平成23年版防災白書の注目点
山下 輝男

 平成23年版防災白書が刊行された。今年度版は、本年3月11日の東日本大震災後に発行されたものであり、東日本大震災に関する記述が主体である。
 然しながら、『東日本大震災に関しては,甚大な被害の全体像がまだ十分に把握できておらず,引き続き被災者生活支援が求められているほか,復旧も途上で,復興についての議論が緒についたところである。さらに,中央防災会議に「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」が設置されたほか,今回の震災に係る検証や教訓の抽出は,今後本格的に取り組まれることになる。また,原子力発電所事故に関しては,一刻も早い事態の収束に向けて,今なお総力を挙げた取組がなされていることに加え,事故の調査・検証については,今後,「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」において行われることとなっている。
 そうした段階での取りまとめにはなるが,現時点(平成23年5月末頃)での今回の大震災の状況及び対応について述べることにする。』となっており、聊か物足りない感は否めない。
 白書で注目すべきは2点であると思われる。第1点は、「第1部第4章今後の取り組みについての項3今後の防災対策に向けて」であり、第2点は、「参考資料16復興構想7原則」である。その2点を紹介する。

1 今後の防災対策に向けて(「新しい防災態勢へ6つの刷新」とも言えよう。)

 防災対策は,実際に発生した災害の状況及び対応について検証を行い,そこから得られる教訓を踏まえ必要な見直しを行うとの不断の努力の上に成り立つものである。今回の災害について,現段階では,被災者の支援及び被災地の復興が最重要課題であることは言うまでもないが,これらと並行して,その状況及び対応を検証した上で,今後の防災対策について,災害対策に関係する法制,体制,仕組み等のあり方を含め,必要な見直しを行っていくことが課題となる。
 そして,行政による災害対応力の向上,地域・住民・企業等による十分な災害への備え,あるいは防災意識向上のための国民運動の推進等,自助・共助・公助の総合的な防災力の向上を図るとともに,ハード対策とソフト対策を重層的に組み合わせた減災の取組を推進し,社会全体で大規模な災害への防災力の向上を図ることが必要である。
 東日本大震災を受けて,平成23年4月27日に中央防災会議が開催され,「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の設置が決定された。
 また,各省庁においても,各種の災害対策に関する点検や見直しのための検討が進められているところである。今回の震災に係る検証や教訓の抽出は,今後本格的に取り組まれることになるが,ここでは現時点での問題意識を述べる。

(1)想定災害の適切な見直し

 東日本大震災は,これまでの防災対策において想定された事態を超えた災害であり,今回の経験を踏まえ,今後想定される地震についても,想定(発生地,マグニチュード,津波高等)のあり方の見直しの必要がある。
 このため,上述の中央防災会議専門調査会では,今後,地震・津波の発生メカニズムや被害の把握・分析を行い,さらに,地震動推定における規模及び対象範囲や被害想定手法を検討することとしている。

(2)防災基本計画の見直し等による津波対策等の充実

 上述の中央防災会議専門調査会では,想定災害の再検討を行った上で,平成23年秋を目途に今後の地震・津波対策に関する取りまとめを行い,防災基本計画の見直し等の地震・津波対策への反映を行うこととされている。また,地域防災計画について,消防庁において東日本大震災を踏まえた見直しを支援するための検討会の立ち上げが決まっている。
 また,関係各省庁においても,災害情報提供のあり方や個別の防災施設整備のあり方等,ハード対策・ソフト対策両面での地震・津波対策の検討が進められている。具体的には,津波警報については,気象庁において,有識者及び関係防災機関からなる勉強会の立ち上げが決まったほか,海岸保全施設については,農林水産省及び国土交通省において専門の検討委員会を立ち上げ,検討が行われている。
 以上のような各機関における様々な検討・対応と連携を図りながら,想定災害の点検・見直しも踏まえつつ,津波ハザードマップの策定・見直し,海岸堤防等の施設整備及び土地利用計画や避難計画等の様々な対策を有機的に組み合わせ,想定を超える災害が発生した場合の対処にも配慮した効果的な津波防災のための計画の策定等が求められている。その上で,津波の観測体制の強化,調査研究の推進,津波に関する教育及び訓練の実施,施設の整備等を講じていくことが必要である。

(3)東海・東南海・南海地震(三連動地震)及び首都直下地震への取組の強化・促進

 南海トラフのプレート境界で発生する東海地震,東南海・南海地震については,それぞれの地震について対策が進められてきたところであるが,東北地方太平洋沖地震は,これらの地震が連動して発生した場合に備えた広域的防災対策の重要性を改めて認識させることとなった。今回の中央防災会議の専門調査会における地震動推定のあり方等の検討を踏まえ,東海地震,東南海・南海地震等が連動する海溝型大規模地震の対策の確立を図る必要がある。
 また,首都直下地震についても,今回の地震とは発生のメカニズムが異なるものの,首都を直撃する被害の大きさや経済社会に与える影響は甚大であり,首都中枢機能の継続性確保方策,帰宅困難者対策,膨大な数の避難者への対策等について,従来の対策の点検等を行う必要がある。

(4)広域災害への対応

 東日本大震災は,東北三県を中心として,東日本全体に被害が及んだ広域災害であることがその特徴の一つである。このような中で,多くの市町村の行政機能が損なわれたことも,これまでに経験することのなかったものである。
 発災直後の相当期間にわたって極めて広範囲の地方公共団体が十分に機能することができないという事態に備えるべく,国と地方公共団体の役割分担や市町村機能の補完のあり方についての検証を進めることが求められる。

(5)被災者支援のあり方

 今回の大震災においては,東北三県を中心として,多くの被災者が住家を失い,津波による浸水,地盤沈下,災害廃棄物の大量発生等も相まって,大量の被災者が長期にわたる避難所生活を余儀なくされる状況となっている。
 こうした災害実態を踏まえ,災害の発生地域,発生規模,発生時期(季節)等に応じて,避難所において良好な生活環境の確保を図るための取組の指針となる考え方や,支援のあり方等を明らかにしていくことが求められる。
 特に,高齢者,障害者,外国人,乳幼児,妊婦等の災害時要援護者に対しては,要援護者に配慮した災害情報等の伝達,避難行動の支援,避難所での生活支援等を推進していく必要がある。
 また,被災者に対する避難所より良好な生活環境の提供や,恒久的な住宅の再建がなされるまでの居住の安定という観点から,いわゆる二次避難の円滑な推進も必要である。
 さらには,避難所等への食事や物資の円滑な配給,災害ボランティアとの連携,男女のニーズの違いへの配慮,被災者の心のケア等を含め,被災者の視点に立ったきめ細かい被災者生活支援をより一層推進していくことが求められる。

(6)国際防災協力の更なる推進

 今回の震災経験から得られた知見や教訓を,国内の防災政策のみならず諸外国とも共有していくことが求められる。平成23年5月にジュネーブで国連が開催した第3回防災グローバル・プラットフォーム会合に内閣府副大臣が出席し,東日本大震災に対する各国からの支援への謝意を伝えるとともに,第3回国連防災世界会議をホストする用意があることを表明し,議長総括にこの表明が盛り込まれた。同月開催された日中韓サミットでは,東日本大震災の経験と教訓を踏まえた防災分野での三か国協力の強化が合意された。今後,被災地の復旧・復興に全力を尽くすとともに,今回の大災害に対して十分検証を行い,国外への情報発信に取り組んでいくことが求められる。



2 復興構想7原則

 遅々として進展しない復興に被災地のみならず、全国的に不信感が広がっているようだが、新政権には強力なリーダシップを発揮して欲しいものである。以下7原則を紹介する。

復興構想7原則
平成23年5月10日
東日本大震災復興構想会議決定

 「東日本大震災復興構想会議」においては,4月14日の第1回会議以来,精力的に審議を重ね,また,一連の現地視察を実施した。
 6月末目途の「第1次提言」に先立ち,本日,当会議は,「復興構想7原則」を策定したので,これを公表する。
 今後,この7原則に基づき,各界・各層のご意見を仰ぎつつ,さらに議論を深め,未来の日本にとって希望となる復興の「青写真」を描いていきたいと考える。

原則1:失われたおびただしい「いのち」への追悼と鎮魂こそ,私たち生き残った者にとって復興の起点である。この観点から,鎮魂の森やモニュメントを含め,大震災の記録を永遠に残し,広く学術関係者により科学的に分析し,その教訓を次世代に伝承し,国内外に発信する。
 
原則2:被災地の広域性・多様性を踏まえつつ,地域・コミュニティ主体の復興を基本とする。国は,復興の全体方針と制度設計によってそれを支える。
 
原則3:被災した東北の再生のため,潜在力を活かし,技術革新を伴う復旧・復興を目指す。この地に,来たるべき時代をリードする経済社会の可能性を追求する。
 
原則4:地域社会の強い絆を守りつつ,災害に強い安全・安心のまち,自然エネルギー活用型地域の建設を進める。
 
原則5:被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。この認識に立ち,大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す。
 
原則6:原発事故の早期収束を求めつつ,原発被災地への支援と復興にはより一層のきめ細やかな配慮をつくす。
 
原則7:今を生きる私たち全てがこの大災害を自らのことと受け止め,国民全体の連帯と分かち合いによって復興を推進するものとする。