内外に波紋投じた
〝準空母型”護衛艦いずも進水式に参加して

山田道雄


護衛艦 いずも (進水記念絵葉書から)


 平成25年8月6日、広島では原爆慰霊祭が行われたこの日、京浜工業地帯の一角横浜市磯子区新杉田駅付近は、炎天下多くの見物人の長い行列が続いていた。この日の午後、ジャパン・マリン・ユナイテッド(JMU)株式会社横浜事業所磯子工場で平成22年度計画護衛艦(22DDH)の命名進水式が行われた。
 正門の受付から立派なゲストハウス大ホールの控室へ。さらにバスで建造ドックサイドの式場に案内される。ドック内には見上げるばかりの巨大船体の2405号艦が艦首のくす玉と満艦飾に飾られ静かに出番を待っていた。




 執行者の武居横須賀地方総監が麻生副総理と江渡防衛副大臣を先導して入場し、式は定刻通り始まる。国家斉唱の後江渡防衛副大臣が本艦を「いずも」と命名した。同時に艦首両舷の艦番号「183」の標識上部に掲げられた看板の幕が開き「いずも」という艦名が現れた。
 続いて進水式行事に移り、麻生副総理と江渡防衛副大臣の2人により支綱が切断された。同時にシャンペン、くす玉が割れ海自横須賀音楽隊の奏でる「軍艦」と共に「いずも」は無事進水した。と言っても、ドック方式の進水なので船体は僅かに動くのみ。昨年の「ふゆづき」は伝統的な船台方式なので、くす玉が割れ華やかなテープを引いて滑り出し海水に進水する様はまさに絵になり、またこの情景に軍艦マーチがぴったり合い、見物者から思わず「万歳」の叫びが起こったほど。



 しかし、今回はすごく間延びして音楽も「軍艦」では間に合わず、続いて米海軍定番の「錨を上げて」が演奏される。盛んに打ち上げられる花火で賑やかではあったが、進水式がいつ終わったのかもあいまいな式典だ。しかも、支綱切断を2人が行うというのも前代未聞。おそらく政治的圧力でそうなったのであろう。
 帝国海軍時代、支綱切断は天皇陛下又はご名代宮様の名の下に、万一進水が失敗した場合の責任が取れるよう工廠長(海軍中将又は少将)が行い、常に自決用の懐剣を忍ばせていた。戦後になっても、自衛艦を建造する造船所のある工場長は、その覚悟を持って進水式に臨んだという。
 それほど由緒があり重要な命名・進水式に絡んで、崇高な任務を遂行する戦闘艦が最初から政治的に巻き込まれ、「いずも」の行く末が危惧される。というのも本艦に代わって退役する予定のDDH「しらね」の例があるからだ。海幕では当初「こんごう」という艦名に決まっていたが、自民党の大物政治家の圧力?により彼の選挙区にある山に因んで防衛庁(内局)段階で変更になり「しらね」にされたという。
 「しらね」は初のシステム(NTDS)艦として就役し、何度も観艦式のお召艦を務める等栄光の道を歩んだが、晩年に大火災を起こし搭載システムを全焼、一時廃艦を検討されたほど。因みにその大物政治家も5億円ヤミ献金問題で議員辞職に追い込まれ、更に脱税容疑で逮捕され晩節を汚すことになる。
 式典終了後場所を体育館に移して盛大な祝賀会が行われた。開会の後三島JMU社長、江渡防衛副大臣、石破自民党幹事長が挨拶、祝辞を述べ、香田JMU顧問が簡単な挨拶の後乾杯の音頭を取った。この間進水式の支綱切断に使用された進水斧が記念品として江渡副大臣に贈呈された。おそらく同じものが祝賀会には欠席した麻生副総理にも贈呈された筈である。
 JMU(ジャパン・マリン・ユナイテッド)と言うあまり聞きなれない会社は、今年1月、日本の造船業界をリードして来たユニバーサル造船とIHI-MU(アイ・エッチ・アイ・マリン・ユナイテッド)との2社が統合して発足した。そのルーツは日本鋼管、日立造船、石川島播磨重工、住友重工の4社で、艦艇部門では護衛艦、掃海艦艇、砕氷艦等、潜水艦以外のあらゆる艦種の建造を手掛けている。特に、IHI-MUのDDHを中心とする航空兵装技術と国内初のNTDS艦、イージス艦建造実績に基づくシステム統合技術には定評があるところ。
 石破幹事長の祝辞と香田顧問(元自衛艦隊司令官)の挨拶は、ほぼ同じ脈絡で簡潔にして要を得たものだった。防衛庁副長官、防衛庁長官、防衛大臣を通算2年余も歴任した石破幹事長は、DDH「はるな」の後継艦として約3倍の大きさの16DDH「ひゅうが」の計画、予算取得に防衛庁として如何に苦心したかについてさらりと言及し、現下の国際情勢下更に大型の「いずも」型護衛艦の建造、就役の意義についてかなり抑制的口調で述べた。
 一方、香田顧問は、海自創隊直後米海軍から軽空母2隻の貸与を打診されたが実現しなかったこと以来16DDHの計画に至るまでの、海幕としては悲願であったヘリ空母の計画建造の苦心の足跡を紹介した。2人とも多くのメディアを意識し、慎重な表現ながら実際に兵力整備に携わった者でなければ言及できない心情を吐露し、共に海上兵力強化の意義を強調するもので、両者気脈を通じたかと思われる挨拶であった。
 防衛省(庁)時代は、両者それぞれの立場で喧々諤々の議論もあったかと思われる。しかし、昭和40年代中期、鳥取から山を越え舞鶴の港で初めて就役直後の護衛艦「やまぐも」の雄姿に接した石破少年の心情は、新鋭艦「くも」クラスに憧れていた当時の香田防大生のそれと相通じるものであろう。
 香田元海将は、若年幹部時代からも海自部内で数十年に一度の逸材として期待され、海幕防衛課長、防衛部長、護衛艦隊司令官、統幕事務局長、佐世保地方総監の要職を歴任し、海幕長本命と言われていたが、自衛艦隊司令官を最後に海自を勇退した。一説によれば防衛部長時代2001年9月11日関連で、当時防衛庁の天皇とまで呼ばれた守屋防衛局長との間に政策立案上の齟齬が生じる等の事態が発生し、その後守屋側の人事的圧力もあったこと等が理由とされる。
 しかし、当日スピーチする彼のスーツに着けていた米軍勲章4個のうち、9.11関連で貰ったそれは彼の誇りである。防衛省内ではともかく米海軍からは正当な評価を受けた訳だ。退役後もハーバード大学アジアセンター上席フェロー(Senior Fellow)に招聘される等軍事言論界で幅広く活躍中で、雑誌等に投稿もしているが米国で発表した英文論文等多数。
 護衛艦(DDH)「いずも」は護衛艦(DDH)「しらね」の代替艦として建造されたが、「護衛艦」としては中途半端でその個艦装備は自己防御兵装に限定されている。すなわち、対空武器として高性能20mm機関砲 2基、対艦ミサイル防御装置(SeaRAM) 2基、対潜武器として魚雷防御装置 1式はいずれも近距離の自己防御機能しか有せず、2万トンの護衛艦を守るのに新たな護衛艦を要する事になる。
 「ひゅうが」型護衛艦(DDH)までは、その兵装から「護衛艦」との詭弁は何とか通じても、「いずも」型は世間では通らないだろう。いっそ護衛艦(戦闘艦)とせず平時は大規模災害対応、有事はヘリコプタ・両用戦母艦となる「多目的・多機能艦」とすれば良かったかも知れない。防衛省は16大綱以降基盤的防衛力構想の呪縛から解放されたのだから、代替艦の発想ではなく対処能力優先で理論的に必要な艦種は新規に作れたはずだ。
 最近直下型地震に備え首都代替構想が話題になったが、そのような大規模震災における政府や防衛省の災害対策指揮本部機能は、初期段階に何よりも優先して速やかに確立される必要がある。指揮通信機能の確保・抗たん性の面からそれらを洋上の「多目的・多機能艦」に置くのが最適であることは、関東大震災の貴重な教訓がある。公表資料を見る限り、「いずも」はある程度の輸送・補給・病院船機能は保有しているようであるが、新たな「多目的・多機能艦」は防災指揮・洋上拠点機能の確保上結果的には数万トンとなるかも知れない。しかし、政権交代のどさくさで16大綱の見直しが1年遅れるという情勢下、防衛省内に勇気をもってそのような発想をする者はいなかったのであろう。いずれにせよ、その意図の有無にかかわらず結果的に護衛を必要とするフネを作ったことは、「空母」建造の第1歩と見られてもやむをえない。
 当日のTVはじめ国内のメディアは、「自衛軍の1歩?」とする表現もあったが、おおむね「いずも」の進水を、「海自最大の護衛艦」で空母の形のような船型が特徴であるが、憲法で保有が禁止されている「攻撃型空母」には当たらないとする防衛省の見解と合わせて伝えていた。一方、中国メディアはこの中途半端な護衛艦を「右傾化の象徴」「準空母」と表現し、「いずも」の建造は専守防衛を逸脱し、日本は歴史の前轍を踏もうとしているのかとの疑念を呈している。確かに排水量(トン数)・全長からすれば、戦前の日本海軍の空母「飛龍」を上回り、米海軍の空母「ヨークタウン」に匹敵する。しかしながらその装備や搭載機種を見れば、とても彼らの脅威にはならないであろう。その反面、「大きい」ということは無限の潜在力を秘めており、武器の後日装備や換装(例えばSeaRamを国産対空アクティヴ・ミサイルに換装)、船体の小改造による搭載機種の変更(例えばアパッチ・オズプレイ等)により、強力な戦闘艦となりうるのも事実である。
 中国メディアの報道は意外と本心かも知れない。あの権威あるJane海軍年鑑ですら、輸送艦(LST)「おおすみ」の建造が公表された時、「ついに日本は空母建造の第1歩を踏み出した」と過剰に反応したほどだから。(数年後この記述は削除されたが)あれから20年、Janeの指摘は当たったのかどうか・・・
 いずれにせよ、石破、香田両氏も述べたとおり、これから就役までの1年半、建造所と吉野ぎ装員長以下ぎ装員の方々が一致団結して力を合わせ、勇壮・精強なフネと艦風を建造・醸成されんことを元「しらね」ぎ装員としては祈らざるを得ない。(了)


出典:「ウィキペディア」
(http://ja.wikipedia.org/wiki/いずも型護衛艦)
原典:http://p.twipple.jp/4UvLq