「海洋基本計画(原案)」に関する個人的意見

河村 雅美

 現行の海洋基本計画は、平成20年3月18日に閣議決定されたものである。海洋基本法(平成19年7月20日施行)の規定によれば「おおむね5年ごとに、海洋基本計画の見直しを行い、必要な変更を加える」こととされており、丁度今年がその時期に当たる。
 この度、内閣官房総合海洋政策本部が新たな海洋基本計画(原案)を作成し、Webサイトを通じて広く国民の意見を募集したので、これに応じ以下のとおり個人的意見を提示した。
 なお、海洋基本計画(原案)は、次のURLから参照することができる。
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/public/kihonkeikaku_genan.pdf

1「海を守る国」として「交易の道としての海洋において、安全で効率的かつ安定的な海上輸送ルートを確保する」ことへの具体的な取組に関して

 本基本計画(原案)では、海賊対策やテロ対策として、ソマリア沖・アデン湾及びマラッカ・シンガポール海峡での取組について具体的な施策レベルまでの記述があるものの、我が国の原油依存度が極めて高い湾岸諸国からの海上輸送ルート全体を勘案した記述が殆どない。
(現行の海洋基本計画策定に際しても同様な意見を提示した。44/188ページ)
 今日、我が国のエネルギー事情は、3.11震災後の福島原発事故の事例もあり代替えエネルギーとして原子力に期待することは難しく、また海洋エネルギーについても直ちに利用できるとは言い難い。このような情勢を考慮すると、今後5年間を見据えた喫緊の課題としては、中東・湾岸地域から日本に至る原油・天然ガスの海上輸送ルートの確保ということになる。
 特にペルシャ湾及びホルムズ海峡については、この半世紀の間、同海域を含む地域での戦火が絶えず、通航船舶が被害を受けてきた事実があると共に我が国が掃海艇を派遣して機雷の除去に当たったことのある海域でもある。また、最近では一昨年に引続き昨年も、海上自衛隊の掃海部隊がアラビア半島周辺海域における国際掃海訓練に参加している。この様な新たな取組は、機雷を用いた海峡の封鎖等を抑止する効果が期待され、大いに喧伝されるべきである。
 これらを踏まえ、ペルシャ湾及びホルムズ海峡の安全確保についても一層踏み込んで言及すべきである。中東からの原油・天然ガスの海上輸送ルートを考えれば、ペルシャ湾及びホルムズ海峡を通峡せざるを得ないが、マラッカ・シンガポール海峡は迂回ルートをとることが出来るのである。

(参考)「パブリックコメントに寄せられたご意見及びご意見に対する考え方」(抜粋)

平成20年3月 内閣官房総合海洋政策本部事務局

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/public/bessi.pdf



2「海を守る国」として「領海、排他的経済水域等を守り抜く」ことへの具体的な取組に関して・・・大陸棚限界委員会(CLCS)の勧告が先送りされた九州パラオ海嶺南部海域(KPR)について

 本基本計画(原案)の第1部第3章「本計画における施策の方向性」(5)項「海洋の総合的管理」では、「当該委員会の勧告内容を踏まえ、勧告が先送りされた海域について早期に勧告が行われるよう引き続き努力するなど、大陸棚の限界設定に向けた対応を適切に推進する」としている。一方、CLCSが勧告を先送りした理由からすると、この施策の方向性は、実現性と具体性に乏しいものであることが危惧される。
 昨年6月3日に公表されたCLCSの勧告によれば、その理由は「口上書に言及された事項が解決される時まで、CLCSとしては勧告を出すための行動をとる立場にない」というものであった。沖ノ鳥島を基点とした我が国の大陸棚延長申請に対して、中国と韓国は「沖ノ鳥島は島ではなく岩だ」と主張して異議を唱え、口上書を以て日本の申請を認めないようCLCSへ意見を提出していた経緯がある。CLCSが勧告を先送りした理由がこの中韓の口上書である限り、この問題が解決される見込みはなく絶望的と考えざるを得ない。
 韓国はさておき、中国が何故、沖ノ鳥島に固執するのかと言えば、中国の防衛ラインとされる第1列島線と第2列島線の中間に沖ノ鳥島が位置し、将来そこが戦略的な要衝になると見なしているからに他ならない。沖ノ鳥島は「島」であり、そこから少なくとも200海里が、さらに九州パラオ海嶺南部海域までの大陸棚延長が認められれば、日本の排他的経済水域(EEZ)はパラオ共和国の領域に接するところまで拡がることになる。中国は、自国のEEZにおける他国の軍事活動を認めない立場をとっている。この立場を堅持する限り、中国は沖ノ鳥島を「島」とは認めたくないのであろう。
 そこでこの海域が我が国の領域であることを国際的に認知させるための具体的な取組が求められ、本基本計画は、そこを明らかにすべきである。
 CLCSの役割は、大陸棚限界の設定に関する科学的及び技術的な助言を与えるものであり、国連海洋法条約(UNCLOS)第76条(大陸棚の定義)以外の条項に関する解釈についての権限を与えられていないこと、また、UNCLOS附属書Ⅱ(大陸棚限界委員会)第9条の規定では「この条の規定(この委員会)は、向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における大陸棚の境界画定の問題に影響を及ぼすものではない」ことを銘記すべきであり、ここに示唆するものがある。
 つまり我が国のKPRの申請に対して理解を示し実質的に合意が得られているパラオ共和国との間でUNCLOS第83条(向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における大陸棚の境界画定)に基づき大陸棚の境界画定を行うことが先決であろう。
 その上で要すればCLCSへ共同で大陸棚延長の申請を行うということもあり得るかもしれない。
(了)
参考資料:大陸棚限界委員会(CLCS)の勧告と沖ノ鳥島の戦略的重要性