旱鴨子は深藍に向かうのか?(全2回/第2回)

山内 敏秀

3 注目の新造艦船
(1)2012年8月にType052Dミサイル駆逐艦の1番艦が進水しました。
 2004年に中国版イージス艦という触れ込みで「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦(Type052C)の1番艦の「海口」が就役し、翌年には2番艦の「蘭州」が就役しました。このミサイル駆逐艦は空母戦闘群を編成したときに防空の中核として期待されていました。しかし、能力不足が指摘され、3番艦以降の建造は確認されてきませんでした。
「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦の能力不足が指摘された際に目標とされたのが海上自衛隊の護衛艦「あたご」です。
 Type052Dミサイル駆逐艦は「あたご」を目標とし、「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦の能力不足の改善を目指して建造される「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦の後継艦です。
「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦の能力不足の大きな要因として取り上げられたVLSについては従来のリボルバー型のものからMk41と同じようなタイプに変更され、セル数も48から64に増加されました。ちなみに「あたご」のセル数は96です。

MK41 VLSから発射される対空ミサイル


(海上自衛隊提供)


 Type052Dミサイル駆逐艦で注目した点の一つは中国で建造された艦としてはじめて130mm砲が搭載されました。中国海軍の艦艇ではロシアから導入した「ソブレメンヌイ」級ミサイル駆逐艦だけが130mm砲を搭載しており、その他は100mm砲を搭載しています。戦例の研究から陸上に対する艦砲射撃支援は127mm砲以上でないと効果は期待できないとされてきました。と言うことは、中国海軍は同級の保有により島嶼への侵攻作戦能力を向上させたと言って良いと思います。
 これに関連し、先に「旅洋Ⅱ」級ミサイル駆逐艦の3番艦以降の建造は確認されてこなかったと書きましたが、3番艦「長春」が2012年に就役し、4番艦、5番艦、6番艦が建造中であると確認されています。
 これは、能力不足は否めないにしてもこれから編成される空母戦闘群の防空の中核としてイージス艦が必要との判断から繋ぎの措置として建造されたものと思われます。

(2)Type 056コルベット(軽型護衛艦)の1番艦「蚌埠」が2013年2月(3月という説もあります)に就役しました。
 同級について中国は基地防御の主兵力と解説していますが、「江滬」級(ミサイル)フリゲートの後継として近岸水域及び近海海域における一般的な経済生産、海洋開発利用、海洋権益の維持等日常的な防衛任務を担任するゴールキーパー的部隊の中核となると考えられます。
 1番艦「蚌埠」は4月8日から就役訓練を開始しており、第1線任務に就くのも遠くない時期と思われます。また、2番艦「大同」が2013年5月に就役し、さらに4隻が建造中と見積もられています。
 同級の主要性能要目は次のとおりです。

基準排水量:1,300トン
満載排水量:1,500トン
速   力:28ノット
主   機:ディーゼル
武   器:連装YJ-83対艦ミサイル2基
HQ-10対空ミサイル1基(RAMに近い打ちっ放しの自艦防御用ミサイル)
単装76mm砲1基
30mmCIWS 2基

「江滬」級の除籍は既に進んでいるようでしばしば報じられています。「江滬」級は機雷敷設能力を持っていましたが、見ていただくと分かるように同級は機雷敷設能力がありません。このまま「江滬」級がType 056コルベットに代替されていくと中国海軍の機雷戦能力に問題が生じる恐れがあります。今後、注目していきたい問題の一つです。

3 2012年8月8日に「渤海翠珠」という3万6000トンのフェリーが就航し、その式典が行われたのですが、この式典には国家交通戦略弁公室主任、総后勤部軍交運輸部長、済南軍区国防動員委員会常務副主任、済南軍区副司令員等が出席し、写真には多くの人民解放軍の軍人が写っています。
 (「渤海翠珠」の画像は前述の理由から掲載できませんので、関心のある方は「渤海翠珠」で検索されるか、以下を参照してみて下さい。http://news.ifeng.com/mil/chinapic/detail_2012_08/09/16677378_0.shtml
 この「渤海翠珠」というフェリーは通常は民間の豪華フェリーとして運航されますが、いざという時には人民解放軍、特に済南軍区がこれを運用することになるという位置づけにあります。
「渤海翠珠」が就航する前には人民解放軍が重装備の搭載等について能力試験を行っていて、装甲車両、火砲等数十両が搭載可能と言われています。
 2番船として「渤海晶珠」が2012年10月に完成しており、「渤海翠珠」、「渤海晶珠」に先立つ同年1月には瀋陽軍区で2万3000トンのフェリー「青島山」が就役しています。
 これらの動きは1982年のフォークランド紛争において英国が豪華客船の「クィーン・エリザベスⅡ」、「キャンベラ」を徴用し、兵員輸送に当てた戦例を人民解放軍が分析した結果と思われます。さらに、米軍が採用したJHSV(Joint High Speed Vehicle)も視野に入れたものと考えられます。JHSVは米陸軍と米海兵隊の1個中隊をその装備する車両とともに輸送することが可能で速力は43ノットと言われています。JHSVの前に米海軍のSea Lift Commandはオーストラリアが建造した2001年に建造した双胴型のフェリーをチャーターしWESTPAC EXPRESSとして運用してきました。WESTPAC EXPRESSの速力は33ノット、970名の兵員を輸送することができ、特に朝鮮半島有事の場合、従来よりはるかに早い時間で米海兵隊を半島に展開することができるとされています。

JHSV


出典:http://en.wikipedia.org/wiki/File:Joint_High_Speed_Vessel_concept.jpg

WESTPAC EXPRES


出典:http://www.navsource.org/archives/09/77/0977467601.jpg

 2004年のインド洋大津波で米国はもち論、日本にも後れを取ったという屈辱の思いを抱く中国は、地域の大国として人道支援、災害救援といった分野で適切に対処できる能力を持たなければならないと考えています。このためには戦略的なパワー・プロジェクション能力を獲得する必要があり、民間の力の利用も検討してきたと思われます。
 済南軍区では2009年7月には軽装部隊とはいえ、民間の海上輸送力を利用した部隊輸送の訓練を実施しています。

4 2013年1月に海軍工程学院の何琳所長が国家科技進歩2等奨、軍隊科技進歩1等奨を受賞しました。表彰の対象となったのは潜水艦の雑音対策技術の開発でした。現代の海上戦闘において潜水艦の雑音が大きいということはほとんど死を意味していると言っても過言ではありません。何琳所長も中国でこの点を鋭く指摘しています。しかし、それにもかかわらず中国の潜水艦の雑音低減対策はあまり進展していないようです。米海軍情報局の資料によると以下のようなイメージ図で描かれています。

中ロ潜水艦の静粛性の比較


出典:http://www.oni.navy.mil/Intelligence_Community/docs/china_army_navy.pdf


 このような状況を考えると潜水艦の雑音低減技術を開発した何琳所長が表彰されるのも当然とうなずけると同時に、やがて海上自衛隊の対潜作戦が厳しい状況に直面する日が来るのかもしれないと危惧せざるを得ません。

おわりに
 これらのことを整理してみると第1に言えることは、中国海軍は非戦争軍事行動への態勢造りを加速させているということです。先にも述べたように2004年のインド洋大津波への対応では中国海軍は何もすることはできませんでした。この反省から地域の大国として適切に人道支援などの非戦争軍事行動を行わなければならないとしており、海軍司令員の呉勝利も繰り返し強調しています。ソマリア沖海賊対処にいち早く部隊を派遣したこともこの非戦争軍事行動への中国海軍の取り組み姿勢を象徴するものと言えます。
 そのために必要なアセットを手に入れなければならず、空母のヘリコプターの組み合わせは極めて有用なものと位置づけています。さらに加えて事態が拡大する前に兵力の小出しではなく、一定以上の戦闘力を持つ兵力を展開する手段が求められており、中国海軍の水陸両用戦兵力の不足を補う方策として出現したのが「渤海翠珠」ということになります。
 第2は空母戦闘群の編成です。空母戦闘群は単に海軍作戦能力を極大化するだけではなく、空母戦闘群は「平時に海洋を遊弋(ゆうよく)する空母戦闘群は国家の声望と威信とを象徴」し、「軍事外交、プレゼンス(顕示存在)、危機の抑止等の強力な影響力を発揮する」と解放軍報(2005.7.20付)は指摘しています。
 米海軍、特に米空母戦闘群の圧力を直接体験し、K・ブースという政治学者が主張した海軍の外交的機能に着目したと思われる中国は海軍の政治的能を最大限に活用できるようには空母戦闘群の編成を急いでいると思われます。
 国産空母の建造、艦載航空団の編成、護衛部隊の中核となる中国版イージス艦の開発・建造などは空母戦闘群に対する中国の意欲を端的に表していると思います。
 第3は海の長城の再整備です。先に第1島嶼線は中国海軍にとって両刃の剣だと言いましたが、300万平方キロメートルの海洋を防護する長城であることには変わりはありません。ただ、第1島嶼線を構成する島々は台湾を含め中国の主権下にありません。このため、島々の間に存在する水道、海峡は中国海軍にとってアクセス・ポイントであると同じように敵にとっても東シナ海、南シナ海への侵入口となります。この侵入口を中国艦隊の行動の自由を確保しつつどのように塞ぐかは中国にとって重要な課題だろうと思います。
 第1島嶼線の前程で敵海軍の行動を抑えるとは言っても、そのすべてを押さえ込むことはできません。特に、潜水艦の侵入を阻止することは至難の業と言って良いと思います。
 中国が今後の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦をどのように運用しようとしているのか不明ですが、もし300万平方キロメートルの海域のどこかに聖域を設定して、そこで弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を戦略配備しようとするのであれば、第1島嶼線という海の長城を再構築しなければ信頼性のある第2撃力を保持することは困難です。
 それは、冷戦期に旧ソ連がオホーツク海北方に聖域を設定し、千島列島の各水道にKILO級潜水艦を配備して米国の原子力潜水艦の侵入を阻止しようとしたのと同じです。
中国海軍がロシアからKILO級潜水艦を12隻も導入し、KILO級潜水艦から発展したとされる「元」級潜水艦の建造、戦力化を急ぎ、Type 056コルベットを戦列に投入してきたのも海の長城を再構築する狙いがあると考えています。

(完)