硫黄島 戦後未だ!(硫黄島遺骨収集帰還事業に参加して)
第四話(その4) 遺骨収集・帰還事業体験記

山下 輝男

 第四話は、小生の体験記等である。作業の厳しさとその間に抱いた色々な思いを述べており、小生の意のある所を汲んで頂ければ幸甚である。なお、目次は以下のとおりであり長文となるので分割して記述することとする。


(その4)
3 参加所見
(1)英霊の声なき声を聴き!
 慰霊の島に身を置き、遺骨の収集・収容に係る作業を通じ、今なお眠る1万の英霊の声なき声に耳を傾け、切なる叫びを感じろうとした、半月であった。日本国として、国民として、全ての御霊を本来居られるべきところにお返しすることが重要な責務であることを改めて痛感した。
 国家が、最終的に責任をもって、御遺骨をご遺族のもとにお返しすることを保証し得ないようでは、国家たりえない。骨は必ず拾ってやると言って送り出した筈だ。その事をひしひしと感じて欲しいものだ。

(2)抜本的な収集方策が必要では?
 年に4回、一回の派遣団団員数が30数名で、然も一回の収容数が10柱にも満たない状況で、設定された集中期間中に1万に近い遺骨収集が果たして可能か?何が問題なのか?その対策を速やかに講じるべきだ。
 硫黄島のみならず、海外での遺骨収集についても同様である。国内外の文献の徹底的調査は当然だが、現地住民からの聞き採り調査も必要だ。それらの諸情報をデータベース化して整理、分析して可能性のある地域を検討することが必要だ。その為には、現地に相応の拠点を設けることをも考慮すべきではないか。現状のままでは戦後80年を目途に目途をつけるとの目標の達成は絶望的だ。

(3)遺骨収集の重要性等を更に広く国民に周知すべきでは?
 慰霊の島、鎮魂の地である硫黄島、その硫黄島に今猶一万近い英霊が懐かしの故郷への帰りを待ち侘びて居られる。そのお手伝いをすべく、今回のような収容団が編成されて御遺骨収集・収容を行っていることを国民の如何ほどが承知しているのであろうか?厚労省のHPや各団体の機関誌やHPではそれなりに周知の努力が為されてはいるが、果たしてそれで十分に国民に浸透していると云えようか?

(4)鹿島建設、防衛省との一体的な取組
 陸自は不発弾処理隊・化学部隊を同行支援、海自は収集作業への人員支援、宿泊提供、空自は輸送支援、収集作業への人員派遣を行っている。また、鹿島建設は、収集作業の支援、給食提供、売店利用許可を行っている。
 正にこれら諸機関等の一体的取り組みなしでは本遺骨収集・収容事業は成り立たない。それを実感した2週間余りであった。
 防衛省の遺骨収集における任務・役割をも考えても良いのではなかろうか?ただでさえ、多忙な自衛隊を遺骨収集に運用することには問題があるのは承知しているが、遺骨収集には人力が必要なことも事実であり、そのための特別な手立てを県とする必要もあろう。ただ、敢えて言うならば、任務・役割以外の役割を強要するようなことがあってはならないだろう。そういう事実があったという訳ではないが・・・

(5)推進協会設立の意義
 従来ばらばらに実施してきた遺骨収集収容を組織的一体的に実施し得る体制を構築したことにより、遺骨収集・収容が迅速に進むことが期待できる。勿論、各団体には夫々の価値観や思惑もあり、それが摩擦を生むことも有るかも知れないが、協会がその違いを見事に調整して呉れるだろうと信じる。
 聞けば、協会職員は、人類学特に骨学に関する研修を積んでいる。外国における遺骨収集においては、同行した人類学者の公式判定により日本人か否かを決するという。
 職員にも類似の能力はあるが、公式判定は下せない。民族識別には歯の形状を見るのが確実だとか。
 推進協会は、時限的機関とも云われるが、それまでの間に遺骨収集を概了できるのか?その後はどうするのか?課題は山積していると思えるのだが・・
 政治決断が必要だ。

(6)自然保護との節調
 御遺骨が有りそうな場所の見当がついても、環境保護地区に指定されている場合もあり、収集のための開削調査が出来ないことがある。環境・自然保護も重要であるが、遺骨の収集がより重要性は高いのではないかと考えたりするのだが…どのように節調すべきなのか課題だ。

(7)現場指揮法は如何にあるべきか!
 それぞれの現場での作業指揮の難しさを推進協会の職員は痛感したことだろう。ご苦労に敬意を表したい。安全管理や、指揮官不在時の判断の委任等指揮の要訣を体現した指揮をして頂けるようになるものと期待したい。
 初心者たると経験者たるとを問わず、参加者には今回の収集作業に関する全般計画、方針や具体的実施要領、任務に関する事項等、その他所要事項等を予め明示する必要があるのではないかと思う。陸自の運用法・指揮法に馴染んだ者からは、少々違和感があるが、慣れなければならないのかも知れないし・・・
 疑義の無い具体的な命令や指示が重要である。慣れている者が多いからと漫然と各種作業を進めたのでは、規律が弛緩し、重大な事故が惹起する懸念すらある。

(8)安全管理に万全を期すべし!
 遺骨収集は狭い壕内であり、然も崩落の危険性は極めて高いと判断した。今回大きな怪我もなく終了し得たのは僥倖であろう。壕内は勿論、壕の入口にも崩落しそうな岩石があり、ひやひやものだった。もし仮に崩落等により人命が失われることになれば、遺骨収集そのものが頓挫しかねない。今後の作業現場は、今まで以上に、より危険度の高い個所ばかりとなろう。危険見積を行い、事前に必要な安全管理対策を講じておくべきだ。実際の作業現場においても、安全主任者を指名して必要な指示を行わせなければならない。このような事を痛感させられた期間であった。
 小さなことかも知れないが、気になることを一つ。安全管理の第一歩は、服装の統一・徹底でもある。締まりのない集団は、烏合の衆と化し得る。心すべきだ。

(9)経験の継承を!
 全慰協としての参加は双方とも初参加であり、事前に経験者から話を聞く機会もなく、万事において後手・後知恵ばかりだ。今回の経験が次回以降の参加者に参考となれば幸甚である。現地追悼式や捧持・引渡式等もあり、少なくとも地味なスーツやネクタイが必要であり、参拝の際にお供えすべきものも何か準備する必要があろう。
 特に年度の最終回には、当該年度収容した御遺骨を捧持して、千鳥ヶ渕戦没者墓苑に引渡すと云う重要な任務があり、心して参加する必要がある。

(10)事前準備の周到を!
 己の旧軍特に陸軍に関する知識の無さに愕然となった。事前に帝国陸軍の軍装、一般的な携行品、出征兵士等の所持品、築城等に関する知識、専門的なことは不発弾処理隊に任せるとしても武器や弾薬に関する知識等々旧軍関係の資料館や各種資料をある程度勉強しておくと、遺骨の収集収容作業に大いに益する。小さな断片情報から推論するには相応の知識等が必要である。小生の後に続く者にはそのような準備を是非お願いしたいものである。

(11)過酷な戦場の追体験
 戦跡に身を置いて、これ以上ないと云うほどの過酷な状況、中将や将校・下士官の立場で、追体験が出来たのであろうか?まだまだ、小生の認識は甘いと云わざるを得ない。不幸にして、厳しい環境下で作戦をせざるを得ない場合もあろう。部下と共に生死を共にし、従容として部下がついてきてくれる、そのような究極の統率こそが求められる。現役ではない身なれど、元自の性か、斯かる思いに捉われた。

4 終わりに
 未だ帰れぬ数多の英霊の眠れる鎮魂の島、その無念の島からの故郷への帰りを切望する魂を如何に早くご家族の下にお返しするか、与えられた枠の中で一生懸命に、一兵卒として老骨に鞭打って働くことがご遺族の想いに応えることであると信じての本事業参加であった。
 遺骨収集事業の一端に触れ、ご遺族の心情等を肌で感じることができたのは有り難いことであった。本体験記が、後に続く諸氏の参考になれば望外の喜びである。また、  ご遺族や関係者でない方も、挙って本事業に参加して頂きたいものである。
 御遺骨の帰還なくして、戦後とは言えない。戦没者の帰還を果たした時こそが、戦後の始まりであるべきだ。今日の日本の復興と平和は、戦没者のお陰であると銘肝し、一日も早い全御遺骨の収容・帰還を果たすべきが国民の義務である。
 最後に、硫黄島離島前夜に作りし、絶句の仮文(平仄も合わせず、韻も踏んでおらず、帰宅後に大改造予定。)当時のわが想いなり。
 孤島巡壕耐灼熱 遠離妻子馳切想 奮戦敢闘終散華 捧持御霊向墓苑

(第四話 了)