「特集・集団的自衛権」

今こそ問う!「集団的自衛権」(7)
-10の本質的論点について香田洋二氏に聞く-

聞き手:山田道雄理事

 当コーナーでは、「賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門」(幻冬舎刊)の著者で、自衛隊第一線部隊指揮官の経歴を持つ元自衛艦隊司令官香田洋二氏に、10個の本質的論点についてインタビューし、1問1答の形で10回に分けて配信します。


香 田 洋 二 氏 略 歴

2006年、佐世保地方総監当時
(ウィキペディアから)

1949年 徳島県出身
1972年 防衛大学校卒(16期)、海上自衛隊入隊
1990年 護衛艦さわゆき艦長
1992年 米海軍大学指揮課程修了
1996年 防衛庁海上幕僚監部防衛課長
1999年 第3護衛隊群司令
2001年 防衛庁海上幕僚監部防衛部長
2003年 護衛艦隊司令官
2004年 防衛庁統合幕僚会議事務局長
2005年 佐世保地方総監
2007年 自衛艦隊司令官
2008年 退官
2009年 ハーバード大学アジアセンター上席研究員
    (Senior Fellow)に招聘
現 在 ジャパン マリンユナイテッド(株)顧問
    国家安全保障局顧問



論点⑦:「個別的自衛権や警察権ででも対応できるのではないか?」


― 事例によっては、集団的自衛権の行使ではなく、個別的自衛権や警察権で対応できるとする意見がありますが。
香田 やや細かい議論になりますが、昨年7月の閣議決定の前に、集団的自衛権の行使に関して、こんな事例が話題になりました。紛争地から逃れる日本人親子を救助したアメリカ艦船が、日本近海で攻撃されたときに、日本の自衛隊はどのように対応するかというケースです。直接の攻撃を受けているのはアメリカの艦船なので、個別的自衛権に基づくこれまでの憲法解釈では、自衛隊を派遣し対処することはできません。この日本人親子の命を守るには、集団的自衛権を行使する必要があります。
 しかしこれに対して、「個別的自衛権や警察権で対応できるはずだ」という反論が出ました。自衛隊派遣の目的はアメリカ艦船の護衛ではなく、乗船している日本人の救出なのだから、このケースで集団的自衛権の行使は必要ないという考え方です。
 一見するとそれなりに説得力のある話ではあるでしょう。たしかに集団的自衛権がなくても対応できそうに思えます。
 しかし実のところ、これはきわめて危険な問題をはらんでいます。というのも、もし集団的自衛権を封印したまま、このようなケースにまで自衛隊を派遣するようになれば、個別的自衛権の定義がどんどん曖昧になっていくでしょう。自国民の保護という名目で、自衛権発動による武力行使の範囲が広がっていくわけです。
 ほとんどすべての戦争は、自衛の名のもとに行われてきたという人類の歴史を考えれば、自衛権の濫用は巌に慎まなければいけません。それゆえに、わが憲法と政府解釈の原点となっている国連憲章第51条の規定がつくられたのです。自衛権の濫用にしっかりと歯止めをかけるためには、できることとできないこととの境目を曖昧にせず、個別的自衛権と集団的自衛権という2つの段階で考えていくほうが、法治国家として責任のある態度だと私は思います。


― 警察権の行使で処理できるとの意見については。
香田 先のケースを警察権の行使で処理できると考えるのは、戦争の本質が分かってない人の発想です。
 警察権は、自国の法律を適用できる範囲で、違反者を取り締まるのが基本です。そのためには、違法行為があったことを示す証拠が欠かせません。しかし自衛権の発動による武力行使は、自国の法律が適用できない外国の軍や官が相手です。
 しかし、そもそも戦争とは、事態が終わるまで、自分たちがどのような相手と戦っているのか正確には分からないものです。特に事態の最初の時点においてはそうです。
 もちろん、相手がどの程度の能力を持ち、何を目的に攻撃を仕掛けてきているのかといったことは、収集した情報から類推して対応します。敵情を類推するにあたり、より正確な情報を収集するために、各国軍隊には軍事活動の1つとして独特の偵察行動があり、収集した情報は部隊として大規模に処理します。そのようにして得た情報をもとに、相手の正体を見極め、最適な計画を立てて行動を起こすのが軍事作戦です。
 それでも、攻撃を仕掛けてきた相手についての本当に正確なところは分かりません。事態が終結し、勝った側が相手を拘束し、作戦計画書や兵器などを押収して初めて、その実態が明らかになるのです。
 いままで我が国では、このような場合に、「相手が何者かわからないと武力行使の要件を満たさない」という理由から、防衛出動による対処はせず、警察が対応するという考えが定着していたと思います。しかし、国家の安全に関わるような重大な事案を引き起こす相手に対して、外国では、何者か特定できないからこそ、最悪すなわち最も厳しい事態を想定して軍隊を投入した対処を行うのが普通なのです。もちろん、何らかの情報により、最初の段階から、我が国の法律が執行できる「外国の軍隊ではない相手」と確実にわかっている場合は別です。
 このような点も、自衛権の発動による武力行使と警察権の発動との、本質的に異なる部分です。このような、相手が何者かもわからない事態において、警察が逮捕をすることはあり得ません。警察の法執行では現行犯逮捕でなければ、相手の氏名や罪状を明記した逮捕状が必要になります。
 たとえば尖閣諸島に武装漁民が上陸したというようなケースでも、海上保安庁の警察力で対応できるから、自衛権の行使は不要だという議論があります。たしかに、それが武装した漁民だという確証があるなら、警察力でもいいでしょう。
 でも、それが外国の軍事組織ではなく、武装した民間の漁民だと、なぜ判断できるのでしょう。その想定自体が、自衛隊を使いたくない、あるいはその対案として警察を使いたいという考えに基づく希望的観測にすぎません。漁民に偽装した特殊部隊である可能性は大いにあります。実際は、捕縛もしくは撃滅するまで、相手の正体はわかりません。結果的に武装漁民だったとしても、事前にそう決めつけて「100%警察力で対応できる」と判断することは不可能ですし、きわめて危険な行為といえます。
 アメリカ艦船に乗船した日本人のケースも、それが警察権で対応できるかどうかを事前に把握することはできません。それ以前にアメリカ艦船上で日本の法律を適用できないというのが常識的なところでしょう。何をか言わんや、です。すでに第3国で紛争が起きているならば、集団的自衛権を行使して自衛隊が護衛するのが、最も適切な対応です。
(第7回了)