「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」
の注目点について
1 計画の方針について主要事項
● 統合機動防衛力の構築
● ハード及びソフトについて即応性・持続性・強靭性及び連接性を重視
● 能力評価の結果を踏まえ重視すべき機能・能力を優先的に整備
2 基幹部隊の見直し等
(1)陸上自衛隊
> 各方面総監部の指揮・管理機能を効率化・合理化するとともに一部の方面総監部の機能を見直し、陸上総隊を新編
> 連隊規模の複数の水陸両用作戦専門部隊から構成された水陸機動団を新編
> 機動戦闘車を装備する部隊の順次新編と北海道及び九州以外に所在する作戦基本部隊が装備する戦車の廃止に向けた
事業を推進
(2)海上自衛隊
> DDH 1隻、Aegis System 装備DDG 2隻を中心として構成される4個護衛隊群に加え、その他の護衛艦から構成される
5個護衛隊を保持
(3)航空自衛隊
> 警戒航空部隊に1個飛行隊を新編して那覇基地に配備
3 自衛隊の能力等に関する主要事業
(1)各種事態における実効的な抑止及び対処
ア 周辺海空域における安全確保
> 哨戒能力を有する艦載無人機について検討し、必要な措置を講じる。
> 多様な任務への対応能力と船体のコンパクト化を両立させた新型護衛艦を導入
> 新たな早期警戒管制機又は早期警戒機の整備
> 滞空型無人機を新たに導入
> 海自及び空自が担う陸上配備の航空救難機能を航空自衛隊への一元化に向けた体制整備に着手
イ 島嶼部に対する攻撃への対応
> 航空優勢の獲得・維持の一環として、太平洋側の島嶼部における防空態勢の在り方について検討
> 海上優勢の獲得・維持のため、護衛艦部隊が事態に応じた活動を持続的に行うために必要な多用途ヘリコプター(艦載型)
を新たに導入
> 迅速な展開・対処能力の向上:
✓ ティルトローター機を新たに導入
✓ 水陸両用車の整備
✓ 現有輸送艦の改修
✓ 水陸両用作戦等における指揮統制・大規模輸送・航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、
結論を得る。
✓ 民間輸送力の積極的な活用について検討の上、必要な措置を講ずる。
> 指揮統制・情報通信体制の整備の一環として、陸上総隊の新編及び自衛隊専用回線を与那国島で延伸する。
ウ 弾道ミサイル攻撃への対応
> 弾道ミサイル防衛用の新たな装備品を含め、将来の弾道ミサイル防衛システム全体の在り方について検討
(THAAD, Land-based SM-3 の導入?)
> 弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。(対基地攻撃能力の整備)
エ 宇宙空間及びサイバー空間における対応
> 相手側によるサイバー空間の利用を妨げる能力の保有の可能性についても視野に入れる。(Active Cyber Defense 能力)
> 平素から、防衛省・自衛隊の知見や人材の提供等を通じ、関係府省庁との緊密な連携を強化する。
オ 情報機能の強化
> 滞空型無人機の積極的活用の推進
(2)アジア太平洋域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善
海洋国家である我が国の平和と繁栄の基礎である「開かれ安定した海洋」の秩序を強化し、海上交通の安全を確保するため、同盟国等とより緊密に協力し、ソマリア沖・アデン湾における海賊に対応するほか、沿岸国自身の能力向上を支援する。(Domestic & Global Maritime Domain Awareness の構築についての言及がない?)
(3)防衛力の能力発揮のための基盤
ア 装備品の維持整備について、その成果の達成に応じて対価を支払う新たな契約方式(Performance Based Logistics PBL)
の活用拡大を図る。
イ 国際共同開発・生産等や民間転用の推進が製造事業者と国の双方に裨益するものとなるよう検討・推進する。
ウ 装備品の効率的な取得:
> ライフサイクルコストを通じ、技術的視点を含め、一貫したプロジェクト管理を強化する。
> 随意契約が可能な対象を類型化・明確化し、その活用を図る。
> 各種の装備品の効率的取得を可能とする多様な契約の活用の検討
企業の価格低減インセンティブの誘因制度、長期契約、共同企業体の活用による受注体制の構築等
エ 防衛省改革の推進
文官と自衛官の一体化の醸成、防衛力整備の全体最適化、統合運用の強化、政策立案・情報発信機能の強化等の実現を果たすため、防衛省の業務・組織を不断に推進する。実際の部隊運用に関する業務の一元化を図るため、運用企画局の改廃を含む組織の見直しを行う。
4 防衛力の整備規模
別表に示されている主要装備品の整備規模(過去の中期防との比較)については、 別添資料第2(PDF)参照のとおり。
5 所要経費
「この計画の実施に必要な防衛力の水準に係る金額は、平成25年度価格でおおむね24兆6,700億円程度を目途とする」が、調達改革等を通じ「おおむね7,000億円程度の実質的な財源確保を図り、本計画の下で実施される各年度の予算編成に伴う防衛関係費は、おおむね23兆9,700億円程度の枠内とする。」
(新中期防についてコメント)
1 「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」を受けてこの中期防においても、統合運用重視の方針が各所に示されており、大綱には「動的防衛力」に代わる「統合機動防衛力」の構築が定められている。すなわち、自衛隊の運用を効率的・実効的ならしめるためには、統合運用があたかも金科玉条であるかのように防衛省・自衛隊をはじめ政府関係当局者が認識していると思われる。
このような統合運用至上指向は、ミリタリーの知見と経験が乏しい有識者等による米軍等諸外国に倣いさえすればよいとの考えに加えて、部隊勤務と実際の作戦行動の経験が乏しい制服組が安易に盲従したのではないかと推測される。周知のとおり、そもそも、米軍やNATO諸国軍と自衛隊の任務と作戦行動には大きな相違がある。自衛隊の実施する作戦は今後集団的自衛権が容認されたとしても直接攻勢的作戦に係ることはないであろう。
また、兵力整備については、確かに各自衛隊の装備が運用上重複し統一すべき分野はあろうが、統合化を推進しさえすれば経費の節減と円滑かつ効果的な運用が実現できると考えるのは早計である。
統合幕僚会議議長・統合幕僚会議が、統合幕僚長・統合幕僚監部に改められたのは平成17年度末である。その後、ソマリア沖海賊対処や東日本大地震災害救援活動などの自衛隊の行動が統合幕僚長の指揮のもと統合部隊として実施された。しかしながら、自衛隊の運用及び兵力整備について、それぞれ関係の自衛隊が主導し、あるいは相互に協同して実施していた当時に比べて、果たして今日の統合運用体制は期待どおり格段と大きな成果を挙げてきたのか、総括すべき時期にあると思料する。
2 「島嶼部に対する攻撃への対応」は、主に目下の尖閣諸島事案を念頭においたものであろうが、あらゆる事態にシームレスに対応できる態勢を備えるとし、情報機能を強化し、航空優勢・海上優勢を確立するとともに本格的な水陸両用作戦能力を速やかに整備することは、遅きに失しているとは言え評価できる。
最近の訓練・演習の状況を側聞するに、中国の我が領土・領域に対する既成事実(部分的あるいは全面的な占拠)を前提とし、我が国はこれを奪還する作戦に主眼を置いているように見受けられる。
しかしながら一旦占拠を許した後の奪還作戦は、彼我の戦力及び米軍の介入が必然と期待できない様相もあり得ることに鑑み、決して容易ではない。また、我が国の本格的奪還作戦は、双方の意図に反して全面的戦争状態にエスカレートする可能性も否定できない。
平素からあらゆる情勢と相手の既成事実確立の兆候を的確に見極め、先行して、あるいは情勢に応じて間髪を入れずに我が国が領有の事実を顕在化し、それを死守することが肝要であり、関係省庁との連携のもと、そのような作戦を可能とする自衛隊の装備を速やかに整備する必要がある。
最近明らかにされているように、中国海警局は2015年までに大型巡視船50隻を建造すること、及び中国海軍は各種戦闘艦艇の大幅な増強(2020年までにAircraft Carrier 6~9、Destroyer 30-34, Frigate 54-58, Corvette 24-30, Coastal Patrol (Missile) 85隻)を推進すると米海軍は分析しており、特に、”Houbei (Type 022)” class Guided-missile Patrol Craft PTGs (Trimaran hull, 220 ton, 36kt+, SSM mid-course guidance and active radar homing to 150km at 0.9 Mach sea skimming)を既に60隻保有しており、海警局の艦艇侵略行動のエスカーレーションに際して、初動の既成事実の確立に投入される海上戦力として、海軍の高速ミサイル哨戒艇は我が方の最大の脅威となる。
このような中国の尖閣諸島に対する侵略の脅威に備える海上自衛隊の兵力としては、この中期防において計画されている多用途でコンパクトな新型護衛艦に加えて、小型超高速ミサイル哨戒艇を多数隻整備することが急務である。これらの艦艇は、尖閣諸島対応とともに、周辺海域のグレーゾーン事態対応及び太平洋側を含むEEZの領域警備にも任ずることが可能でなければならない。
3 中国の尖閣諸島に対する領海侵犯事案のエスカレートの蓋然性に備えた島嶼部の攻撃対処能力強化のため、陸上総隊、水陸両用機動部隊の新編、戦車の保有数の大幅な削減など、我が国の長年の課題である、主として陸上自衛隊の大きな改革の実現が推進されることは大いに評価できる。
4 海上自衛隊の防衛力整備については、未だいわゆる「大艦巨砲」指向から脱却できていないところが見受けられるが(別表の自衛艦建造計15隻 約5.2万トン)、「多様な任務対応可能で、コンパクトな船体の新型護衛艦」の建造が計画されたことは画期的であり、グレーゾーンの事態に有効に対処可能なように、高速・多目的・運用の柔軟性が可能なコンパクト護衛艦ができるだけ多数隻建造されることが期待される。
5 無人機については、世界主要国軍は1万機を超える各種機(航空機・陸上走行ロボッ水上舟艇、潜水艇など)を保有しており、特にイラク・アフガン戦争において数多く運用している。一方、防衛省・自衛隊の無人機の利用は、これまで極く一部の試用にとどまっているが、この中期防で初めて滞空型無人偵察機が整備・活用されるほか、哨戒機能を有する艦載無人機についても検討の上、必要な措置を講ずることとされ、ようやく実用化が推進されることになったのは評価できる。
ただし、主要な装備等の整備規模を示す別表の欄外の注書きで、「哨戒機能を有する艦載無人機については、上記の哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする」と記されている意味は全く理解できない。この無人機は有人機の機能を補完するもので代替することはできないことを認識していないのではないか。今日においても、これほど無人機の有用性を理解していないとは驚きである。
6 島嶼部に対する攻撃への対応の一環として、「自衛隊の輸送力と連携して大規模輸送を効率的に実施できるよう、民間事業者の資金や知見を利用する手法や予備自衛官の活用を含め、民間輸送力の積極的な活用について検討の上、必要な措置を講じる」と示されているが、訓練演習や大規模災害救援活動、PKO・国際人道支援活動等における人員・装備・支援物資の輸送には有用であろうが、尖閣諸島を巡る武力紛争事態において果たして民間輸送力の活用が可能であろうか、身の危険を伴う行動に民間関係者・船舶を従事させることは到底期待できないのではないか。
一方、海上自衛隊の輸送能力の強化については「現有の輸送艦の改修等による」とされているが、新たに水陸両用機動部隊を策源地から敵性海岸に輸送する大型水陸両用強襲輸送艦及び警戒部隊の事前配備や平素の多用途海上輸送に任ずる多目的高速輸送艦の早急な整備が不可欠である。
7 防衛省改革の推進について、「文官と自衛官の一体感の醸成」が意図されているが、そもそも部隊運用について経験・知見のない文官と、一方、政治的顧慮を含む行政官としての経験・知見が皆無の自衛官の間で防衛力整備に関する一体感はあり得ない。むしろ非効率で実効性のない妥協の産物を生むだけで、決して「全体最適化、統合運用機能の強化、政策立案・情報発信機能の強化等」の実現は望み得ない。
防衛力整備に当たっては、文官と制服がそれぞれの観点から相互けん制することにより、過度なミリタリズムの独走と過剰なポリティクスの介入を抑制することが肝要である。
また、この改革によって、自衛官が部隊経験よりも中央行政機構で勤務することを望ましいとし、戦場において勝利を得るという究極の資質が乏しい幹部が上位の階級を占める恐れがある。それは自衛隊の戦力の弱体化に他ならない。
8 装備品の取得改革によって大幅な経費削減が見込まれているが、この実現には防衛事業関係企業の理解と協力が不可欠であることから、防衛省は防衛力整備に関する具体的方針と事業計画の細部についてできるだけ前広に公表する必要がある。この点に関しては、この中期防の内容は甚だ不十分である。
(参考)
「日本の防衛(平成17年版、平成23年版)」
「防衛ハンドブック 朝雲新聞社刊」