第3回 防衛駐在官の見た中国 (その2)
-北京駐在武官団は小さな国連である-

(本論文は元駐中国防衛駐在官(現防衛省統合幕僚監部防衛交流班長)の山本勝也1佐が海上自衛隊幹部学校主任研究開発官であった時に幹部学校ホームページのトピックス・コラムに投稿されたものを転載するものです。)

(コラム008 2011/9/29)

このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官1として在勤中に得た雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。


 我が国の防衛駐在官を含む中国に駐在する各国武官が北京に着任すると、BMAC2と呼ばれる武官団に加入することになる。このBMACは北京に駐在する各国の国防武官、陸海空等軍種武官及び副武官により構成された任意団体である。その規模は102カ国180名強を数えるアジア地域最大3の武官団組織であり、今なお拡大の一途をたどっている。規模が大きすぎるために、BMACメンバー全員が一堂に会する武官団行事は場所の確保、日程の調整等が容易ではなく、1年に1度のAGM4と呼ばれる年次総会ですらメンバー全員が顔を揃えるのが難しい。

 そのため、平素は、地域別5或いは軍種別に活動6している。一方、BMACを代表した中国国防部(防衛省に相当)との交渉や、国防部から得た情報の周知及び武官団としての意見の集約など、BMAC全体を管理運営する機関として、EXCO7と呼ばれる幹事会が毎月定期的に開催されている。

 EXCOはBMAC団長8、地域代表、軍種別武官団長9等からなる小規模な会議であり、2010年4月から2011年5月までの間、私は海軍武官団長としてEXCOに参画した。その経験を経て得た感想は、「まさにBMACは小さな国連であり、EXCOは安保理である」という思いだった。

 その思いは次の2つの点から説明することができる。

 その第1は、地域代表や軍種武官団長はEXCOにおける議論や情報を各グループの定例会議等を通じてメンバーと共有するのであるが、故意であるのか過失であるのかは別として、メンバーへ伝えられるその内容は、EXCOにおける議論の全てを網羅しているわけではないという点である。もちろん、EXCOの議事録は後日BMACのメンバー全員に配布されるのだが、代表等による説明や議事録のみでは、EXCOにおける議論の雰囲気や、中国国防部からBMACに伝えられた真意などを理解することは容易ではない。EXCOメンバーでなければ得られない”モノ”が存在している。

 その第2は、対中2国間関係は別として、マルチの関係で見ると、中国国防部はBMACの総体的意思を尊重し、相応に配慮しており、その価値は大きい。一方でEXCOメンバーの恣意的な判断、母国の立場、個人的感情がBMACの運営に反映されかねない。例えば、イベントの日程調整や会場等の業者選定など日常的な問題から、BMAC全体として中国国防部に要望する際の文言の一字一句に至るまで、EXCOによってその大部分が形作られる。そのためEXCOメンバーであることはBMACの意思形成に直接参画できることを意味している。当然、主要な案件は地域別グループや軍種武官団に持ち帰って議論された上であらためて議決する手順を踏む。しかし、最終的にはEXCOに出席しているEXCOメンバーの考えに大きく左右されるのが実情である。また、EXCOの会議では、メンバーは平等に発言権を有し、その発言は相応に配慮される。さらに、たとえ対中2国間関係に問題が生じ、駐在武官として中国国防部にアクセスすることができない場合でも、EXCOのメンバーとしてのアクセスが可能であるなど、EXCOメンバーだけが得られる”モノ”が存在している。

 歴代EXCOの構成を見てみると、その時々に応じて地域代表、軍種武官団長等役職に違いはあるものの、ほぼ常続的にEXCOメンバーに名を連ねる、EXCOの有用性をよく理解したいくつかの国がある。

 国連安保理における議席の重要性については、国内外でしばしば議論されるところであり、BMACを国連と比較するのはおこがましいことではあるが、これらは北京における武官団活動から垣間見える小さな国際社会の一面である。

(幹部学校主任研究開発官  山本 勝也)


1 防衛駐在官(Defense Attache):防衛省から外務省に出向した自衛官であり、外務事務官として大使館などの在外公館に勤務し、主として軍事情報の収集などの任務についている。防衛駐在官は自衛官の身分を有しなくなるものの、自衛官の階級を呼称するとともに制服を着用することが認められており、派遣された国の国防関係者や各国の駐在武官との交流や情報収集を行うほか、我が国の防衛政策に対する国際的理解を深めるための活動を行っている。
 平成22年8月1日現在、36大使館2代表部に49名(陸23名、海13名、空13名)が派遣されている。
 国際的には軍人として各国大使館に勤務する駐在武官(Defense Attache, Military Attache, Army/Navy/Air Attache等)と同様に扱われている。
2 BMAC:Beijing Military Attache Corpsの略
3 東京に駐在武官を派遣している国は約25カ国に過ぎない。
4 AGM:Annual General Meetingの略
5 アジア太平洋、欧州、中東アフリカ、北米、ラテン米の別に区分されている。
6 3名の防衛駐在官は、アジア太平洋グループに所属するとともに、陸海空それぞれの武官団に所属している。
7 EXCO:BMAC Executive Committeeの略。BMAC団長、地域代表、軍種武官団長の他、AGMにより選出されたEXCO議長、EXCO書記、イベント・コーディネーター、スポーツ・コーディネーター及び武官夫人団長等がメンバーである。
8 BMAC団長:Deanと呼ばれ、各国国防武官のうち、最も先に着任した者から順に選ばれる。
9 地域代表及び軍種武官団長:各構成メンバーの互選により選ばれる。

本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。