「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(25大綱)
        の注目点について

―25大綱の主要事項及び16大綱・22大綱との相違点―

元海上自衛隊・自衛艦隊司令官
村中 壽雄

 本稿は、平成25年12月17日付で国家安全保障会議及び閣議決定された「国家安全保障戦略」、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」及び「中期防衛計画(平成26年度~平成30年度)」について筆者の個人的見解によるコメント(注目点・批評・提言)を記述したものであり、文責は全幅筆者が負うものである。(26.2.6記)

1 策定の趣旨
 わずか3年前に見直された22大綱を25年末に見直しする理由としては、北朝鮮のミサイル開発の急速な進展中国の我が領海への侵入・領空侵犯を含む活動の急速な拡大、及び米国のアジア・太平洋域への軍事力展開重視政策に対応する必要がるとしている。また、初めて策定された「国家安全保障戦略」を踏まえて作成された最初の大綱である。

2 我が国を取り巻く安全保障環境
 グローバルな安全保障環境として、16大綱では国際テロ組織・非国家主体による重大な脅威、22大綱ではグレーゾーンの紛争増大をそれぞれ特記しているのに対して、25大綱では中・印・露国の国力の増大に伴う米国の相対的影響力の変化に伴うグローバルパワーバランスの変化及びグレーゾーンの事態の長期化と重大な事態への拡大の可能性を強調している。

 アジア太平洋域について、北朝鮮の大量破壊兵器・弾道ミサイル開発・大規模な特殊部隊の保持は差し迫った脅威とこれまでと略同じ表現である。
 また、中国については、その軍事力の急速な増大は今後注目していく必要がある(16大綱)国際社会の懸念事項(22大綱)という認識に対して、25大綱では大きく紙面を割いて中国の領海侵入、領空侵犯、特に東シナ海に防空識別区を設定したことを不測の事態を招きかねない危険な行為とした上、海空軍事力の北方海域・太平洋への活動範囲の拡大など最近の軍事動向等については今後も強い関心をもって注視していく必要があるとしている。

 ロシアについては、核戦力を含む大規模な軍事力の保有(15大綱、22大綱)に加え、25大綱では軍事力の近代化と軍の活動の活発化を指摘している。

 大規模武力紛争生起については、15大綱以来その蓋然性は低いとされてきたが、25大綱においても主要国間における蓋然性は低いとしている。

 このような情勢見積もりに基づき、我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、一国のみでは対応が困難であって、安全保障上の課題等への対応に利益を共有する各国が軍事・非軍事部門で連携して地域・国際社会の安定のため協調しつつ積極的に対応していく必要があるとしている。
(コメント)
このことは、目下、議論が高まっている集団的自衛権の容認に向けた布石と考えられる。

3 我が国の防衛の基本方針
(1)基本方針
 「我が国は、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守る」 という基本方針は、今回の見直しでもそのまま踏襲されている。

 前述のとおり、これらの4項目は、「国防の基本方針」の策定を受けて、確立された国防の基本政策であるが、今日及び見通し得る将来の我が国の安全保障を巡る環境に鑑み、文民統制の確保を除き、各項とも以下のとおり一部修正の必要があると考えられる。

ア 専守防衛について、「座して死を待つことを意図していない」(政府国会答弁)としながらも、相手国を攻撃することができる攻撃的装備は保有しないとしてきた。しかしながら、25大綱では「自衛隊の体制整備に当たっての基本的な考え方」として、弾道弾ミサイル攻撃への対応について「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる」と示されているのは。いわゆる敵基地攻撃能力の整備を示唆していると見受けられ妥当と考えられる。

イ 非核三原則遵守について、我が国は世界に先駆けて核兵器のない世界の実現に向けて核軍縮・不拡散のために積極的・能動的な役割を今後とも長期的に果たしていくとの方針を堅持しているが、現実の世界においては、インド、パキスタンは明示的に核保有国となり、イスラエルの核兵器保有は明らかである。北朝鮮の核兵器とそれを運搬する長距離ミサイルの開発が継続されており、イランの核兵器開発疑惑は依然として消えていない。我が国周辺地域にはロシア、中国に加えて北朝鮮からの核攻撃の顕在的・潜在的な脅威が存在し増大している。将来、南北朝鮮が統一された場合、我が国に対する核兵器の脅威は一層増大する可能性を否定できない。
 核兵器の脅威については、前述のとおり15大綱までは米国の核抑止力に依存するとしていたところ、22大綱以来、何故か「核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠」という表現に代えられ、25大綱では弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組みにより適切に対応する、とされている。
(コメント)
 筆者は、我が国の核兵器保有を推奨する立場をとらないが、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」の現在の基本方針を文字どおり堅持して、増大の一途をたどる核兵器の脅威に実効的に対応できるのか、検討すべき時期に来ていると思料する。

ウ 軍事大国にならないとは、防衛力整備上いかなる制約を課すことか、相手国、周辺地域の諸外国、世界各国との相対的な軍事力の量的、質的に、我が国はどのような制限を設けるのか、はなはだ不明瞭である。
(コメント)
 我が国は、核兵器は保有していないものの今や防衛予算額及び主要装備の量的規模は世界有数である。諸外国に不透明との疑惑を持たれないうちに、この看板は書き換えるべきであろう。

(2)我が国の防衛力
 昭和51年に初めて策定された防衛計画の大綱では、前述の基本方針を受けて我が国が保有すべき防衛力は存在自体による抑止効果を重視した基盤的防衛力された。
 冷戦後初めて見直された07大綱ではそのまま踏襲され、16大綱では「基本的に基盤的防衛力を踏襲する」こととされたが、51大綱の「限定的かつ小規模な侵略については原則として独力で排除する」という前提は、防衛力の役割の拡大を踏まえ削除された。
 しかしながら、22大綱では、我が国の安全保障環境の変化に対応して防衛力の役割が多様化し増大していることに鑑み、基盤的防衛力によることなく、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力を備えた「動的防衛力」を構築することとされた。これにより、我が国の安全を脅かす各種事態に能動的に行動し実効的な抑止と対処を可能とするとともに、地域かつグローバルな安全保障環境の改善に能動的に活動するとした。

 これに対して、今回の25大綱では、動的防衛力ではなく「統合機動防衛力」を構築することが示された。これは、多様な活動を統合運用によりシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行い得る実効的防衛力であり、幅広い後方支援基盤、高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靭性及び連接性を重視するとしている。

 高度経済成長の最中で冷戦の緊張が高まりあった昭和51年に、我が国が保有すべき防衛力に一定の歯止めをかける方針に従い「GNP比1%の防衛費」の制限の下で、リーゾナブルな防衛力の在り方として防衛庁シビリアンが中心になって確立された「基盤的防衛構想」が、平成22年の見直しで姿を消して新たに「動的防衛力構想」となり、3年後にはまた標題が「統合機動防衛力」に代えられた。
(コメント)
 冷戦時代の構想である「基盤的防衛力」は、「動的防衛力」を説明している役割も果たしてきており、単に防衛力の存在自体を重視しているとは言えない。また、25大綱の「統合機動防衛力」は、3年間の情勢の変化に対応した新たな防衛力というものではなく、民主党政権により決められ動的防衛力を自民党・安倍政権がそのまま踏襲するのを潔しとせず、無理に標題を代えたようにも見受けられる。

4 自衛隊の体制整備に当たっての重視事項
 この度の見直し(25大綱)において自衛隊の体制整備について示された注目すべき事項は、以下のとおりである。

(1)能力評価の実施
 想定される各種事態について能力評価を実施し、その結果、実効的な抑止と対処の前提となる海上優勢及び航空優勢の確実な維持のための防衛力整備を優先すると示されている。
(コメント)
 能力評価の結果、いかなる機能が不十分あるいは欠落しているのか明らかにされていないのは惜しまれる。「海上優勢」、「航空優勢」という軍事用語についていかなる概念か説明されていないものの、初めて用いられたことは注目に値する。

(2)着上陸侵攻のような大規模直接侵略に対する備え
  (16大綱):最も基盤的な部分を確保
  (22大綱):必要最小限の備えを保持
  (25大綱):最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持

 表現は違っており抽象的であるが、本格的侵略事態生起の可能性は低いものの、一部の兵力を保持することされている。本格的侵略の典型である本土への大規模な着上陸侵攻に対処する最も主要な装備である戦車は、16大綱の600両、22大綱では400両であり、25大綱では別表の主要装備から外されて、別表の欄外で将来300両の規模とすると示され、激減された。

(3)指揮統制・情報通信能力
 「陸上自衛隊の各方面部隊を束ねる統一司令部の新設と各方面総監部の指揮・管理機能の効率化・合理化等により、陸上自衛隊の作戦基本部隊(師団・旅団)等の迅速・柔軟な全国的運用を可能とする」と示されている。
 この指針を踏まえて後述するように、この度策定された中期防の中で、これまで議論の多かった「陸上総隊」の新編が初めて計画されている。

(4)島嶼部に対する攻撃への対応
 25大綱において、「島嶼への侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備することが示され、新中期防において「連帯規模の複数の水陸両用作戦専門部隊等から構成される水陸機動団を新編する」ことが計画されている。

(5)弾道ミサイル攻撃への対応
 25大綱において北朝鮮の弾道ミサイル能力を踏まえた我が国の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図りつつ、「日米同盟全体の抑止力の強化のため、我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方について検討の上、必要な措置を講ずる」と示された。
(コメント)
 このことは、冷戦時代から議論がある敵基地攻撃能力の整備を明らかにしたものであり、専守防衛の基本方針の下に限定的な攻勢戦力の保持を容認することに踏み切ったことは評価できる。

(6)国際平和協力活動等への対応
 ソマリア沖の海賊対応のために派遣される艦艇・航空機部隊の後方支援のために設けられたジブチ基地を、今後国際平和協力活動支援にも活用すべく恒久的に維持する方策を検討することとされた。

5 各自衛隊の体制について注目すべき点
(1)陸上自衛隊
   ● 機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団・機動旅団及び機甲師団)の半数を北海道に保持
   ● 島嶼部への部隊配備、各種部隊の機動運用、海自及び空自との有機的な連携・ネットワーク化を確立
   ● 島嶼部隊の侵攻の洋上阻止のため地対艦誘導弾部隊を保持
   ● 機動運用を基本とする部隊以外の作戦基本部隊の戦車及び火砲を中心とする部隊・装備を見直し

(2)海上自衛隊
 多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦部隊を保持。

(3) 航空自衛隊
 特に新たな部隊・装備について示されていない。

6 防衛力の能力発揮のための基盤について注目点
(1)武器輸出三原則の見直し
 「武器等の海外移転に関し、新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定める」こととする。

(2)民生技術の活用
 大学や研究機関との連携の充実により、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に努めるとともに、民生分野への防衛技術の展開を図る。

(3)防衛省改革
 文官と自衛官の一体感の醸成、防衛力整備の全体最適化、統合運用の強化、政策立案・情報発信機能の強化等実現のため防衛省の業務及び組織を不断に見直し、改革を推進する。

7 別表(16大綱・22大綱・25大綱)の比較)
  別添資料第1(PDF)のとおり。

(25大綱全般についてコメント)
 この防衛計画の大綱は、3年前に民主党政権が策定した22大綱と比べてかなり大きな変革が認められる。相変わらず、官庁の公文書らしい不明瞭で冗長な表現により、一般に理解され難いところがあるが、防衛力整備については中期防において明快かつ具体的に示されるべきであろう。
 防衛政策については、これまで全く見直しされなかった「基本方針」(4項目)について、今後、慎重な検討の上、改められることを期待したい。
 その他のコメントについては、各項・号の末尾に付記したとおりである。

(参考)
「日本の防衛(平成17年版、平成23年版)」
「防衛ハンドブック 朝雲新聞社刊」