第12回 防衛駐在官の見た中国 (その11)
-中国共産党と人民解放軍-

(本論文は元駐中国防衛駐在官(現防衛省統合幕僚監部防衛交流班長)の山本勝也1佐が海上自衛隊幹部学校主任研究開発官であった時に幹部学校ホームページのトピックス・コラムに投稿されたものを転載するものです。)

(コラム021 2012/02/20)

このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官1として在勤中に得た雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。



党の軍隊

 「中国人民解放軍は国防軍ではなく党の軍隊である」とよく言われている。

 中国の憲法では、「中華人民共和国の武装力量1は人民に属する」2とされ、また国防法では「中華人民共和国の武装力量は、中国共産党の領導3を受け、武装力量内にある共産党組織は共産党の規則に従って活動する」4とされている。人民解放軍の最高指揮権について憲法や国防法を見てみると、国家元首である国家主席の権限に「宣戦布告」、「動員令発布」を除く明確な人民解放軍への権限について触れられていない5一方で、(国家)中央軍事委員会は「全国の武装力量を領導する」6として、人民解放軍を含む全ての軍事力を指導すると明示されており、人民解放軍の最高指揮権は中央軍事委員会にあると見ることができる。さらにはこの中央軍事委員会は国家機関としての役割とともに、中国共産党の機関としての2面性を持っており7、(党)中央軍事委員会は、「(中国共産党の最高領導機関である)中国共産党中央委員会8の領導下にある党の最高軍事領導機関」9とされている。 

 以上のことから、人民解放軍は中国共産党中央(以下、党中央)が指導する軍隊であることは明白であり、「党の軍隊」と呼ばれる所以はここにある。筆者も人民解放軍の複数の将官から「人民解放軍は、『シビリアン・コントロール』ではなく、『パーティー・コントロール』である」と幾度となく聞いたことがある。

 この「党の軍隊」の「党」と「軍」との関係、いわゆる「党軍関係」は、筆者在勤中の関心事項の一つであり、勤務を経て得た結論は、一言で「党軍関係」というものの、党から見た「党軍関係」と軍から見た「党軍関係」に微妙な相違が感じ取れたということである。すなわち、一般の共産党員10を含む、中国国民が思い描く「党軍関係」と人民解放軍将兵の思い描く「党軍関係」は、別の絵柄であると筆者は見ている。


党から見た党軍関係

 一般的に、中国における「党軍関係」といったものは、冒頭に示したとおり、中国共産党中央による厳格な指導下におかれた人民解放軍とされており、そこに示される人民解放軍は中国共産党にとって、「客体」として扱われている。

 人民解放軍は党によって指導されている。それを制度的に保障するものとして、党の最高位である党総書記が中央軍事委員会主席11となり、副主席及びその他のメンバーはいずれも党中央委員会政治局員(又は常務委員)あるいは中央委員12の肩書きを有して、党中央との一体性を形作っている。党中央側から見れば、党中央のメンバーである党政治局員、中央委員等によって人民解放軍を指揮するシステムであると言える。

 さらに、中央軍事委員会のメンバーは、胡錦濤主席が共産党総書記、また習近平副主席が中央委員会政治局常務委員13である一方で、二人の軍人副主席は胡錦濤、習近平両名より党内序列においては1階級下(中央委員会政治局員14)に、またその他のメンバーがさらに1階級下(中央委員会中央委員)に位置付けられている。これにより中央軍事委員会において、シビリアンの党員が軍人党員の上位に位置する構図となり、いわゆる「シビリアン・コントロール」を形作っている。

 また、人民解放軍が一般的な国防軍と異なり、党の軍隊である最大の特徴は、軍の組織に党組織が組み込まれていることにある。具体的には、軍の指導機構である総参謀部をはじめとする4つの総部、大軍区、海軍総部15等の中央レベルから、艦隊、師団、さらには中隊レベルに至るまで、それらの規模に応じて党委員会、党支部16と呼ばれる組織が人民解放軍の機構の一部として組み込まれているということである。さらにこれら各部隊・機関の党委員会は、政治面のみならず作戦・訓練、教育、人事選考・賞罰、物資購入等あらゆる分野に関する、当該部隊・機関における最高意思決定機関17でもある。

 軍の各機関・部隊では、政治委員18、政治部主任19、政治教導員20又は政治指導員21(以下、政治委員等)と呼ばれる政治将校が指揮官と並列して部隊の指導者として位置づけられている22。特に、作戦指揮等における指揮官と政治委員等の連署、人事考課等、政治委員等が持つ権限は大きく、また一部の機関23を除いて、部隊の党組織における序列は、政治委員等が党書記として、党副書記たる指揮官の上位に位置する等、政治将校の優位性が保たれている。

 このようなに人民解放軍の隅々に至るまで党組織が張り巡らされており、党による軍隊の指導が形作られている。

 一方、人民解放軍以外の中国の社会においても、軍内部の党組織と同様に、農村の村落レベル、都市の自治会レベル、政府・公営企業・民間企業の機関・事業所レベル、大学及び小中高校に至るまで、規模に応じた党委員会、総支部、支部と呼ばれる党組織が張り巡らされている。彼ら末端の党員から見ると、共産党中央を介して末端党員を含む「全」中国共産党が人民を代表して、人民解放軍を指導しているものと見ている。

 筆者が接した党中央に近いいわゆる幹部と呼ばれる人々も、その多くは、党中央が共産党を代表して人民解放軍を指導していると述べていた。


軍から見た党軍関係

 一方で、人民解放軍将兵が言う「中国共産党」は「人民解放軍」と表裏一体のものであり、「主体」そのものである。

 共産党の意思決定機構として、全国代表大会及び地方各レベルの代表大会等が設けられている。人民解放軍は、それら地方各レベルの代表大会とは異なる軍独自に設けられた軍内各レベルの代表大会を経て、全国代表大会に人民解放軍代表を送り出している。また、党中央の最高意思決定機関である政治局常務委員会に軍人は入っていないものの、人民解放軍は中央委員会おいて一定の影響力を有する党内グループ24でもある。

 中央政府、地方政府等の党組織と党組織としての人民解放軍との結節は、党の意思決定メカニズム・ピラミッドの頂点で繋がっている。中央軍事委員会がその指導を受ける党中央委員会及び政治局(常務委員会)がそれにあたる。その結果、地方の末端部隊の党組織といえども、同じ地域にある他の一般党組織と認識を共有しているとはにわかに想像し難い状態にあると言える。

 人民解放軍内部に組織された党組織の指揮系統は、各部隊の作戦指揮系統と同様に上位機関・部隊から下位機関・部隊へと繋がっている。また、人民解放軍内部における党組織の構成員は全て人民解放軍の軍人あるいは軍籍をもつ文官であり、外部のその他の党員は関与していない模様である。また、部隊の政治委員等が服従すべき上司は、上位部隊の政治委員等である。

 政治委員等と呼ばれる政治将校も、所詮、軍人の職種の一つである。政治将校の養成・教育は主として陸海空軍のそれぞれの政治学院と呼ばれる士官学校で行われている。軍隊である以上、たとえ政治将校といえども軍人としてのプロフェッショナル性が求められており、軍人的センスがなければ部下同僚から評価されないのは、他の兵種・職種と同様である。

 部隊における政治将校の日常の任務は、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、江沢民の三つの代表論、胡錦濤の科学的発展観を用いつつ、将兵に対する生活指導や士気の維持・高揚等、自衛隊でいう訓育及び、部隊周辺の一般市民に対する宣伝活動等であると言える。

 さらに忘れてはならないのが、指揮官はじめほとんどの将校、下士官・兵の多くも、政治将校と同様に党員であるということであり、将兵にとって共産党は、政治委員等に代表される一般将兵とは対置した位置に置かれているわけではなく、自らもその一員であるとの認識を共有している。

 結果として、末端の将兵がイメージする中国共産党とは、部隊指揮官及び政治委員等が指導する部隊そのものであり、その延長線上には中央軍事委員会がある。将兵の考える中国共産党中央としての胡錦濤主席は、中央軍事委員会主席たる胡錦濤主席という存在にあるとみて大きな間違いはない。筆者が人民解放軍部隊を訪問し、将兵と懇談した際、彼らの多くは中央軍事委員会のリーダーである胡錦濤主席や習近平副主席は別として、政治局常務委員や中央委員に名を連ねるその他の中国共産党中央の指導者や地方指導者の名はおろか、地方政府や地方党組織については関心すら無いように見えた。


おわりに

 「権力(政権)は銃口から生まれる」と言った毛沢東及び、中国共産党・人民解放軍の歴史を振り返れば、我々こそ「真正」中国共産党と将兵が考えるのは自然の道理とも言える。建軍・建国当初から1980年代までは、党のリーダーも軍歴・戦歴を有しており、党と軍とが一体化していた。鄧小平は総参謀長25でもあった。

 しかしながら、今日、党の機関も人民解放軍もそれぞれにプロフェッショナル化が進んでおり、軍歴を有する党の官僚やリーダー26は少ない。たとえ、党中央への服従を強化する目的で、党官僚を落下傘的に部隊の政治委員に任命27しても、軍人として機能できるかどうか疑問であると同時に、そのような政治委員に対する職業軍人の反応は想像に難くない。

 「シビリアン・コントロール」と呼ばれる多くの民主主義国家が採用している政軍関係では、コントロールされる側である防衛力・軍事力は自らをそのコントロールする側にとっての客体であることを認識しているのが一般的である。

 「党の指導に従え」、「党の指揮を聴け」等の指示や文書が胡錦濤主席や中央軍事委員会から繰り返されるのは、以上のような「党軍関係」によるものなのであろう。

 成り立ち、あり方が異なる他国の組織を理解することはなかなか難しい。

 (幹部学校主任研究開発官  山本 勝也)


1 武装力量:Armed Forceの中国語訳。人民解放軍、武装警察部隊及び民兵の総称。
2 「中華人民共和国憲法」第29条。
3 領導:指揮、命令、服従を強いるといった強い権限
4 「中華人民共和国国防法」第19条。
5 「中華人民共和国憲法」第2節及び「中華人民共和国国防法」第11条。
6 「中華人民共和国憲法」第4節及び「中華人民共和国国防法」第13条。
7 李耐継編「新世紀新段階国防和軍隊建設」人民出版社、2008年、134頁。「中央軍事委員会は国家最高の軍事機関であると同時に、中国共産党中央の軍事領導機関である。党の中央軍事委員会と国家の中央軍事委員会は事実上ひとつの機構である」との記述がある
8 中央委員会:中国共産党の最高の指導機関。中国共産党全国代表大会(党大会)閉会中に、党大会を代行して党を指導する。
9 中共中央組織部編「中国共産党組織工作辞典」党建読物出版社、2001年、61-62頁。
10 中華人民共和国の国民全てが、中国共産党の党員であるわけではない。2010年末現在の党員数は8026万人(総人口の5.85%)。人民網(中国共産党インターネット)「90年間の中国共産党の党員数と組織の変化と発展」http://www.people.com.cn/h/2011/0705/c25408-2913881817.html、2012年2月10日アクセス。
11 2002年11月、江沢民が国家主席及び党総書記から退任したにもかかわらず、2004年秋まで「党中央軍事委員会主席」に、また2005年春まで「国家中央軍事委員会主席」にとどまった。この間、国家の役職はもちろん、党中央委員でもない江沢民が中央軍事委員会において、党および国家の最高位にある胡錦濤の上位に位置し、胡錦濤総書記率いる中国共産党と、江沢民中央軍事委員会主席率いる人民解放軍との制度上二つに分かれた例がある。
 一方、2012年秋の18期党大会を境に、胡錦濤は国家主席及び党総書記の地位を辞し、中国の最高指導部は胡錦濤体制から習近平体制に移行すると言われている。
 巷間、胡錦濤は江沢民同様に国家主席、党書記を辞任後もしばらくの間、中央軍事委員会主席にとどまるとの内外の憶測もあり、中国における「党軍関係」あるいは「政軍関係」の推移を図る上でも興味深い。
12 中央委員:中国共産党全国代表大会により選出される中央委員会のメンバー。
13  政治局常務委員:政治局常務委員会は中国における事実上の最高指導部。中国共産党の最高の指導機関である中央委員会及び政治局全体会議の閉会中に、政治局常務委員会が中央委員会及び政治局の権限を行使する。
 常務委員は、胡錦濤国家主席、呉邦国全国人民代表大会常務委員長、温家宝国務院総理等9名。
14 政治局員:政治局は中央委員会全体会議の閉会中に中央委員会の職権を行使する。また、党大会や中央委員会全体会議で採択された路線や方針、政策を執行する。
 政治局員は政治局常務委員の他、国務院副総理、北京等直轄市党委員会書記等が含まれる。
15 海軍司令官及び海軍政治委員を指導者とする、司令部、政治部、後勤部、装備部及び関係付属機関を包含した海軍指導機構の総称。艦隊はこの海軍総部に隷属している。
16 党委員会・党支部:連隊以上の機関・部隊に党委員会が置かれている。
 旧「中国人民解放軍政治工作条例」による。同条例は、2010年9月に改正された(中国政府HP、http://www.gov.cn/jrzg/2010-09/13/content_1701725.htm、2012年2月12日アクセス)が、新条例の詳細は公表されていない。
17 旧「中国人民解放軍政治工作条例」第23条。
18 政治委員:連隊以上の部隊・機関における政治分野の指導者。
19 政治部主任:旅団以上の部隊・機関における政治部(中央軍事委員会における総政治部に相当)の長。
20 政治教導員:大隊規模の部隊・機関における政治分野の指導者。
21 政治指導員:中隊規模の部隊・機関における政治分野の指導者。
22 総政治部及び部隊・機関の政治部(政治処)は、そのものが政治将校を主体とする党の機関であり、それぞれ主任と呼ばれる指導者により一元化されている。
23 総参謀部党委員会の党書記は総参謀長である。また海軍(空軍)党委員会の党書記は、海軍(空軍)司令官であり、海軍(空軍)政治委員は党副書記とされている。一方、大軍区党委員会や艦隊党委員会では、政治委員が党書記であり、軍区司令官や艦隊司令官は党副書記とされている。
24 203名の中央委員のうち、43名が人民解放軍から選出されている。茅原郁生「中国における党軍関係」『外交vol.4』時事通信出版局、2010年12月。76頁。
25 総参謀長としての勤務期間:1973年から76年及び77年から80年までの間
26 習近平副主席は、中央軍事委員会副主席に就任した際に、従来より公表されていた中央軍事委員会副主席秘書以外にも多くの軍に関する経歴(福建省高射砲予備役師団第1政治委員、福州軍分区党委員会第1書記等)を有することが報じられた。
 中国国防部HP「習近平(略歴)」http://www.mod.gov.cn/leader/2010-10/18/content_4201624.htm、2012年2月13日アクセス。
27 1990年代前後、鄧小平の指導により軍と地方(党)官僚との人事交流が図られた。
 劉源(LIU Yuan)総後勤部政治委員(大将)は、鄭州市副市長、河南省副省長等の地方政府の幹部を歴任したのち、1992年に武装警察に転籍(武警少将に任官)し、その後、武装警察副政治委員(武警中将)を経て、総後勤部副政治委員(陸軍中将)、軍事科学院政治委員を経て、2009年に大将に昇任し、2011年より現職にある。
 賈廷安(JIA Tingan)総政治部副主任(大将)は、江沢民秘書、上海市長秘書、中央軍事委員会主席秘書を歴任した後、1994年に中央軍事委員会弁公室副主任・中央軍事委員会主席弁公室主任(陸軍少将に任官)を経て、2007年より現職、2011年に大将に昇任している。

本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。




 「上級の部隊指揮官または幕僚としての職務を遂行するのに必要な知識及び技能を習得させるための教育訓練を行うとともに、大部隊の運用等に関する研究を行うことを目的とした海上自衛隊幹部学校は「戦略」、「作戦」、「国際法、国内法」、「戦史」等に関する調査、研究を行っています。
幹部学校では職員、学生の優れた研究成果をまとめて年2回を基準として『海幹校戦略研究』(非売品)を発刊しています。また、調査・研究の中核となっている戦略研究グループからの投稿を主とした「トピックス・コラム」をホームページ上にアップしています。今回紹介した山本1佐の論文も「トピックス・コラム」から転載したもので、その他にも様々なテーマについて発信されています。関心のある方は是非以下のURLをご参照下さい。
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