圧倒的な戦力を持って周瑜軍に対峙した曹操軍は、水上戦の不利を補うために水上戦に長けた二人の将軍を特別に登用して訓練に当たらせた。この結果、曹操軍は水上戦においても周瑜軍に対抗しうる戦力となり、これにより、さらに両軍の戦力差は開く一方であった。この功績により、二人の将軍は曹操軍の功労者となった。こんな中で、曹操は、周瑜と旧知の仲であった自分の参謀を周瑜のもとに派遣して、曹操への降服を勧めさせた。
 この参謀と面会した周瑜は、昔話をしてこの参謀を歓待し、自分の部屋に泊めて親交の深さを示し、参謀を感激させた。参謀は、寝静まった頃を見計らって部屋を物色したところ、驚くべき文書を発見した。それはあの曹操軍で水上戦を訓練した功績のあった二人の将軍が周瑜に宛てた手紙であった。“赤壁にて海戦の暁には周瑜軍に加担する”という内容であった。この文書を密かに盗んだ参謀は、これを曹操に持ち帰った。曹操はこの手紙を信用して、二人を裏切り者として処断した。曹操軍の有能な水上戦の指揮官がいなくなったのである。この、手紙は、周瑜が敵の水上戦力の低下と内部分裂のために仕組んだ罠であった。曹操軍は、孔明の知略も加わって赤壁において大敗を喫した。

 降服を勧める会談を、攻撃をするための手段として“反間の計”を用いた。圧倒的な戦力差の下での戦いは、常識的には降服か逃亡が常道であったが、周瑜は乾坤一擲の戦いを選んだ。この作戦を成功させるために、その前哨戦として様々な欺瞞陽動の作戦があった。
 活路とは、飽くなき闘争心が開く諦めのない“路”である。

応用事例-1          “日本と米国の経済情報戦”
 第二次世界大戦後、日米間においては、硝煙のない長い経済情報戦が繰り広げられていた。日本は、人、物、金を惜しまず、あらゆる手段を駆使して米国の経済工業会の様々な情報の収集に努めていた。1948年、米国空軍は航空機の翼の加工速度を高めるために、数値制御方式の旋盤の開発を秘密裏に計画した。早速、マーチン理工学院が、この空軍の研究開発の委託を受注した。当然、この委託の秘密保全は厳重であった。
 1952年、残念ながらこの情報は漏洩をし、日本に伝わっていた。日本はあらゆる手段を駆使して、この数値制御旋盤の秘密を探るための活動を行っていた。そして、マーチン理工学院の一人の研究生を買収することに成功した。内通者の彼を通じて数値制御旋盤に関する研究書類を手に入れた。これにより、更にこの資料の分析を進めて、遂に米側の設計上の欠点を突き止めた。これを基にして、日本は独自の開発を開始した。そして、4台の数値制御装置が同時に7台の旋盤を制御できるコンピュータを開発した。研究開発から生産まで、僅か6ヶ月であった。

 価値があればこそ“情報”である。価値のないものは単なる“資料”と呼ばれる。これが一般的な定義である。資料を情報と誤解していることが多い。貴重な資料であっても、これを分析評価し情報にできる能力がなければ“猫に小判”の例えになる。

応用事例-2          “シリコンバレーのスパイ防止策”
 シリコンバレーは、カルフォルニアの北部の小さな町であった。第二次世界大戦が終了した後、コンピュータ革命が起こり、このシリコンバレーもその影響を徐々に受けて発展していった。そして、このシリコンバレーは、世界の“電子革命の聖地”“半導体研究のメッカ”とも称され、世界中の注目を集める研究地となった。当然のことながら、世界中のスパイが暗躍する絶好の場所ともなっていった。まさに、ここは、時々刻々スパイが活躍する情報戦場であった。このため、米国政府は、各スパイ摘発組織の精鋭をこの地に派遣して米国の国益の漏洩の防止に努め、スパイ防止組織を構築した。
 1982年、米国政府は、シリコンバレーに、CIAとFBIの精鋭によって技術漏洩防止組織を設立した。DIAもまたこの地に特別部隊を駐留させた。DIAは、毎年、シリコンバレーにある各工場や研究所等に対して、数十万部に及ぶ秘密規定文書を発刊した。また、米国の税関も、一般人に成りすまして、シリコンバレーで商売の店の看板を掲げて、技術流出の状況を密かに監視していた。又、これと同時に、シリコンバレーに通じる港湾、道路、飛行場等の監視も常時行っていた。
 あるとき、一通の匿名情報が入った。それは“グーボ開発会社”の社長の告発であった。彼の名は、ドイツ人ブルックメンスンといい、従来からシリコンバレーにおいて最新技術の窃盗を働くスパイであることが判明した。直ちに、それぞれの組織の調査が開始された。 その会社が荷造りをした“高圧気化装置”と書かれた梱包箱を、税関は密かに開梱した。中身は箱に書かれた内容とは異なる“高級技術設備”であった。
 この窃盗団を一網打尽にするため、このことは秘密にして、その“高級技術設備”を箱から出して、箱に砂を積めて元通りに封印した。そして、この貨物を監視して、運搬経路における関係人を割り出し、ブルックメンスン一味の全体組織を洗い出した。そして、カリフォルニア全土の彼の事務所を差し押さえた。遂には、ドイツ当局とも連携して、関係各地の拠点の捜査を実施して、彼らの組織を根絶した。

 反間の計は、騙し合いの行動である。小の虫を生かして大の虫を取り押さえることが重要であり、このためには、地道でかつ長期的な準備と調査が必須である。
 軍は、警察と異なり、異国が対象である。異国の騙しの技は、想像以上である。騙し合いに、理屈は無い。必要なのは、ただ警戒心である。
  騙されたほうが負けである。 ただそれだけである。

(第三十三計 了)