第7回:「国家安全保障戦略について」


平成25年12月、国家安全保障会議が創設され、わが国の外交・防衛政策の司令塔として機能しています。内閣に設置された国家安全保障会議は二つの形態の会合から構成されます。その中核は、国家安全保障に関する外交・防衛政策の司令塔として新設された四大臣会合であり、平素から機動的・する内閣に設置された定例的に開催され、実質的な審議が行われています。また、防衛省をはじめとする関係行政機関は、国家安全保障に関する資料や情報を国家安全保障会議に適時に提供しています。内閣官房に設置された安全保障局が、国家安全保障会議を恒常的にサポートしています。

以下、平成26年度防衛白書から「国家安全保障戦略」について引用し、紹介します。

政府は、平成25年12月、「国家安全保障戦略」(「戦略」)を閣議決定した。「戦略」は、国家安全保障に関する基本方針として、わが国として初めて策定した文書であり、わが国全体として、今後どのように国家安全保障を確保すべきかについて記述している。政府としては、「戦略」に基づき、国家安全保障会議の司令塔機能のもと、政治の強力なリーダーシップにより、政府全体として、国家安全保障政策を一層戦略的かつ体系的なものとして実施していくこととしている。なお、「戦略」は、これまでのわが国の防衛政策の基礎として置かれていた「国防の基本方針」に代わるものである。

Ⅰ わが国の国家安全保障政策の体系

「戦略」は、国家安全保障の基本方針として、わが国として初めて策定したものであり、長期的視点から国益を見定めたうえで、今後どのように対応していくべきか、わが国がとるべきアプローチを導き出している。政府としては、さらに、「戦略」を踏まえ、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を策定し、今後のわが国の防衛の基本方針、防衛力の役割、自衛隊の具体的な体制の目標水準などを示したところである。これは、護衛艦や航空機など各種防衛装備品の取得や部隊の運用体制の確立などの防衛力整備は一朝一夕にはできず、長い年月を要することから、中長期的見通しに立った防衛力整備を行う観点にたって策定しているものである。「戦略」と防衛大綱はともにおおむね10年程度の期間を念頭に置いている。

「中期防衛力整備計画」(中期防)は、防衛大綱で示された防衛力の目標水準の達成のために、5か年の経費の総額の限度と主要装備の整備数量を明示したものである。年度予算は中期防を事業として具体化したものであり、情勢などを踏まえて、年度毎に必要な経費を計上するものである。なお、これまでも、わが国の安全保障に関する基本方針について、防衛大綱においてある程度記述してきたものの、その内容は防衛政策に関するものが中心であった。今回、防衛大綱の上位文書として「戦略」を策定、外交政策および防衛政策を中心とした国家安全保障に関する基本方針を示したことに大きな意義がある。



Ⅱ 国家安全保障戦略の概要

策定の経緯と趣旨

わが国の安全保障をめぐる環境が一層厳しさを増している。この中で、豊かで平和な社会を引き続き発展させていくためにはわが国の国益を長期的視点から見定めたうえで、国際社会の中でわが国の進むべき針路を定め、国家安全保障のための方策に政府全体として取り組むことが必要である。そのため、外交政策と防衛政策を中心とした「国家安全保障戦略」(「戦略」)を策定するよう、13(平成25)年9月に安倍内閣総理大臣から指示があった。
「戦略」策定の作業は防衛大綱の見直しと並行して進めていくこととした。政府はこの作業に資するため、同年9月から有識者などで構成する「安全保障と防衛力に関する懇談会」を開催した。懇談会は7回開催され、精力的な議論が行われた。「戦略」は同年12月4日に設置された国家安全保障会議で審議され、同年12月17日に国家安全保障会議および閣議において決定した。
「戦略」の内容は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものであり、政策の実施過程を通じて、国家安全保障会議において定期的に体系的な評価を行い、適時適切にこれを発展させていくこととなる。

国家安全保障の基本理念

1 わが国が掲げる理念―国際協調主義に基づく積極的平和主義―
わが国は、豊かな文化と伝統を有し、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を掲げた経済大国である。また、海洋国家としての顔もあわせ持つ。そしてわが国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩み、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。
わが国は、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、わが国の安全およびアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定および繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく。

2 わが国の国益と国家安全保障の目標
以上の基本理念を具体的政策として実現するにあたっては、わが国の国益と国家安全保障の目標を明確にする必要がある。
わが国の国益は、
○ わが国自身の主権・独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保し、豊かな文化と伝統を継承
しつつ、わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うすること
○ 経済発展を通じてわが国と国民のさらなる繁栄を実現し、わが国の平和と安全をより強固なものとすること
○ 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・擁護することである。
○ わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、わが国に直接脅威が及ぶことを防止
するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ被害を最小化すること
○ 日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼・協力関係の強化、実際的な安全保障協力の推進により、アジア太平洋地域の
安全保障環境を改善し、わが国に対する直接的な脅威の発生を予防し、削減すること
○ 普遍的価値やルールに基づく国際秩序の強化や紛争の解決に主導的な役割を果たし、グローバルな安全保障環境を改善し、
平和で安定し、繁栄する国際社会を構築すること

わが国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題

1 グローバルな安全保障環境と課題
中国・インドなどの新興国の台頭により国家間のパワーバランスが変化している。一方、世界最大の総合的な国力を有する米国は、安全保障政策および経済政策上の重点をアジア太平洋地域にシフトさせる方針を明らかにしている。
また、 グローバル化の進展や技術革新の急速な進展により、非国家主体の相対的影響力の増大、非国家主体によるテロや犯罪の脅威が拡大しつつある。
さらに、大量破壊兵器・弾道ミサイルなどの移転・拡散・性能向上にかかる問題、特に、北朝鮮による核・ミサイル開発問題やイランの核問題は、わが国や国際社会にとっての大きな脅威である。
グローバル化の進展により、国際テロの拡散・多様化が進んでいる。現に海外において邦人やわが国権益が被害を受けるテロが発生しており、わが国・国民は、国内外において国際テロの脅威に直面している。
国際公共財(グローバル・コモンズ)については、海洋において、近年、資源の確保や自国の安全保障の観点から、力を背景とした一方的な現状変更を図る動きが増加しつつある。このような動きや海賊問題などにより、シーレーンの安定や航行の自由が脅かされる危険性も高まっている。
宇宙空間においては、衛星破壊実験や人工衛星同士の衝突などによる宇宙ゴミの増加をはじめ、持続的かつ安定的な利用を妨げるリスクが存在している。サイバー空間においては、社会インフラの破壊、軍事システムの妨害を意図したサイバー攻撃などによるリスクが深刻化しつつある。
貧困、国際保健課題、気候変動その他の環境問題、食料安全保障、さらには内戦、災害などによる人道上の危機といった一国のみでは対処できない地球規模の問題が、個人の生存と尊厳を脅かす人間の安全保障上の重要かつ緊急な課題となっている。また、一国の経済危機が世界経済全体に伝播するリスクが高まっている。

2 アジア太平洋地域における安全保障環境と課題
アジア太平洋地域の戦略環境の特性としては、様々な政治体制が存在し、核兵器国を含む大規模な軍事力を有する国家などが集中する一方、安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されていないことがあげられる。
北朝鮮は、核兵器をはじめとする大量破壊兵器や弾道ミサイルの能力を増強するとともに、軍事的な挑発行為やわが国などに対する様々な挑発的言動を繰り返し、地域の緊張を高めている。特に米国本土を射程に含む弾道ミサイルの開発や、核兵器の小型化および弾道ミサイルへの搭載の試みは、わが国を含む地域の安全保障に対する北朝鮮の脅威を質的に深刻化させるものである。
中国は、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より積極的かつ協調的な役割を果たすことが期待されている。一方、中国は十分な透明性を欠いた中で軍事力を広範かつ急速に強化している。
東シナ海、南シナ海などの海空域においては、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による現状の変更の試みとみられる対応を示している。また、台湾海峡を挟んだ両岸関係は、経済的関係を深める一方、軍事バランスは変化しており、安定化の動きと潜在的な不安定性が併存している。

わが国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ

1 わが国の能力・役割の強化・拡大
(1)安定した国際環境創出のための外交の強化
国家安全保障の要諦は、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐことである。
国際社会の平和と安定および繁栄の実現にわが国が一層積極的な役割を果たし、わが国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境を実現していくための力強い外交を推進していく。
(2)わが国を守り抜く総合的な防衛体制の構築
厳しい安全保障環境の中、戦略環境の変化や国力国情に応じ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用に努める。
政府機関・地方公共団体・民間部門との連携を深め、武力攻撃事態から大規模自然災害に至るあらゆる事態にシームレスに対応するための総合的な体制を平素から構築していく。その中核を担う自衛隊の体制整備にあたっては、統合的・総合的視点から重要となる機能を優先しつつ、各種事態の抑止・対処のための体制を強化する。
核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために米国と緊密に連携していくとともに、弾道ミサイル防衛や国民保護を含むわが国自身の取組により適切に対応する。
(3)領域保全に関する取組の強化
領域警備にあたる法執行機関の能力強化や海洋監視能力の強化を進める。様々な不測の事態にシームレスに対応できるよう、関係省庁間の連携を強化する。わが国領域を確実に警備するために必要な課題について不断の検討を行い、実効的な措置を講ずる。国境離島の保全・管理・振興に積極的に取り組むとともに、国家安全保障の観点から国境離島、防衛施設周辺などにおける土地利用などのあり方について検討する。
(4)海洋安全保障の確保
海洋国家として、航行および上空飛行の自由や安全の確保、法の支配といった基本ルールに基づく秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」の維持・発展に向け、主導的な役割を発揮する。また、これらの取組に重要なわが国の海洋監視能力について、宇宙の活用を含めて総合的に強化する。特に中東からわが国近海に至るシーレーンは、資源・エネルギーの多くを中東地域からの海上輸送に依存しているわが国にとって重要であることから、これらのシーレーン沿岸国などの海上保安能力の向上を支援するとともに、戦略的利害を共有するパートナーとの協力関係を強化する。
(5)サイバーセキュリティの強化
不正行為からサイバー空間を守り、その自由かつ安全な利用を確保するとともに、サイバー攻撃からわが国の重要な社会システムを防護するため、国全体として防護・対応能力を強化する。平素から官民の連携を強化するとともに、セキュリティ人材層の強化などについても総合的に検討を行い、必要な措置を講ずる。これらの施策を推進するため、技術・運用両面における国際協力の強化のための施策を講ずるとともに、サイバー防衛協力を推進する。
(6)国際テロ対策の強化
原子力関連施設の安全確保などの国内における国際テロ対策の徹底はもとより、世界各地で活動する在留邦人などの安全を確保するため、国際テロ情勢に関する情報収集・分析を含め、国際テロ対策を強化する。
(7)情報機能の強化
人的情報、公開情報、電波情報、画像情報など、多様な情報源に関する情報収集能力を抜本的に強化する。また、各種情報を融合、処理した地理空間情報の活用を進める。
さらに、情報専門家の育成などにより、情報の分析・集約・共有機能を強化し、政府が保有するあらゆる情報手段を活用した総合的な分析を推進する。
(8)防衛装備・技術協力
自衛隊が携行する重機などの防衛装備品の活用や被災国などへの供与による平和貢献・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品などの共同開発・生産などに参画することが求められている。 こうした状況を踏まえ、武器輸出三原則等がこれまで果たしてきた役割にも十分配意したうえで、武器などの海外移転に関し、新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定めることとする。
(9)宇宙空間の安定的利用の確保および安全保障分野での活用の推進
情報収集衛星の機能の拡充・強化を図るほか、各種衛星の有効活用を図るとともに、宇宙空間の状況監視体制の確立を図る。また、宇宙開発利用を支える技術を含め、宇宙開発利用の推進にあたっては、中長期的な観点から、国家安全保障に資するように配意する。
(10)技術力の強化
デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、わが国の技術力の強化を図る必要がある。 科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させ、安全保障分野においても有効活用に努める。

2 日米同盟の強化
米国との間で、具体的な防衛協力のあり方や、日米の役割・任務・能力の考え方などについての議論を通じ、「戦略」を踏まえた各種施策との整合性を図りつつ、「日米防衛協力のための指針」の見直しを行う。運用協力および政策調整を緊密に行うとともに、弾道ミサイル防衛、海洋、宇宙空間、サイバー空間、大規模災害対応などの幅広い協力を強化し、日米同盟の抑止力および対処力を向上させていく。
在日米軍駐留経費負担などの施策のほか、抑止力を維持・向上させつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するため、在日米軍再編を日米合意に従って着実に実施する。

3 国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全保障協力の強化
韓国、オーストラリア、ASEAN諸国およびインドといったわが国と普遍的価値や戦略的利益を共有する国との協力関係を強化する。中国には、大局的かつ中長期的見地から、「戦略的互恵関係」の構築・強化に向けて取り組み、地域の平和と安定および繁栄のために責任ある建設的な役割を果たすよう促すとともに、力による現状変更の試みとみられる対応については冷静かつ毅然として対応していく。
北朝鮮問題に関しては、日朝平壌宣言、六者会合共同声明および国連安保理決議に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて、取り組んでいく。ロシアとは、安全保障およびエネルギー分野をはじめとするあらゆる分野で協力を進め、アジア太平洋地域の平和と安定に向け連携していく。
以上の取組にあたっては、多国間・三か国間の協力枠組みを積極的に活用する。
モンゴル、中央アジア諸国、南西アジア諸国、太平洋島嶼国、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリといったアジア太平洋地域の友好諸国と地域の安定の確保に向けて協力する。
国際社会の平和と安定に向け、欧州諸国、ブラジル、メキシコ、トルコ、アルゼンチン、南アフリカといった新興国、湾岸諸国、アフリカ諸国との協力関係を強化する。

4 国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的寄与
国連における国際の平和と安全の維持・回復に向けた取組により積極的に寄与していくなど、国連外交を強化する。
様々な国際的なルール作りに積極的に参画するとともに、国際司法機関に対する人材・財政面の支援などに積極的に取り組む。特に海洋、宇宙空間およびサイバー空間における法の支配の実現・強化に積極的に関与する。
「核兵器のない世界」に向けて積極的に取り組む。日米同盟のもとでの拡大抑止への信頼性維持と整合性をとりつつ、北朝鮮による核・ミサイル開発問題を含む軍縮・不拡散に向けた国際的取組を主導する。
国連PKOなどに一層積極的に協力する。平和構築人材や各国PKO要員の育成を、関係国などとの緊密な連携のもと、積極的に行う。
国際テロ情勢や国際テロ対策協力に関する各国との協議や意見交換、国際的な法的枠組みを強化する。

5 地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化
国際社会の平和と安定および繁栄の基盤を強化するため、普遍的価値の共有、開発問題および地球規模課題への対応と「人間の安全保障」の実現、開発途上国の人材育成に対する協力、自由貿易体制の維持・強化、エネルギー・環境問題への対応および人と人との交流の強化を進める。

6 国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進
防衛装備品の効果的・効率的な取得に努めるとともに、国際競争力の強化を含め、防衛生産・技術基盤を維持・強化していく。 官邸を司令塔として、政府一体となった統一的かつ戦略的な情報発信を行うこととし、各種情報技術を最大限に活用しつつ、多様なメディアを通じ、外国語による発信の強化などを図る。
社会的基盤を強化するために、諸外国やその国民に対する敬意を表し、わが国と郷土を愛する心を養うとともに、領土・主権に関する問題などの安全保障分野に関する啓発や自衛隊、在日米軍などの活動の現状への理解を広げる取組などを推進する。
知的基盤を強化するために、高等教育機関における安全保障教育の拡充などを図るとともに、高等教育機関、シンクタンクなどと政府の交流を深める。こうした取組を通じて、民間の専門家・行政官の育成を促進する。

参考資料:平成26年度防衛白書「日本の防衛」(防衛省)