第1回 北京における小さな日中防衛交流
-中国海軍将官との共同寄稿-

(本論文は元駐中国防衛駐在官(現防衛省統合幕僚監部防衛交流班長)の山本勝也1佐が海上自衛隊幹部学校主任研究開発官であった時に幹部学校ホームページのトピックス・コラムに投稿されたものを転載するものです。)

(コラム005 2011/8/31)

 今年3月、在中国防衛駐在官であった私は、中国における海洋安全保障の大家である楊毅(元中国国防大学戦略研究所所長、海軍少将)と共に、日中間の安全保障・防衛交流促進の必要性を中国国民に理解してもらうことを目的として、日刊紙「環球時報」に寄稿しました(この共同寄稿文は3月25日に「環球時報」に掲載され、翌26日にその英語訳が「GLOBAL TIMES(「環球時報」英語版)に掲載された)。

 今回、新聞社に提出したオリジナル文の日本国内における公表について楊毅少将より了解を得たので、日本語訳とともにここに紹介します。

 この寄稿文には2つの意義がありました。第1は、記憶する限り、この寄稿文が中国国内において中国人民解放軍将官と中国駐在の現役外国武官が共同で発表した史上初の文書であるという点です。

 中国駐在の外国武官が中国人民解放軍軍人と任意に接触することは難しく、また中国軍人も外国軍人と共同して意見を公表することにはリスクを伴います。対日関係の改善へ向けた中国政府の思惑と発表時期が合致したのかどうかは不明ですが、大幅な修正を受けることなく掲載されたことは、中国駐在の各国武官の中でも話題にもなりました。

 第2は、現在ソマリア沖・アデン湾において海賊対処活動を行っている自衛隊部隊が中国関係の商船を護衛し、中国の対外経済活動に直接的な貢献をおこなっている事実を、中国政府公認の新聞紙上を通じて中国国内で初めて公にしたという点です。

 中国国内では、中国海軍による海賊対処活動については積極的に報道される一方で、多国籍軍部隊や我が国の活動はほとんど報じられることがありません。そのため中国海軍の内部においてさえ、中国海軍部隊と我が国部隊との情報交換や中国商船に対する我が国部隊による護衛の事実を知らない者がほとんどです。

 7月31日現在、「海賊対処法」施行以降に我が国部隊が護衛をした船舶を、船舶運行会社の国籍別に見てみると、445隻の日系会社に次ぐ211隻を中国系企業が占めています。また、船籍別に見ると、便宜置籍船国であるパナマ、リベリアに次ぐ第3位として中国籍船舶は181隻を数え、そのうち日本に関連しない船舶は164隻を占めています。さらに乗組員を国籍別に見てみると、フィリピン、インドに次ぐ第3位として5120人が計上され、そのうち日本に関連しない船舶に乗り組む中国人は4248人に上っており、中国が我が国の海賊対処活動における最大の受益国であることが分かります。

 なお、これらの情報は、毎月初旬に更新された最新データが、国土交通省のホームページ上に「海賊対処法に基づく護衛対象船舶について」と題して公表されているのでご参考にしていただけると幸いです(http://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji_news.html)

【日本語訳版】

ウィンウィンの日中互恵関係を築く

 中国政府及び人民も「一衣帯水」の日本人に哀悼の意を表し、中国の最高指導者から一般大衆まで、外交当局から国防当局までそれぞれがさまざまな方法によりできうる限りの支援を提供する旨を申し出た。自然災害は不幸な出来事であるが、同時に災害の中で双方の関係を促進することも可能である。ウィンウィンで互恵の日中関係を構築することは、両国国民の根本的な利益に合致する。そこで我々2人は日中両国海軍の将校として、この機会が日中関係を新たな段階へ進めるチャンスと認識した。(楊毅)

1 日中関係は戦略的レベルから評価しなければならない (楊毅)

 日中両国は「一衣帯水」の隣国であり、「遠い親戚よりも近くの他人」として、町内の仲睦まじく、親しくもてなし、共に歩んできた。しかし、近年の日中関係は終始調和の取れていない現象が存在している。現在、日本の経済は緩やかな回復過程にある一方、中国は急速な成長過程にあり、政治・経済の影響力と軍事力は絶え間なく増強している。両国間の相互作用は両国人民の根本的な利益に対して極めて重要なものである。

 日中両国人民の数千年の交流の歴史は友好的関係が主流であったが、1930年代に日本による中国侵略戦争が発生した。その元凶は少数の日本の軍国主義分子であり、日中両国人民が共に災いを蒙った。日中国交回復後、両国関係は絶え間なく発展してきた。日本国民は戦争賠償請求を放棄した中国政府の大きな度量に深く感動を受けた。一方、中国国民は日本政府が提供したODAを忘れることはない。中国の経済と社会建設に対する日本の援助は、中国の改革初期における経済回復と発展において重要な役割を発揮した。その後、2010年に中国のGDPは日本を超え、世界第2位の経済規模となったが、一人当たりのGDPはもちろんのこと、経済社会建設の分野において中国は依然として日本に大きく後れを取っている。急速な中国の経済発展は日本に貴重なチャンスを提供し、日中両国貿易関係及び日中韓3国はアジアにおける協力の中で牽引役を発揮した。このように日中両国の経済は相互扶助の基盤に立っているが、安全保障の分野では、両国間に戦略的相互信頼関係は欠如し、依然として相互の猜疑心は深く、さらには海上権益における争いが存在するため、これをうまく処理できなければ対立が激化する。協力すれば双方に利益をもたらすが、戦えば双方が傷つくことになる。

 ウィンウィンで互恵の日中関係を如何にして構築するかが非常に重要な課題である。ウィンウィンで互恵の日中関係の構築は日中両国国民の根本的な利益に合致し、互恵は双方に利があることを意味する。自己利益の最大化を求め相手の利益を最小化させるものではなく、ウィンウィンの意味するところは、両国関係には相違が存在するけれども、相違を両国関係の大局に影響させないことである。ある意味で、日中両国の利益は、政治、経済、安全保障を含むいずれにも密接に関連し、東アジア、地球規模における重要な2つの大国として、両国関係を強化することの重要性は2国間関係の範疇を超え、地域の平和・安定と繁栄に影響を及ぼすカギであり、日中関係を戦略レベルの高度から見ることこそが、協力を拡大し、相違を縮小させる積極的な対応である。

2 日中両国民の知らない間に深化する日中防衛協力 (山本)

 2010年は日本国自衛隊と中国人民解放軍との関係は決して好ましいものではなかった。3月には東シナ海で行動中の海上自衛隊の艦艇に中国海軍のヘリコプターが異常接近し、10月には予定されていた日本国練習艦隊の青島訪問が寄港直前で中国側の申し出により延期となる等、日本国民にとって中国人民解放軍、とりわけ中国海軍の動向は好ましいものとして受け止められてはいない。一方、中国国内の報道による限り、中国の世論も日本国自衛隊を好ましい存在と見ていないように感じられる。

 しかし一方では、大多数の両国国民の知らないところで日中両国間の防衛協力が確実に進んでいることも事実であり、ここではその一端を紹介したい。

 近年、海賊等による襲撃が多発しているソマリア沖・アデン湾は国際的海上交通路の要衝であり、米、ロ、EU、印をはじめ世界中の海軍国が海上交通路の安全を確保するために部隊を派遣し協力している。当該海域を通航する船舶の大半は日本又は中国或いは日中双方に関係する船舶であり、我々日中両国がこれら国際的な海軍協力の最大の受益国であると言っても過言ではなく、このような状況に対し、中国は2008年末から、日本も2009年からそれぞれ部隊を派遣して同様に海賊対策に従事する諸外国部隊との協力を開始した。

 日本国海上自衛隊は現在アデン湾における活動のために護衛艦2隻と哨戒機「P-3C」2機を派遣している。護衛艦2隻は、船団を組んだ商船隊を搭載ヘリコプターと共に直接的に護衛し、哨戒機はアデン湾上を広く哨戒し、不審な情報を入手次第、活動中の各国海軍艦艇に情報を提供している。

 2009年派遣当初は日本国内法の制約上、「日本に関係のない外国籍船舶」を我が国自衛隊が護衛することはできなかったが、同年7月に新法が制定された後は多くの「日本に関係のない外国籍船舶」を護衛することとなり、2010年末現在では延べ約1000隻の外国船を護衛している。毎月末に日本政府から公表される報道資料によれば、日本部隊に護衛を受ける外国商船のうち中国籍船舶(今年1月末現在延べ162隻)が最も多く、日中本国から遠いアデン湾において、日本国自衛隊が中国の海上交通安全に直接的な貢献をしていることは明らかである。また昨年末の日本国内報道によれば、日本関係商船も中国海軍部隊の護衛を受けていたことが報じられており、中国海軍も日本の海上交通安全に直接的な貢献をしていることが伺える。

 また、アデン湾における日中両国部隊間の交流や協力も進んでおり、両国部隊指揮官が相互に相手の部隊を訪問したことは既に両国の報道により明らかにされている。現在では、両国艦艇部隊間の洋上における日常的な情報交換のみならず、前述の自衛隊哨戒機と中国海軍艦艇との情報交換さえも行われている。当然、それは東シナ海情勢を巡り日中関係が険悪化した昨年秋頃であっても途絶えることなく続けられ、こうした両国部隊の協力がアデン湾の安全確保に大きな貢献を果たしている。このような両国部隊の安全への貢献は、国際社会からも高く評価されており、これからの国際的な安全保障枠組みにおける日中防衛協力の最良のモデルケースであると言える。

 またアデン湾においてこのような協力・交流を体験した日中両国将兵は相互に相手のプロフェッショナリズムを高く評価し敬意を抱いていると聞いている。両国はそれぞれ約3カ月から4カ月を単位としてアデン湾に派遣される部隊を交代させており、このような交流と協力の継続は、多くの日本国海上自衛隊員及び中国海軍将兵が相手への理解を深めることに繋がるものである。

 日中両国はややもすると他方の悪印象に焦点を当てがちではあるが、こうした本国を遠く離れた洋上における両国将兵達の将来に希望を照らす活動にこそ、両国国民は目を向けるべきである。

 ギリシャ船等の護衛に従事した中国海軍部隊がギリシャを訪問した際に、ギリシャの海運業界が大歓待したとの記事が昨年後半に中国国内で報じられた。今年は、日本の海運業界が中国海軍部隊の日本寄港を大歓迎し、中国の海運業界が日本海上自衛隊部隊の中国寄港を大歓迎する報道を目にしたいものである。

3 交流を強化し、協力を促進し、ウィンウィンの互恵関係を構築する

(1:山本) 日本人と中国人との間ではしばしば相手に対する誤解に基づく文化的衝突が起きる。日本人も中国人も、欧米人と接する場合は、彼らが自分たちとは異なる文化風土をもっており、異なる思考、価値観の持ち主であることを容易に理解できる。これに対して日本人と中国人は、双方が同じ「漢字文化圏」に属し、同じ肌の色、眼の色をし、一見しただけでは中国人なのか日本人であるのかの区別がつかないことから、日中いずれも同じ価値観や考え方をしていると誤解しやすい。しかし、実際に歩んできた歴史も、生活している風土も異なる両国では、一般的生活習慣も、物事に対する思考過程も異なるものである。こうしたことは日本で生活したことのある中国人や、中国で生活したことのある日本人達は理解しているものの、テレビや新聞、インターネットといったメディアを通してしか相手を知らない大多数の両国国民には容易に理解し難いものなのだろう。それは当然、中国軍の将兵と日本の自衛隊員との間にも言えることである。

 これまでの日中間の衝突は、一方の常識の世界、バックグラウンドの中に、十分な相手の理解を得ぬままに相手を引き入れようとすることによって摩擦が生じていたのではないだろうか。一方の価値観の世界に他方を無理やりに引き入れ、相手がそれに慣れないうちに一方的な価値観を強要するがあまり、摩擦や衝突が起きているとも言える。

 こうした中では一つの解決策として、日中双方とも異なる舞台、それぞれのバックグラウンドとは異なる価値観の世界の中で、双方がいずれも異なる常識を備えているという前提に立って、対等な関係で交流と協力を進めていくことで、相手をより客観的に捉えることができるのではないか。

 現在、中米ハイチにおける国連平和維持活動という国際舞台を通じて日本の自衛隊と韓国軍は交流と協力を進め、互いをより理解しつつある。

 日中の間の場合も、東シナ海の問題等、いずれも自国の立場を譲ることは極めて難しいが、アデン湾の海賊対処活動や国連平和維持活動といった、日本でも中国でもない別の舞台で、国際社会への貢献という共通の理解が容易な目標を掲げて交流と協力を進めることが、地理的には日中両国から遠い場所ではあるものの、両国の戦略的互恵関係を構築するために最も近道となるものだと思う。

(2:楊毅) 相互に絡み合い密接に関係しているが、両国間に対立が存在することも疑いようのないことであり、これを回避することはできない。双方の率直かつ誠意のある意思疎通が必要であり、状況が許し、条件が成熟することを前提に、日中両国間の安全保障上の協力関係を少しずつ進めることが両国関係全体の促進にとって非常に重要である。

 日本は国際貿易に依存する国家の一つであり、そのため海洋権益、特に海上交通路の正常な安全に非常に関心を持っている。中国の経済発展における対外依存度も日に日に増大している。日本は海上交通路を日本の生命線と見ており、中国もまた海上交通路における航行と安全の確保を経済安全保障と国家全体の安全保障にとって極めて重要である。日中両国はこの分野の共通点を両国の安全保障上の衝突点としてはならず、両国のシーパワーの協力の起点とすべきである。中国が改革開放政策をとって以来、終始、経済の発展を国家戦略の中心に据えてきた。とても長い期間、国防及び軍事力に対する投資は相当に不足し、中国の軍事力建設は、他の分野の発展に比べ相当な遅れをとり、先進国の軍事力に比べれば、その差は日増しに拡大していた。ますます増加する安全保障上の挑戦や脅威に対し、近年になり国防と軍事力建設への投資は増大し、軍事力の近代化は顕著に進歩した。これは中国の国家利益上必要なことである。同時に日本を含む近隣国に疑問や心配を生じさせた。中国の軍事力の近代化の最終目的は何なのか、地域の安全・バランスに衝撃をもたらすものなのか、自分の安全を確保することが脅威を生みだすのではないか、客観的に見れば、日本を含む関係国の懸念は理解できるものである。ウィンウィンで互恵の安全保障関係を構築する上で、重要なことは相手の問題を正しく認識して解決することである。ある種の開放的かつ理性的な態度で相手に対応することである。軍事力の発展において、一方の安全は決して別の不安全を意味するものではない。近年の日本国内において中国の軍事力に対する懸念、甚だしきは恐怖といったものが絶え間なく増大しているが、こうした懸念は全く必要ないものと見ている。中国の軍事力近代化は、完全に国家の安全保障上の利益を守り、地域と世界の平和に貢献するためのものであり、中国が最近国防および軍隊建設への投資を増大しているのはそれらを補うためのものである。実際に中国人民解放軍は武器・装備の観点でみれば日本を含む先進国家の軍事力に比べて未だに大きな差がある。さらに重要なことは、中国は終始防御的軍事戦略を堅持しており、近代史において中国は軍事力を使用して日本人民を傷つけたことはない。疑いをはさむ余地もないことであるが、日中間には例えば東シナ海問題といった争いがある。しかし、これらの問題は外交交渉等を通じて平和的に解決すべきものであり、軍事衝突は最良の選択ではない。日中両国間に一旦軍事衝突が起きれば勝者はいない。周恩来総理が述べた「日中は二度と戦わない」は日中両国民の心の声である。相互に敵とせず、その他の二国間又は多国間軍事同盟によって敵対的な軍事圧力を形成せず、交流を強化し、協力を強化し、ウィンウィンを実現する。梁光烈中国国防相は日本の防衛大臣に対し、中国人民解放軍は被災した日本国民に対する人員及び装備を含めた必要な支援を提供したいと表明した。我々は日本国民が早期に困難を脱することを心から願うとともに、日中関係もこの天災を通じて新たな段階へ進むことを希望する。







(幹部学校主任研究開発官  山本 勝也)

本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。