外国に意図を明確に伝える難しさ

元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 「産経新聞」(平成25年10月29日付)に西田令一論説副委員長が「『積極的平和主義』異聞」を書いていたのを読み、思い出したことがあった。
 氏は、外交安保会同の歓迎宴で、高位の英語国外交官が安倍首相の掲げる「積極的平和主義」を「アクティブ・パシフィズム」と表現したことについて、パシフィズムという反戦・不戦の色合いの濃い用語に対する違和感を感じたと語っている。
 安倍首相が訪米時に行った演説では「プロアクティブ・コントリビューター・ツー・ピース」(proactive contributor to peace:平和への積極的貢献国)となっていて、事が起きる前の対応という含意も加味され政権の路線と齟齬はないという。しかし、ウォールストリート・ジャーナルなどの米英紙や中国の新華社通信などは一様にパシフィズムの用語を使用しているし、日本の共同通信も英語発信ではパシフィズムを使用していると指摘し、「パシフィズム」が定着しはしないかと気にしている由であった。  従軍慰安婦問題でも、安倍1次内閣は「強制連行」に関して、間接的関与はしたが直接的関与の資料は出てこなかったという閣議決定まで行った。しかし、米国などでは「言い逃れの強弁」と見た向きもあり、理解しないままに下院では日本非難決議まで行った。
 内閣や外務省の報道官が、中国や北朝鮮の報道官のように口角泡を飛ばし、上ずった声で非難せよとは言わない。日本は日本らしく広報すればいいが、日本語という言葉の障壁が大きいことをしっかり認識して、まずは誤解を与えないように努力し、万一誤解があれば丁寧に正すことが必要ではないかとつくづく思う。
 国土交通省と東京都は国会議事堂周辺の道路標識をローマ字から英語表記に切り替える作業を進めている。「国会正門前」を「Kokkaiseimon」から「The National Diet Main Gate」へ、「外務省上」を「Gaimusyo」から「Min. of Foreign Affairs」に、という具合である。
 そもそも外国人に混乱をもたらしているのは何も国会周辺ばかりではなく、官庁や主要な道路などの日本的ローマ字表示である。例えば、「靖国通り」を「Yasukunidouri」などと表示されても、外国人は理解できない。ここは「Yasukuni Avenue(略してAve.」とか「Yasukuni Boulevard(略Blud.)」 とするべきところであろう。
 また、一説によると、国会をNational Dietと表現すること自体が古めかしいらしく、外国人には食糧に関わる何かとしか思われないらしい。「国会」は多くの国で普及している「Parliament」が現代的用語法の様である。
 長くなったが以上は前言で、以下の短い文章が本論である。数年も前のことであるが、遠洋航海部隊が米国寄港時に配布したパンフレットを入手したアメリカの友人が、疑問に思う幾つかの用語にマークして、パンフレットを手紙と同封してくれた。すぐに海幕に連絡し、善処を願ったことがあるが、どう処置されたかまでは関知しなかった。
 その一つに、日本がPKOを派遣し始めた頃のことで、「積極的貢献」についての指摘が強く印象に残っている。確か「aggressive contribution」という英訳表記であったと思うが、友人が言うには米国ばかりでなく多くの国には、また日本が〝侵略的″になるという意味にとられて、折角の日本の意図が台無しになるというものであった。
 オリンピックも招致することになったわけで、この際おかしなローマ字表記、例えば大阪を「OSAKA」とするなども、「OHSAKA」とするなどに変更した方がいいのではないだろうか。    (平成25年11月11日記す)