東日本大地震に対する海上自衛隊の活動状況
水交会研究・普及委員会幹事:岡 俊彦

 成23年3月11日午後2時46分に東北地方太平洋沖一帯を震源地とするマグニチュード9.0の大地震が発生した。発災から約3時間後に自衛隊に対して大規模震災災害派遣命令が発出され、翌々日の午前7時には自衛隊の派遣規模を10万人に拡大して、現在まで自衛隊のよる捜索、救助、復興支援活動が継続されている。

 新聞、テレビ等のマスコミでは3週間余り経ったこのごろ(4月1日)、ようやく自衛隊の活動の状況が採り上げられるようになり、自衛隊の活動の状況が国民の目に触れるようになってきた。自衛隊の活動の状況を正しく認識することは、公共財としての自衛隊に何ができて、何ができないかを知る上で、大切なことである。そこで、自衛隊の中でも国民の目の届きぬくい海上を活躍の場とする海上自衛隊の活動状況を概観し、その活動の特徴について述べてみたい。

政府、自衛隊の主な対応状況

 地震発生後の主な対応状況をまとめてみると以下のとおりである。

3月11日14時46分:宮城県北部で震度7の地震発生
14時50分:防衛省災害対策本部設置(本部長:防衛大臣)
自衛艦隊司令官、出動可能全艦艇に出港命令
14時52分:岩手県知事より災害派遣要請
15時15分:海自第2航空群P-3C哨戒機1機離陸
18時00分:大規模震災派遣命令下令
19時03分:原子力緊急事態宣言発令(福島第1原発)
19時30分:原子力災害派遣命令
3月12日07時45分:原子力緊急事態宣言(福島第2原発)
3月13日07時00分:防衛省自衛隊派遣10万人規模に拡大
3月14日11時00分:東北方面総監を指揮官とする統合任務部隊を編成
3月15日14時10分:福島第1原発の半径30km圏内を飛行禁止(国交省)
3月16日11時58分:予備自衛官及び即応予備自衛官の災害派遣等召集
自治体支援物資の自衛隊機による空輸決定
3月18日東北地方太平洋沖地震による被災地域において、
自衛隊の部隊が実施する救援活動等に係る
予備費の使用を閣議決定(約54億円)

 上記のまとめから今回の災害派遣は、阪神淡路大震災と比較して次の違いがある。

1.地震、津波、原子力災害の複合した事態(脅威)への対応が求められた。このため大規模な自衛隊の部隊等を派遣したこと。中でも、陸上自衛隊は約16万人の体勢の中で約7万人(44%)を派出。また、初めて即応予備自衛官を招集(400名)。 また、米軍の対応も迅速であり、日米共同により効果的な対応を行なっている。

2.初めて統合任務部隊が編成された。阪神淡路大震災等の教訓を踏まえ2005年3月に統合幕僚監部が新編され、これを契機に、自衛隊の運用は統合運用を基本とされていたが、統合任務部隊として初めて編成され、対応することとなった。

3.福島原発への対応を除き、地震に対する初動の対応が極めてスムーズであった。阪神淡路大震災以来、地方自治体と自衛隊の防災訓練が浸透し、極めて円滑に災害派遣要請がなされ(最初の要請は、発災後6分)、また、自衛艦隊司令官による全艦艇に対する出港命令は発災後4分、P-3C哨戒機による状況偵察は発災後30分に開始された。災害派遣命令も発災後3時間14分後に発令されている。

派遣規模等

1 全般
  陸上自衛隊東北方総監を災害統合任務部隊指揮官として、この隷下に陸災部隊(指揮官:東北方総監)、海災部隊(指揮官:横須賀地方総監)、空災部隊(指揮官:航空総隊司令官)を擁し、人員約10万6300名(陸災部隊:約7万人、海災部隊:約1万4500名、空災部隊:約2万1千名、原子力災害派遣部隊:約500名)、航空機約540機(回転翼機:約220機、固定翼機:約320機)、艦船約50隻が活動中である。

2 海災部隊
  当初統合任務部隊が編制されるまでは、自衛艦隊司令官が隷下の部隊を指揮、運用していたが、統合部隊が編制されてからは、横須賀地方総監が海災部隊指揮官として、自衛艦隊隷下の艦艇、航空機及び防衛大臣直轄の教育航空集団の航空機等を指揮、運用している。
なお、3月26日以降は、投入していた全護衛隊群(4個護衛隊群)の一部を海災部隊の編制から外し、我が国周辺海域の警戒、監視にあてている。現在の規模は、艦艇:約50隻、航空機:約100機、人員:約1万4500名である。 (下図の「海自派遣部隊の概要」海上自衛隊ホームページからを参照。)

海上自衛隊の活動状況

  発災から3週間となる4月1日までの海上自衛隊の活動状況を総括すれば次のとおりである。(下図の「主な活動内容」海上自衛隊ホームページからを参照。)

活動内容の概要(4月1日0600現在)

救難物資等の供与、輸送:366回(離島支援における物資輸送は内数)
離島支援:113回(内訳、物資輸送等:106回、診療支援:6回、入浴支援:6回)
人員輸送:63回
捜索、救助活動:45回
診療支援:35回(離島支援における診療支援は内数)
入浴支援:25回(離島支援における入浴支援は内数)
その他:災害ゴミ撤去、航路・港湾啓開、宿泊支援、小学校への通学支援等
原子力災害派遣:消防車等5台による放水活動、米海軍水舟の曳航(給水支援)

活動の実績(4月1日0600現在)

救難物資の輸送の実績:糧食:約22万6000食
水(清涼飲料水含まず):約33万5000L
毛布:約1万1700枚
ガソリン・軽油:約5万2000L
灯油:約8万9000L
乾電池:約5万8000本
その他:衛生用品、生活用品等
移動衛生班(5班:歯科班1個班を含む)の診療実績:約1715名
救助人員:896名(自衛隊全体:1万9300名)
収容遺体:147体(自衛隊全体:4150体)

活動状況のスナップ(統合幕僚監部ホームページから)

石巻市幸町漁港にて輸送艦「くにさき」のLCACから支援物資を荷揚げし、渡波公民館に運搬
屋根につかまる漂流者を発見内火艇で無事に救助
海上自衛隊の活動の特徴

1 海からのアクセス
  今回の地震により、幹線となる東北自動車道及び接続する国道も寸断され、また、太平洋沿岸に沿って走る鉄道及び国道も地震と津波の影響で壊滅的な打撃を受け、三陸海岸から陸中海岸に至る一帯は、陸からのアクセスが全くできなくなった。また、この地域には多くの島が存在し、特に、松島(塩竃)及び牡鹿半島近傍の多くの島は、全くの孤島と化してしまった。このような被災地に対する唯一のアクセスは、海からのアクセスであるが、地震発生以前と同様に直ちに港湾施設が使用できるとは限らない。岸壁は被害を受けていないか(海中の支柱を含めて)、また、岸壁の付近の海中に艦艇のスクリューなどを損傷する障害物がないかを確認する必要がある。このため、掃海部隊の潜水員による航路及び港湾の調査により岸壁等が使用に耐え得ることが確認されるまでは、艦艇は岸壁に接岸することが出来ない。このような状況下で岸壁の状態を気にせず活動できるのが、「おおすみ」型輸送艦に搭載されているLCAC(ホバークラフト)であり、護衛艦に搭載されたヘリコプターである。

2 活躍する護衛艦搭載のヘリコプター
  発災から15日ごろまでは、被災者の捜索、救難に全力を挙げた活動が行なわれた。広域をP-3C哨戒機が捜索を行い、被災地の状況や要救助者等の情報を海上で活動している艦艇部隊に送り、艦艇部隊はこの情報に基づき被災者の救助等にあたった。洋上での救助は、艦艇に搭載している内火艇(小型ボート)で行い、陸上における救助は、陸からのアクセスができないため護衛艦に搭載された哨戒ヘリコプター及び青森県むつ市に所在する艦載ヘリコプターの母機地等から発進した哨戒ヘリコプター及び救難用ヘリコプターにより行なわれた。また、20機以上のヘリコプターを搭載できる護衛艦「ひゅうが」(1万3950トン)が燃料補給などを行なう洋上母機地として活躍している。
 先に示した約900名近い救助者の大半は、このヘリコプターにより救助されたものである。また、海上自衛隊がこの3週間で実施した人員輸送(救助者、被災者、医師等)のほとんども、ヘリコプターによるものである。

3 離島支援
  孤立化していた松島(塩竈)近傍の宮戸島、寒風沢島、野々島、柱島並びに牡鹿半島近傍の大島、江島、田代島、網地島に対して、発災の早期に艦艇乗組員が内火艇により上陸し、在住する島民数、急患の有無、必要物資等の調査を行っている。この調査に基づき当初は、艦艇部隊保有の水、乾パン、缶詰などの非常用糧食を提供し、離島支援を行った。1週間経った頃からヘリコプターが支援に加わり、艦艇部隊とともに飲料水、糧食、乾電池、トイレットペーパーなどの生活・衛生用品、ガソリン、灯油などの輸送を継続的に行っている。また、2週間を経たころから診療支援、入浴支援を開始している。

4 日米共同
  新聞報道によると米海軍は、艦艇20隻、航空機140機、人員約1万2750人を「ともだち作戦(Operation Tomodachi)」に従事させている。「ともだち作戦」に従事中の艦底のなかには、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」に参加した空母「ドナルド・レーガン」、ドック型揚陸艦「トーテュガ」などが含まれ、空母「ドナルド・レーガン」は、米海軍の航空機だけでなく、陸自、海自の航空機に対して護衛艦「ひゅうが」と同様に洋上母機地機能を提供している。また、ドック型揚陸艦「トーテュガ」は、北海道などから陸上自衛隊の人員、車両等を上陸用舟艇により被災地近傍に輸送するなどの活動を行なっている。護衛艦「ひゅうが」には米海軍士官3名が乗艦し、日米共同の実を挙げるべく調整を行なっている。
  原子力災害に対しては、早い段階から日本側の要請に基づいて無人偵察機「グローバルホーク」を現場上空に飛行させ、情報を収集、防衛省に提供していると言われている。
 また、米海軍横須賀基地のバージ船2隻(1500トン、1300トン)に真水を満載し、原子炉冷却用真水として、横須賀地方隊の「ひうち」型多用途支援艦で現場まで曳航する日米共同の活動を実施した。


(浦賀水道を南下するバージ)

5 左警戒右見張レ
  海上自衛隊では、帝国海軍から伝わった教訓として「左警戒右見張レ」という言葉がある。これは例えば、「面舵(おもかじ)」をきって艦(ふね)を右に回頭する際、全員が回頭方向の右舷ばかりを注意していれば、左舷方向から来る船と衝突する恐れがある。一つのことに集中するあまり、全体が見えなくなることを戒めた言葉である。この意味で、海災部隊指揮官が全体の情勢を判断し、26日以降一部の部隊を周辺海域の警戒監視に回した事は、適切な判断であったと評価できる。
  また、「陸上自衛隊は首相の「10万人出せ」の一言で、全体の半数近い人員を災害派遣に投入している。「左警戒右見張レ」という観点から大丈夫かと気になるところであるが、少なくとも警戒監視にあたる部隊は継続して任務を実施しており、「左警戒右見張レ」の趣旨は何とか守られていると考えられる。問題は「左警戒右見張レ」の結果、何かの事態を察知したときの対応である。もともと十分ではない兵力から2/5の兵力が割かれているのである。万が一の事態にいかに対処するかを常に考えつつ、目の前の国難に必死で取り組んでいる陸・海・空の指揮官・隊員の心身の負担がいかに大きいかは容易に想像がつく。
 今回、陸上自衛隊を始めとする自衛隊に対する認識が深まり、評価されているが、本来自衛隊は「我が国の防衛」がコア・ミッションである。かつてどこかの政党が、「自衛隊は災害派遣が出来ればよい」と主張していたが、そういう声が復活しないことを願う次第である。