ソマリア沖海賊対策
-我が国周辺諸国の活動として中国の活動-

山内 敏秀

1948年 兵庫県生まれ
1970年 防衛大学校卒業
海上自衛隊入隊 主として潜水艦部隊で勤務
1988年 潜水艦艦長
1992年 海上自衛隊幹部学校教官
1996年 青山学院大学国際政治経済学研究科修了
1999年 防衛大学校海上防衛学教室助教授
2000年 防衛大学校国防論教育室教授
2004年 海上自衛隊退職
2006年 横浜商科大学講師(非常勤)
2009年 チャンネルNippon事務局

今回取り上げるのはソマリア海賊対処です。
我が国では平成21年3月21日に第1次の派遣部隊として護衛艦「さざなみ」と「さみだれ」が広島県呉市を出港、4月1日に終了した第1回護衛に始まり、41回の護衛任務を終了して8月16日に帰国しています。
第1次派遣部隊と交代した第2次派遣部隊の「はるさめ」、「あまぎり」によって7月28日から通算で42回目、海賊対処法に基づく行動として第1回目に当たる護衛任務が実施され、現在も継続されています。

ソマリア沖における海賊対処は我が国だけでなく、多くに国々がソマリア沖の海賊行為防止に関する国際連合安全保障会議(以下、国連安保理と言います)において採択された決議に基づき部隊を派遣し、活動しています。
今回はその中から我が国周辺諸国の活動として中国の活動を取り上げてみようと思います。

1993年、石油の純輸入国となった中国はそれ以降、海外の石油への依存を高めてきており、特に中東石油には大きく依存しています。したがって、中国にとって中東から中国にいたる石油輸送路の安全は戦略的に最も重視されています。その中国にとってソマリア沖の海賊行為によって航路の安全が脅かされることは看過できない事象です。
平成20年11月及び12月に中国船舶が海賊被害を受けるようになり、海賊対処のための部隊派遣が決定されたようです。

さらに、中国が12月16日の国連安保理決議採択から約10日後には部隊を派遣した背景に平成16年のインド洋大津波の反省があったように見受けられます。『当代海軍』という雑誌には、このときの津波災害の救援に米国は「アブラハム・リンカーン」空母戦闘群を派遣し、日本は「おおすみ」型輸送艦が派遣されたのに対し、中国は事態へ対応することができず、地域の大国としての役割を果たすことができなかったと指摘しています。
この津波に関する反省は中国が空母を持つ議論を補強するものとして書かれたものですが、今回のソマリア海賊への素早い対応にも反省は生かされているように思われます。

中国人民解放軍の機関誌である『解放軍報』はこの派遣の意義を中国の国家戦略利益を保護するために海外において軍事力を行使し、国際的人道主義を履行するために初めて海上作戦力を組織したとしていますが、同時に掲載された第1次派遣隊の指揮官杜景臣少将の「中国は大国としての責任を果たす」とした発言からも上記のことは伺うことができます。

このような背景の中、12月26日、海南島三亜の軍港から第1次派遣部隊が出港しました。第1次派遣隊は、「武漢」及び「海口」の2隻のミサイル搭載駆逐艦と「微山湖」という補給艦から構成されています。「武漢」は新しい世代のType052B、NATOコードでは「旅洋」型と呼ばれているミサイル駆逐艦の1隻で、2004年に就役した新鋭艦です。
「武漢」の性能・要目はその他の艦とともに文末に紹介しましたので、参照して下さい。「海口」は中国のイージス艦と呼ばれることもあるType052C、NATOコードでは「旅洋Ⅱ」型と呼ばれるミサイル駆逐艦の1隻で2005年に就役した最新鋭艦です。る両艦を見てみても中国の意気込みを伺うことができます。

さらに、これらの部隊には海軍陸戦隊特殊戦部隊の隊員も乗り組んでいます。
ソマリア海域に進出した第1次派遣部隊は、1月2日に交通運輸部から提出された護衛申請に基づき、1月6日から第1回目の護衛を開始し、8日に第1回護衛を完了しています。
以後、第1次派遣部隊は任務完了までに41回の護衛を実施し、212隻(166隻を直接護衛(中国側の用語では「伴随衛航」と言います)、46隻を間接護衛(中国側の用語で「区域衛航」と言います)しています。)を護衛という実績を残しています。

4月2日、第2次派遣隊が広東省湛江から出港しました。第2次派遣隊は「深?(しんせん)」ミサイル駆逐艦と「黄山」ミサイル・フリゲートの2隻から編成されています。「深?」は第1次として派遣された「武漢」、「海口」などを建造する際のベースになった艦で、2007年11月に中国艦艇として戦後初めて訪日したことで記憶にあることと思います。
「黄山」はType054Aと呼ばれるミサイル搭載フリゲートの1艦で、NATOコードでは「江凱Ⅱ」型と呼ばれる中国海軍の新世代のフリゲートで、今後の主力となると目されています。

4月13日、第2次派遣部隊は第40回目の護衛を終了した第1次派遣部隊と合流し、4月15日には第1次、第2次派遣部隊合同で第41回目の護衛任務を実施ししています。同護衛任務が終了した16日、第1次及び第2次派遣部隊の指揮官の間で任務の引き継ぎが行われ、その後、両部隊による最後の合同護衛任務が実施され、18日には第1次派遣部隊はアデン湾を離れ、帰国の途についています。
第2次派遣部隊は112日に及ぶソマリア海域での護衛任務に従事し、8月2日、「舟山」、「徐州」の2隻のミサイル・フリゲートから編成された第3次派遣部隊に任務を引き継ぎ、アデン湾を離れました。この間、45回の護衛任務で393隻の船舶を護衛するという実績を上げています。

第3次派遣部隊は第2次派遣部隊の「黄山」と同型の「江凱Ⅱ」型ミサイル・フリゲート2隻と「千島湖」総合補給艦の3隻から構成され、現在も任務を継続しており、8月27日には100回目の護衛任務を実施しています。
中国が実施しているソマリア海賊対処行動の注目点をいくつか紹介してみたいと思います。
その第一は、派遣部隊は船舶の護衛方法を色々研究しながら実施していることです。
8月3日には「舟山」が3隻の商船を直接護衛し、「徐州」はアデン湾の東方海上を哨戒することで間接的に護衛するという方法を実施し、9月4日には11隻の中国船及び外国籍船をリレー方式(中国語では接力?航方式と言います)で護衛し、9月7日には護衛する商船を船の速力によって組み分けして護衛するという方法(中国語では分?方式と言います)を採用しています。これらによって、中国海軍は作戦能力を向上させる実績を蓄積しつつあると言えるでしょう。

その第二は派遣された現地において、外国海軍との交流を深めていることです。9月2日、第3次派遣部隊は「アドミラル・トリブツ」を主力とするロシア太平洋艦隊の第3艦艇支隊(ロシアとしては通算第4次の派遣部隊になり、太平洋艦隊からは3番目の派遣部隊となります)とPASSEXと呼ばれる訓練を実施し、6日にはロシア艦艇支隊指揮官が「舟山」を訪問、中ロ両指揮官が交流行事を行っています。

さらに、中ロの両部隊は共同護衛任務を遂行し、18日には「和平藍盾―2009」と名付けられた共同訓練を実施しています。この訓練には通信訓練、会合訓練、艦艇とヘリコプターによる疑わしい船舶への対処訓練、洋上補給訓練、副砲による対水上射撃訓練が含まれています。また、10月10日にはNATOの508任務部隊指揮官との交流を行っています。
その第三は、護衛任務が終了し、帰投する途中、親善訪問を実施していることです。

第2次派遣部隊のミサイル駆逐艦「深?」は8月8日にインドを親善訪問、またミサイル・フリゲート「黄山」と補給艦「微山湖」は同日パキスタンを親善訪問しています。長期にわたる任務が終了した部隊の心情としてはまさに帰心矢のごとしと思われますが、海軍が持つ外向的機能を十分に活用する中国の姿勢は注目しておく必要があると思います。

ソマリア派遣部隊の艦艇紹介

ミサイル駆逐艦「武漢」

艦種記号:DDGHM
艦型:Type052B
NATOコード:LuyangⅠ(旅洋Ⅰ)
2004年7月就役
満載排水量:7,000トン
主機:CODOG(機関の組み合わせ方の一つで巡航時ディーゼル機関を使用し、高速時ガス・タービンに切り替える方式です)
2軸、可変ピッチプロペラ
速力:29ノット
対艦ミサイル(SSM):C-802(YJ-83/CSS-N-8:射程81マイル)
4連装×4
対空ミサイル(SAM):SA-N-12(射程:18.9マイル)48発搭載
砲熕兵器:56口径100mm単装砲1基
Type730 30mmCIWS×2
対潜兵器:324mm3連装発射管×2(Yu-2/5/6ホーミング魚雷(射程5.9マイル)搭載)
多連装ロケット×4(多用途?)
ソナー:バウ・ソナー、細部不明
搭載ヘリコプター:Zhi-9またはKa-28×1

ミサイル駆逐艦「海口」

艦種記号:DDGHM
艦型:Type052C
NATOコード:LuyangⅡ(旅洋Ⅱ)
2005年就役
満載排水量:7,000トン
主機:CODOG(機関の組み合わせ方の一つで巡航時ディーゼル機関を使用し、高速時ガス・タービンに切り替える方式です)
2軸、可変ピッチプロペラ
速力:29ノット
航続距離:4,500マイル/15ノット
対艦ミサイル(SSM):Yj-82(射程151マイル)4連装×2
対空ミサイル(SAM):HHQ-9(射程54マイル)6連装垂直発射機×8
(前部6,後部2)
砲熕兵器:56口径100mm単装砲1基
Type730 30mmCIWS×2
対潜兵器:多連装ロケット×4
ソナー:バウ・ソナー(細部不明)
搭載ヘリコプター:Zhi-9AまたはKa-28 2機

ミサイル駆逐艦「深セン」

 

 

艦種記号:DDGHM
艦型:Type051B
NATOコード:Luhai(旅海)
1989年1月就役
満載排水量:6,000トン
主機:CODOG(機関の組み合わせ方の一つで巡航時ディーゼル機関を使用し、高速時ガス・タービンに切り替える方式です)
2軸、可変ピッチプロペラ
速力:29ノット
航続距離:4,500マイル/14ノット
対艦ミサイル(SSM):C-8-2(Yj83/CSS-N-8:射程81マイル)
4連装×2
対空ミサイル(SAM):HQ-7 8連装ランチャー×1(CSA-N-4(射程7マイル)を装填)
砲熕兵器:56口径100mm連装砲1基
Type76A 63口径37mm連装機銃×4
対潜兵器:324mm3連装発射管×2(Yu-2/5/6ホーミング魚雷
(射程5.9マイル)搭載)
ソナー:DUBV-23船体装備中周波数帯域ソナー
搭載ヘリコプター:Zhi-9A×2またはKa-28

ミサイル・フリゲート「黄山」、「舟山」、「徐州」

艦種記号:FFGHM
艦型:Type054A
NATOコード:JiangkaiⅡ(江凱Ⅱ)
「黄山」、「舟山」、「徐州」:2008年就役
基準排水量:3,500トン、満載排水量:3,900トン
主機:CODAD(機関の組み合わせ方の一つで巡航時ディーゼル機関を使用し、増速あるいは高速時にはさらに別のディーゼル機関を追加する方式)
2軸
速力:27ノット
航続距離:3,800マイル/18ノット
対艦ミサイル(SSM):C-803(Yj83/CSS-N-8:射程81マイル)
4連装×2
対空ミサイル(SAM):HQQ-16VLS(前部に装備、32セル)×1
砲熕兵器:76mm単装砲1基
Type730 30mmCIWS×2
対潜兵器:324mm3連装発射管×2(Yu-2/6/7(射程5.9マイル)搭載)
ソナー:不明
搭載ヘリコプター:Zhi-9A×1

補給艦「微山湖」、「千島湖」

艦種記号:AORH
NATOコード:Fuchi
「微山湖」、「千島湖」:2004年
満載排水量:23,000トン
主機:ディーゼル×2
2軸
速力:19ノット
航続距離:10,000マイル/14ノット
搭載:燃料10,500トン、真水250トン、弾薬・資材680トン

(山内 敏秀 著)