9都県市防災訓練実視所見!
理事 山下 輝男

 9都県市防災合同訓練(図上訓練)に、訓練支援受託会社の支援要員として参加した。奇しくも、17日は、阪神淡路大震災発災19年に当たり、当時中部方面総監部防衛部長として、100日間にわたる活動に思いを馳せつつ、さいたま市の訓練を実視させて頂いた。その時の経験を多くの方々に伝えるまたとない機会ともなり、素晴らしい経験であった。
 研究会の最後に所見を開陳する機会を与えられ、思いの丈を述べさせて貰った。本稿は、その内容や本防災訓練に関する所見をまとめたものである。

 訓練風景の写真(提供:防災ソリューション松並氏)

(左写真上ホワイトボード前で腕組みして状況を確認している生意気な男性は?)

1 さいたま市のチャレンジ精神に敬意を!

 今回の防災訓練の想定は、さいたま市直下型地震における発災後一日弱時点における救援物資等の受け入れ態勢を検証する等云うものであり、最悪の事態を想定し、在りうべき想定に如何に対処するかを検証せんとする極めて意欲的なものであり、諸手を挙げて賛意を表したい。云うまでもなく9都県市合同の訓練想定であり、さいたま市の要望を他が受け入れたということであろう。
 いずれにしても、マンネリ化し、展示的防災訓練が多い中で、このような意欲的な訓練は極めて有効であり、他にも是非とも波及して欲しいものである。

2 災対本部の編成とオペレーションルームの設置

 県や市町村は行政組織であり、平時における行政遂行をメインにした編成になっている。然しながら、一旦有事になると平時とは異なる業務所要が発生するのでそれに応じうる編成に再編すべきであるというのが小生の持論であったが、さいたま市はそれを具現しており、大いに共感した次第である。他はどうなのだろう?
 また、オペレーションルームを設置していたが、一昔前に比べれば、このような体制が取られることは大前進であると云えよう。云うまでもなく、通常の勤務場所や体制では、効果的な災害対応は出来ない。情報を集約し、各所掌の総力を結集し、本部長の判断を補佐し実行するためには、それに対応する為の特別な体制が必要であり、それがオペレーションルームである。
 このOPルームが機能するように更に演練を重ねる必要はある。

3 全般状況の把握と状況判断

 災害対策本部長の判断事項は、状況の推移と共に変わるのは当然である。当初は多分、如何なる被害が発生し、行方不明者の状況がどうなっているのかを把握した上での、捜索・救出にかかる判断が為されるだろう。ならば、それに対応した災対本部の活動がなされるべきであり、その判断に資する情報の集約と分析がなされねばならない。
 情報の洪水の中にあって、玉石混交、真偽不明の生の情報資料の中から、的確に抽出して集約され、それの持つ意味が明らかにされるべきだ。でなければ本部長は何も判断できない。全般の状況を如何に把握し、それをどう分析するかはある程度の訓練を要するが、それが情報部の重要な役割であり、その指針を与えるのが災対本部長でありその補佐である。  

4 自衛隊の状況判断要領等の適用

 自衛隊の指揮作戦は、指揮官の行う状況判断と各幕僚の行う各種見積により行われる。それを効率的に行う為に作戦室を設置する。小生の30年余の体験に照らしてもかかる判断要領は平時は勿論有事にも適用できるものと信じる。そう云う意味においてもさいたま市はそれを適用しようと努力しており、未だそれが緒に就いたばかりとはいえ、今後が楽しみである。自衛隊の状況判断の要領が普く普及すれば行政の有事対応は格段に向上するであろう。

5 物流管理の重要性

 今回の訓練の主眼は、さいたま市が9都県市、指定都市及び他の地方公共団体、隣接地方公共団体や指定公共機関或は協定締結業者等々の、他からの救援物資等を如何に受け入れるかどうかの検証であった。
 物流管理については中方防衛部長として特段の想い入れがある。阪神地区という狭い範囲での災害であり日本全国からの善意の救援物資が大量に寄せられた。そのこと自体はいいのだが、集積した救援物資が滞留し、被災者に届けられない状況が生起した。県の悲鳴にも似た要請を受けて一個部隊を派遣した。それほどに物流管理は重要である。物流管理は、ある時点では、災害対応そのものであるともいえる。
 今回のチーム編成が妥当であったか否かは何とも言えないが、この重要性を認識した災害対応が重要であり、本システムの更なる充実を願うものである。

6 情報や認識の共有と提供、或いは処理

 情報の洪水が起きる。それらを如何に共有するかが重要だ。情報担当部署が押し寄せる情報を受けて記録して所掌の部署に流すだけでは任務を果たしたとは言えない。情報の持つ意味を分析してリーダーの判断に供しなければならない。分析された情報等は他の部署にも提供され共有されるべきだ。オペレーションルーム内の他の職員に如何に伝達するか色々な方法がある筈だ。受けた各部の職員は派遣元の部署に報告すべきである。そのような一連の業務の流れがスムーズに行われなければならない。
 放送するも良し、関係者を集めて説明するも良し、何処かに掲示するもよし、軽重緩急に応じて工夫すればいいのではないか。

7 状況判断の基本的要件を常に意識すべき!

 状況判断の基本的要件は、何時何を判断すべきかを決定することである。小生の自衛官人生の中で常に意識していたのがこのことである。今直面している状況で何を判断し決めるべきか、或いは決めるべきでないかを苦悶し続けていた。また、指揮官・上司に何を判断して貰うべきかの観点から補佐するように心掛けた。
 災対本部として何をすべきかを常に意識した活動を行うことが重要だ。

8 マニュアルやノウハウの蓄積と継承を!

 聞けば市役所の職員は、同一職務概ね2年未満であるようだ。(実態は不明)折角今回のような防災訓練をしても、それが一回限りとなり、継承されない可能性が高い。そういう意味では勿体無い。されば、各部署毎のマニュアルの整備やノウハウの継承が必要不可欠である。

9 自衛官OBの積極的活用を!

 今回の小生の立場は、9都県市防災合同訓練(図上訓練)の訓練統裁の受託を受けた、河川情報や防災訓練支援システムをメインとする防災ソリューションから支援要請を受けたものであり、他にも自衛官OB2名がさいたま市の訓練状況付与担当として参加した。防災ソリューションには自衛官OBが多数在籍しており、地方自治体等に防災にかかる有益な支援を行っている。また、さいたま市の危機管理部局にも自衛官OBが勤務して、今回は、実質的な訓練企画者、実施においては検証班長として参加していた。有能な彼の今後の活躍に期待したい。
 自衛官OBが、相当数、危機管理部局に再雇用され、存分に活躍している。都道府県や市町村の全てにそのような自衛官が配置されれば日本の危機管理能力は格段に向上するであろう。彼等は国家の財産でもあると思う。

10 防災の根本は何か!

 防災は、自助・共助・公助によって為されるが、それは7:2:1と云われるように自助が極めて重要である。個人には個人として為すべき防災があり地域やコミュニティにそれなりの防災がある筈だ。先ずその基本をしっかり認識すべきだろう。国家として措置すべき事項も勿論多いが、それに頼ってはいけない。そのような意識を遍く広げるべきだろう。

11 終りに

 素晴らしい機会を与えて頂いた防災ソリューションに感謝したい。今まで、頭で考えていた事柄を実際の訓練の場で確認したり見聞できたのは得難い経験であった。