イワン・チェンナムの中国便り
-中国兵法「三十六計」全36回(第三十五計)-

翻訳編集 イワン・チェンナム

 第三十五計  連環計(れんかんけい)“連環の計”

出典 《三国志演義》 第八表題 “王司徒巧使連環計”
 計画を次々と巡らして常続的な勝利を収める。


原文解釈 “将多く兵衆すれば敵にすべからず。それをして自ら疲れしめ、もってその勢いを削ぐ。師にありて中すること吉なりて、天寵を承ければなり。”
 敵の将兵が多いときには、まともに戦ってはならない。まずは謀略によって敵同士を牽制させて戦力を弱体化させることが肝要である。自軍の将軍が適切な指揮をすれば、天も味方して自ずと勝利が得られる。

考証  楚の王子は、国王の父が亡くなったときは、斉の人質となっていた。王子は楚に戻り国王を継ぐことを斉の王に懇願した。斉王は、この懇願を受け入れる条件として、楚の東方の領土を斉に割譲することを求めた。王子は、この条件を不本意ながら受け入れて楚に帰国して王位を継いだ。楚の国王となった王子は、頼りとする三人の将軍を招いて斉の要求に対する意見を求めた。一人目の将軍は、領土の割譲はやむなしとの意見であった。二人目の将軍は、徹底抗戦により領土を守るべきとの意見であった。三人目の将軍は、秦に救援を求めて領土を守るべきとの意見であった。国王となった王子は、悩んだ末に三人の将軍にそれぞれの意見どおりの行動を命じた。楚のあまりにも矛盾した行動に、痺れを切らした斉王は自ら進軍して楚に領土割譲の履行を求めて対陣した。まさに、両軍激突のそのとき、三番目の将軍が、秦の援軍を連れて楚に戻ってきた。これまで圧倒的な戦力を誇って対峙していた斉軍は、仕方なく撤退せざるを得なかった。
 強くても弱く見せかけ、勇敢でも臆病に見せかけ、近くにいても遠くにいるように見せかけ、遠くにいても近くにいるように見せかける。敵が利益を求めているときには誘き出し、混乱している時はその機に乗じ、充実しているときは疲れを待ち、怒っているときはかき乱し、謙虚な時は怒らせて、敵が団結しているときは分裂させる。

 たとえ、最初の作戦がうまくいかなかったとしても、次の作戦があり、その作戦がうまくいかなかったとしてもその次がある。
 作戦に限界はあるが、諦めはない。
  ましてや、国の存亡や国益を賭けた戦いには!

応用事例-1        “アイアコッカのムスタング販売”
 宣伝は、それぞれの利害得失があるため、色々な広告の利点を利用して、多層的に運用しなければ効果が上がらない。フォードのアイコッカは、自社の命運をかけてムスタングの販売を行った。このために、マスコミを含めた宣伝対策は以下のようであった。
 1 ムスタングの発表会に、新聞記者を100名以上と数百社の雑誌記者を
  招待して大盛況の如くに報道させた。
 2 ムスタングの発表前日に、2600もの新聞に広告を出して大々的に宣伝した。
 3 一番売れている“時代週間”と“新聞週間”の雑誌上に、「全く予想外のこと!」
  というタイトルの宣伝広告を載せた。
 4 ムスタングの販売開始と同時に、各テレビで毎日ムスタングの映像を流した。
 5 目立つ駐車場を選んでムスタングの全体写真を掲載した。
 6 全米の15の大飛行場と200以上の有名ホテルの前にムスタングを陳列した。
 7 全米数百万のユ-ザーに直接、記念品を送付した。
  この結果、これらの宣伝は、複合的な効果により空前の成果を収めた。
 初めは1年に5000台も売れれば成功と思っていたが、実際には418,812台も売れまくった。最初の2年間だけで、11億ドルもの純益を上げた。これにより、アイアコッカは“ムスタングの父”と呼ばれ、立志伝中の人物となった。当時のフォード社内においても、ここまでやら無くても良いのではないか、経費の無駄ではないかとの意見があったが、アイアコッカは、この七つをまとめてやるから効果があるのだといって、全ての宣伝を大々的に行った。宣伝の相乗効果を十分に理解していた。

 相乗効果とは、足し算でも掛け算でもない。相乗である。
  だから効果が大きいのである。

応用事例-2          “詐欺師の奥の手”
 ある日、香港の老舗の宝石店“三得”に、紳士が現れてダイヤを買いに来た。店主は丁重に応対したところ、紳士は12000米ドルの宝石を手に取った。店主は、これは上客に違いないと思い、これからもお得意様になってもらえそうだと内心喜んだ。そこで、店主は、10000米ドルに値引きすることを申し出た。紳士は、喜んだが、まだ別の品を見ていた。店主は、意を決して紳士に聞いた.“奥様にですか、別の女性にですか”紳士は“彼女にだ!”と答えた。紳士は10000米ドルを払って、このダイヤを買っていった。暫くすると紳士が戻ってきて店主に告げた。“これと同じダイヤをもう一つ欲しい、家内にも一つ買ってやりたいのだが”店主は、よくある話だと思った。しかし、同じダイヤは現在は無かった。紳士は“また金があるときに来る。同じダイヤであれば、この次は13000米ドルを払ってあげる。”店主は“同じものが入荷したならば直ぐにご連絡いたします”と客に告げて、客の会社の名刺を受け取った。数日後、妙齢の女性が、店主のところにダイヤを売りに来た。“どうしても急にお金が必要となったので、このダイヤを12000米ドルで買って欲しい”とのことであった。先日、紳士に売ったダイヤと同じものであった。これを買い取ってあの紳士に13000米ドルで売りつければ良い商売になる。この女性のダイヤを10000米ドルで買うことで話がついた。しかし、店には8000米ドルしかなかったため、残金は明日支払うこととして、店主は手付金として8000米ドルの小切手を女性に渡した。もちろんダイヤは残金と引き換えるため女性が持ち帰った。店主は、この女性は、あの紳士と親しい関係の女性であると思い込み、信用をしたのである。早速、紳士にダイヤが入荷したことを伝えるために紳士の名刺に記載してあった電話番号に、電話をした。その電話番号はホテルの電話番号であり、宿泊客には紳士の名前は無かったのである。
 この紳士と女性は詐欺の常習者であった。しかし、彼らの手口は、全額詐欺するのではなく、最初の紳士はダイヤをちゃんと現金で買っていったのである。これにより店主は紳士を信用したのである。これにより、店主は8000米ドルの小切手を詐欺され、彼らは、ダイヤを、結果として10000(買値)― 8000(小切手)=2000米ドルという破格の値段で手に入れたのである。
 又、彼らが使った名刺には高級な香水が浸み込ませてあり、上流社会の人々が用いるマナーまでも真似ていたことが、店主を信用させた小道具であった。

 人を騙す策略は、一つだけの仕掛けだけとは限らず、むしろ多種多様な手段を重ねて使用して相手を信用させる。また、この店主の欲望の弱みも多分に計算されていた。

(第三十五計 了)