第9回:「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」(新防衛大綱)

防衛省、国家安全保障会議などにおける検討を経て、2018(平成30)年12月、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下「新防衛大綱」)が策定されました。
以下、令和元年度防衛白書「日本の防衛」から引用し、新防衛大綱策定の背景とその内容について紹介します。

新防衛大綱の内容

25大綱見直しの経緯

わが国を取り巻く安全保障環境が、25 大綱を策定した際に想定したよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増してきていることを踏まえ、安倍内閣総理大臣は、18(平成30)年1月の第196回通常国会における施政方針演説において、専守防衛は当然の大前提としながら、防衛計画の大綱の見直しを行うことを表明した。
この方針を踏まえ、国家安全保障局、防衛省、外務省など関係省庁が緊密に連携し、検討を重ねた。また、安倍内閣総理大臣は「安全保障と防衛力に関する懇談会」を設置し、各専門分野の有識者が精力的な議論を行った。同懇談会は18(平成30)年8月から12月にかけて7回開催された。
防衛省においては、省内横断的な検討体制を設け検討を深化すべく、同年8月に防衛大臣を委員長とする「将来の防衛力検討委員会」を設置した。委員会は6回開催され、防衛力強化の考え方や自衛隊の体制などについて精力的に検討を行った。

基本的な考え方―多次元統合防衛力の構築―

これまで、25大綱に基づき、統合運用による機動的・持続的な活動を行い得るものとして「統合機動防衛力」を構築してきた。他方、わが国を取り巻く安全保障環境は25大綱を策定した際に想定したよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している。これを踏まえ、新防衛大綱では「統合機動防衛力」の方向性を深化させた真に実効的な防衛力を構築することとしている。
具体的には、①陸・海・空という従来の領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる領域横断(クロス・ドメイン)作戦が実施でき、②平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とし、③日米同盟の抑止力・対処力の強化及び多角的・多層的な安全保障協力の推進が可能な性質を有する、真に実効的な防衛力として、「多次元統合防衛力」を構築することとしている。
特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力は、軍全体の作戦遂行能力を著しく向上させるものであることから、各国が注力している分野である。わが国としても、このような能力や、それと一体となって、航空機、艦艇、ミサイルなどによる攻撃に効果的に対処するための能力の強化や、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靭性の強化を重視していくこととしてい る。

策定の趣旨

わが国の防衛は、防衛省・自衛隊だけで行えるものではなく、国民一人ひとりの防衛政策に関する理解と協力が不可欠である。こうした観点から、新防衛大綱では、「策定の趣旨」において、新防衛大綱が目指すものや問題意識について、国民に分かりやすく端的に示している。
具体的には、まず、国際社会におけるパワーバランスの変化の加速化・複雑化及び既存の秩序をめぐる不確実性の増大、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域の利用の急速な拡大による安全保障のあり方の根本的な変化など、安全保障環境が厳しさと不確実性を増す中にあっても、わが国は、平和国家としてより力強く歩んでいくとした上で、わが国自身が、国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空、そして、主権・独立は主体的・自主的な努力によって守る体制を抜本的に強化し、自らが果たし得る役割の拡大を図っていく必要があるとした。あわせて、今やどの国も一国では自国の安全を守ることはできない中、わが国の安全保障にとって不可欠な日米同盟や各国との安全保障協力の強化は、わが国自身の努力なくしてこれを達成することはできないとして、わが国の主体性・自主性を明確に表した。この点については、これまでの防衛計画の大綱も安全保障政策において根幹となるのは自らが行う努力であるとの認識に基づいて策定されてきたが、新防衛大綱においては、これをしっかりと明文化する趣旨で記述したところである。
そのうえで、今後の防衛力の強化に当たっては、安全保障の現実に正面から向き合い、従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力を構築するため、防衛力の質及び量を必要かつ十分に確保していく必要があるとした。特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域については、わが国としての優位性を獲得することが死活的に重要となっており、陸・海・空という従来の区分に依拠 した発想から完全に脱却し、全ての領域を横断的に連携させた新たな防衛力の構築に向け、従来とは抜本的に異なる速度で変革を図っていく必要があるとした。一方、急速な少子高齢化や厳しい財政状況を踏まえれば、過去にとらわれない徹底した合理化なくして、かかる防衛力の強化を実現することはできないとした。このように、新防衛大綱では、従来とは根本的に異なる速度での防衛力の構築と、従来の発想に固執することのない資源配分の必要性を強調している。
さらに、日米同盟については、わが国自身の防衛体制とあいまって、引き続きわが国の安全保障の基軸であり続けるとし、わが国が独立国家としての第一義的な責任をしっかりと果たしていくことこそが、日米同盟の下でのわが国の役割を十全に果たし、その抑止力と対処力を一層強化していく道であり、また、自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、安全保障協力を戦略的に進めていくための基盤であるとした。

わが国を取り巻く安全保障環境

1 現在の安全保障環境の特徴
新たな防衛計画の大綱を策定するためには、その背景となるわが国を取り巻く安全保障環境の現実をしっかりと分析することが必要である。
新防衛大綱では、現在の安全保障環境の特徴について次のように分析した。
国際社会においては、中国などのさらなる国力の伸長などによるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している中、自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成などを目指した、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化している。このような国家間の競争は、軍や法執行機関を用いて他国の主権を脅かすことや、ソーシャル・ネットワークなどを用いて他国の世論を操作することなど、多様な手段により、平素から恒常的に行われている。
また、いわゆるグレーゾーンの事態が今後、増加・拡大していく可能性があり、さらに明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。それとともに、いわゆる「ハイブリッド戦」のような、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法が、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いている。
また、情報通信などの分野における急速な技術革新に伴い、軍事技術の進展は目覚ましいものとなっている。こうした技術の進展を背景に、現在の戦闘様相は、陸・海・空のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなり、各国は、こうした新たな領域における能力を裏付ける技術の優位を追求している。
軍事技術の進展により、現在では、様々な脅威が容易に国境を越えてくるものとなっている。さらに、各国は、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器の開発に注力するとともに、人工知能(AI)を搭載した自律型の無人兵器システムの研究にも取り組んでいる。今後のさらなる技術革新は、将来の戦闘様相をさらに予見困難なものにするとみられる。
国際社会においては、一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が広範化・多様化している。宇宙領域やサイバー領域に関しては、国際的なルールや規範作りが安全保障上の課題となっている。海洋においては、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例がみられ、公海における自由が不当に侵害される状況が生じている。ま た、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散及び深刻化する国際テロは、引き続き、国際社会にとっての重大な課題である。
こうした中、わが国の周辺には、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力のさらなる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっている。

2 各国の動向
新防衛大綱は、国際社会の、そしてとりわけ、わが国周辺の安全保障環境を形作る中心的な国々の軍事動向について次のように分析した。
米国は、あらゆる分野における国家間の競争が顕在化する中で、世界的・地域的な秩序の修正を試みる中国やロシアとの戦略的競争が特に重要な課題であるとの認識を示しつつ、軍事力の再建のため、技術革新などによる全ての領域における軍事的優位の維持、核抑止力の強化、ミサイル防衛能力の高度化などに取り組んでいる。
中国は、今世紀中葉までに「世界一流の軍隊」を建設することを目標に、透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化しつつ、特に宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における優位の獲得やミサイル防衛を突破する能力の向上などを図っている。さらに、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海をはじめとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。中国の軍事動向などについては、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。
北朝鮮は、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明しものの、全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っておらず、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない。サイバー領域における大規模な部隊保持、重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられ、大規模な特殊部隊を保持している。このような北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。
ロシアは、核戦力を中心に軍事力の近代化に向けた取組を継続することで軍事態勢の強化を図っており、また、北極圏、欧州、米国周辺、中東に加え、北方領土を含む極東においても軍事活動を活発化させる傾向にあり、その動向を注視していく必要がある。

      尖閣諸島周辺で活動する中国公船【海上保安庁提供】

3 わが国の特性
新防衛大綱では、わが国の特性について次のように指摘した。
海洋国家であるわが国にとって「開かれ安定した海洋」の秩序を強化し、海上交通及び航空交通の安全を確保することが、平和と繁栄の基礎である。
一方、わが国は、大きな被害を伴う自然災害が多発することに加え、都市部に産業・人口・情報基盤が集中するとともに、沿岸部に原子力発電所などの重要施設が多数存在している。
これらに加えて、わが国においては、人口減少と少子高齢化が経験をしたことのない速度で急速に進展している。

4 まとめ
新防衛大綱は、以上の状況を踏まえ、今日のわが国を取り巻く安全保障環境については、主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は引き続き低いと考えられるとしつつ、25 大綱を策定した際に想定したものよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増しているとしている。
その上で、わが国に対する脅威が現実化し、国民の命と平和な暮らしを脅かすことを防ぐためには、この現実を踏まえた措置を講ずることが必要となっている旨明示した。

わが国の防衛の基本方針

1 基本方針
以上の策定の趣旨、安全保障環境を踏まえ、新防衛大綱はわが国の防衛の基本方針を明らかにしている。
まず、わが国は、国家安全保障戦略を踏まえ、積極的平和主義の観点からわが国自身の外交力、防衛力などを強化し、日米同盟を基軸として各国との協力を進めてきたこと、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針に従い、文民統制の確保や非核三原則を守ってきたこと、そしてこのような平和国家としての歩みを決して変えることはないことを明示した上で、わが国が、これまでに直面したことのない安全保障環境の現実の中で、国民の生命・身体・財産、領土・領海・領空及び主権・独立を守り抜くといった、国家安全保障戦略に示した国益を守っていかなければならないとしている。
その中にあって、新防衛大綱は防衛の目標として、①望ましい安全保障環境の創出、②抑止、③対処を挙げた。すなわち、平素から、わが国が持てる力を総合して、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出すること、また、わが国に侵害を加えることは容易ならざることであると相手に認識させ、脅威が及ぶことを抑止すること、さらに、万が一わが国に脅威が及ぶ場合には、確実に脅威に対処し、かつ、被害を最小化することである。
この防衛の目標を確実に達成するため、その手段であるわが国自身の防衛体制、日米同盟及び安全保障協力をそれぞれ強化していくとした。また、これらの強化は、格段に変化の速度を増し、複雑化する安全保障環境に対応できるよう、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における優位性を早期に獲得することを含め、迅速かつ柔軟に行っていかなければならないとしている。
また、核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、わが国は、その信頼性の維持・強化のために米国と緊密に協力していくとともに、総合ミサイル防空能力の強化や国民保護を含むわが国自身による対処のための取組を強化する。同時に、長期的課題である核兵器のない世界の実現へ向けて、核軍縮・不拡散のための取組に積極的・能動的な役割を果たしていくとしている。
新防衛大綱において基本方針として示されている3つのアプローチ、すなわちわが国自身の防衛体制、日米同盟及び安全保障協力の強化について、以下で説明する。

シンガポール海軍と親善訓練を行う海自護衛艦「いなづま」(18(平成30)年10月)

2 わが国自身の防衛体制の強化
(1)総合的な防衛体制の構築
これまでに直面したことのない安全保障環境の現実に正面から向き合い、防衛の目標を確実に達成するためにいかなる体制を作る必要があるのか。新防衛大綱では、まず、あらゆる段階において、防衛省・自衛隊のみならず、政府一体となった取組及び地方公共団体、民間団体などとの協力を可能とし、わが国が持てる力を総合することを挙げている。特に、宇宙、サイバー、電磁波、海洋、科学技術といった分野における取組及び協力の加速のほか、宇宙、サイバーなどの分野の国際的な規範の形成にかかる取組の推進を明示した。
また、わが国が有するあらゆる政策手段を体系的に組み合わせることなどを通じ、平素からの戦略的なコミュニケーション1を含む取組を強化するとしている。
1 わが国にとって望ましい安全保障環境を作るため、言葉のみならず、適切な場合には自衛隊の部隊などによる活動、例えば共同訓練や艦艇の寄港なども組み合わせた形で、国際社会とコミュニケーションを図るもの。
有事やグレーゾーンの事態などの各種事態に対しては、文民統制の下、これまでも態勢の強化に努めてきたが、今後、政治がより強力なリーダーシップを発揮し、迅速かつ的確に意思決定を行うことにより、政府一体となってシームレスに対応する必要があり、これを補佐する態勢も充実させるとした。
そのほか、各種災害への対応及び国民の保護のための体制の強化、緊急事態における在外邦人などの迅速な退避及び安全の確保、電力、通信といった国民生活に重要なインフラや、サイバー空間を守るための施策を進めるとしている。

(2)わが国の防衛力の強化
防衛力の意義・必要性
新防衛大綱は、防衛力を、独立国家として国民の生命・身体・財産とわが国の領土・領海・領空を主体的・自主的な努力により守り抜くという、わが国の意思と能力を表すものであるとし、同時に、日米同盟におけるわが国自身の役割を主体的に果たすために不可欠のものであり、また、諸外国との安全保障協力におけるわが国の取組を推進するためにも不可欠のものであると表した。
その上で、防衛力が、これまでに直面したことのない安全保障環境の現実の下で、わが国が独立国家として存立を全うするための最も重要な力であり、主体的・自主的に強化していかなければならないことを強調している。

真に実効的な防衛力 ― 多次元統合防衛力 ―
その防衛力の具体的なあり方については、わが国を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増していることを踏まえ、新防衛大綱では、新たに「多次元統合防衛力」を目指すとした。具体的には次のとおりである。
まず、軍事力の質・量に優れた脅威に対する実効的な抑止及び対処のためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域と陸・海・空という従来の領域の組合せによる戦闘様相に適応することが死活的に重要になっている。このため、今後の防衛力については、個別の領域における能力の質及び量を強化しつつ、全ての領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる領域横断(クロス・ドメイン)作戦により、個別の領域における能力が劣勢である場合にもこれを克服し、わが国の防衛を全うできるものとすることが必要であるとした。
また、平時から有事までのあらゆる段階における活動をシームレスに実施できることが重要であるが、近年では、平素からのプレゼンス維持や広範かつ高頻度に及ぶ情報収集・警戒監視などの活動のため、人員、装備などに慢性的な負荷がかかり、部隊の練度や活動量を維持できなくなるおそれが生じている。このことから、今後の防衛力については、各種活動の持続性・強靭性を支える能力の質及び量を強化しつつ、平素から、事態の特性に応じた柔軟かつ戦略的な活動を常時継続的に実施可能なものとすることが必要であるとした。
さらに、わが国の防衛力は、日米同盟の抑止力及び対処力を強化するものであるとともに、多角的・多層的な安全保障協力を推進し得るものであることが必要であるとしている。
以上の観点から、新防衛大綱では、今後、わが国は、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力として、「多次元統合防衛力」を構築することを明らかにした。
これを踏まえ、防衛省においては、多次元統合防衛力の構築を推進すべく、19(平成31)年3月に防衛副大臣を委員長とする「多次元統合防衛力構築委員会」を設置し、省内横断的な体制のもと、検討を進めている。

[ 解 説 ] 領域横断作戦について

現在の戦闘様相は、技術の進展を背景に、陸・海・空という従来の領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなっています。
例えば、現代の軍事活動は、宇宙空間の利用に依存しており、人工衛星を用いた部隊間の通信や測位が、陸・海・空における戦力の円滑な機能発揮に不可欠です。また、こうした軍事活動は、サイバー空間を利用した情報通信ネットワークにも極めて高度に依存しています。このような状況において、脅威に対する実効的な抑止及び対処を可能とするためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を活用して攻撃を阻止・排除することが不可欠であり、このような新たな領域における能力と陸・海・空という従来の領域の能力を有機的に融合した「領域横断作戦」を行うことが死活的に重要となっています。
こうした「領域横断作戦」は、その相乗効果により全体としての能力を増幅させるものであり、個別の領域における能力が劣勢である場合にもこれを克服し、全体としては優位に立ち、わが国の防衛を全うすることが可能となります。



防衛力が果たすべき役割
防衛力は、国民の命と平和な暮らしを守るため、様々な役割を果たすものである。新防衛大綱では、その役割について、以下のとおり具体的に示した。

平時からグレーゾーンの事態への対応
防衛力は武力攻撃事態、すなわち有事にのみ活用されるものではなく、平時においては抑止のために、グレーゾーンの事態においては事態の悪化を防ぐためにも活用される。新防衛大綱では、平素から、積極的な共同訓練・演習や海外における寄港といった戦略的なコミュニケーションを外交と一体となって推進すること、自衛隊の能力を活用して、わが国周辺において広域にわたり常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR Intelligence, Surveillance, Reconnaissance)活動や、状況に応じた抑止のための活動(「柔軟に選択される抑止措置」)などにより事態の発生・深刻化を未然に防止すること、そしてこれら各種活動による態勢も活用し、領空侵犯や領海侵入といったわが国の主権を侵害する行為に対し、警察機関などとも連携しつつ、即時に適切な措置を講じることを示した。
弾道ミサイルなどの飛来に対しては、常時持続的にわが国を防護し、万が一被害が発生した場合にはこれを局限することとしている。

           警戒監視活動中の海自P-1哨戒機

島嶼(とうしょ)部を含むわが国に対する攻撃への対応
わが国には数多くの島々が存在し、これら島嶼部を含む国土に対する攻撃に対応することは、重要な防衛力の役割である。これについて新防衛大綱は以下のとおり具体的に示している。すなわち攻撃に対しては、必要な部隊を迅速に機動・展開させ、海上優勢・航空優勢2を確保しつつ、侵攻部隊の接近・上陸を阻止すること、海上優勢・航空優勢の確保が困難な状況になった場合でも、侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止すること、さらに万が一占拠された場合には、あらゆる措置を講じて奪回することとする。
2 海域・空域において相手の海上・航空戦力より優勢であり、相手から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態。
ミサイル、航空機などの空からの攻撃に対しては、最適な手段により、機動的かつ持続的に対応するとともに、被害を局限し、自衛隊の各種能力及び能力発揮の基盤を維持することとする。
ゲリラ・特殊部隊による攻撃に対しては、原子力発電所などの重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を行うこととする。

あらゆる段階における宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応
各国が軍事能力の向上のために技術の優位を追求している宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における防衛力の役割について、新防衛大綱は自衛隊自身の活動を妨げる行為を未然に防止するために常時継続的に監視し、関連する情報の収集・分析を行うこと、かかる行為の発生時には、被害の局限、被害復旧などを迅速に行うこと、わが国への攻撃に際しては、こうした対応に加え、宇宙・サイバー・電磁波の領域を活用して攻撃を阻止・排除することを挙げた。
また、社会全般が宇宙空間やサイバー空間への依存を高めていく中、関係機関との適切な連携・役割分担の下、防衛力が政府全体としての総合的な取組に寄与することも明記した。

大規模災害などへの対応
国民生活に甚大な影響を及ぼす大規模災害などの発生に際しても、防衛力は大きな役割を果たす。
新防衛大綱においても、災害に際して所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期するとともに、必要に応じ、対応態勢を長期間にわたり持続すること、また、被災者や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体及び民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、生活支援などを行うことを示した。

日米同盟に基づく米国との共同
新防衛大綱では、平時から有事までのあらゆる段階において、「日米防衛協力のための指針」を踏まえ、日米同盟におけるわが国自身の役割を主体的に果たすことにより、日米共同の活動を効果的に実施することが防衛力の役割であることが示された。

安全保障協力の推進
新防衛大綱は、地域の特性や相手国の実情を考慮した方針の下、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流などを含む防衛協力・交流を戦略的に推進するなど、安全保障協力の強化のための取組を積極的に実施することが防衛力の役割の一つであることを明記した。

3 日米同盟の強化
新防衛大綱においても、日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制がわが国の安全保障の一つの基軸であり、また、日米同盟がわが国のみならず地域、さらには国際社会の平和と安定及び繁栄にとっても重要な役割を果たしているというこれまでの認識を踏まえているが、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことによって独立国家としての第一義的な責任をしっかりと果たしていくことこそが、日米同盟の下でのわが国の役割を十全に果たし、その抑止力と対処力を一層強化していく道であることを具体的に示した。その上で、以下の点を明記した。
まず、普遍的価値と戦略的利益を共有する米国との一層の関係強化がわが国の安全保障にとってこれまで以上に重要となっているとともに、米国も同盟国との協力がより重要になっているとの認識を示していること、すなわち、同盟の重要性が両国において増しているということである。
次に、平和安全法制により新たに可能となった活動などを通じて、これまでも日米同盟は強化されてきたが、わが国を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増す中で、「日米防衛協力の指針」の下で、同盟の一層の強化を図ることが必要であるとした。
さらに、同盟の抑止力・対処力の強化、幅広い分野における協力の強化・拡大及び在日米軍駐留に関する施策の着実な実施のための取組を推進する必要があることを示した。

 Xバンド防衛通信衛星(イメージ)  サイバー専門部隊による対処のイメージ   戦闘機(F-15)の電子戦能力の向上

4 安全保障協力の強化
新防衛大綱においては、防衛力を活用した各国との安全保障協力をこれまで以上に重視している。具体的には、自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に推進すること、その一環として、防衛力を積極的に活用し、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流などを 含む防衛協力・交流に取り組むこと、また、グローバルな安全保障上の課題への対応にも貢献することを明示した。こうした取組の実施にあたっては、外交政策との調整を十分に図るとともに、日米同盟を基軸として、普遍的価値や安全保障上の利益を共有する国々との緊密な連携を図るべきとしている。

防衛力強化にあたっての優先事項

1 基本的考え方
新防衛大綱の策定にあたっては、格段に速度を増す安全保障環境の変化に対応するために、従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力を構築するとされた。防衛力の強化にあたり、特に優先すべき事項について明示しながら、それを可能な限り早期に整備していくこととし、既存の予算・人員の配分に固執することなく、資源を柔軟かつ重点的に配分するほか、所要の抜本的な改革を行うこととした。
新防衛大綱において示されている優先すべき事項は以下のとおりである。

2 領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項
(1)宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力の獲得・強化
領域横断作戦には、優先的な資源配分やわが国の優れた科学技術の活用による、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力が不可欠である。新防衛大綱では全ての領域における能力を効果的に連接する指揮統制・情報通信能力の強化・防護を図ることとし、以下のとおり取り組むことを明示した。

宇宙領域における能力
宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの能力向上や、宇宙空間の状況を常時継続的に監視する体制の構築、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力の強化などを通じて、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保すること、その際関係機関や米国などとの連携強化、宇宙領域の専門部隊の新設、人材育成などに努めることとした。

サイバー領域における能力
自衛隊の指揮通信システムやネットワークへのサイバー攻撃を未然に防止するための常時継続的な監視能力や攻撃を受けた際の被害の局限、被害復旧などの必要な措置を迅速に行う能力を引き続き強化すること、有事において、わが国への攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力など、サイバー防衛能力の抜本的強化を図ること、その専門的な知識・技術を持つ人材の大幅な増強と政府全体の取組にも寄与することとした。

電磁波領域における能力
情報通信能力の強化、電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築を推進するとともに、相手からの電磁波領域における妨害などに際して、その効果を局限する能力などを向上させること、また、わが国に対する侵攻を企図する相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力を強化することともに、各種活動を円滑に行うため、電磁波の利用を適切に管理・調整する機能を強化することとした。

(2)従来の領域における能力の強化
新大綱では、従来の領域のうち、領域横断作戦の中で、宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力と一体となって、特に、航空機、艦艇、ミサイルなどによる攻撃に効果的に対処するための能力を強化することとした。

海空領域における能力
わが国周辺海空域における常続監視を広域にわたって実施する態勢を強化すること、また、無人水中航走体(UUV Unmanned Undersea Vehicle)を含む水中・水上における対処能力を強化することとした。
さらに、柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL Short Take-Off/Vertical Landing)機を含む戦闘機体系の構築などにより、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ないわが国太平洋側をはじめ、空における対処能力を強化することとした。
その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性をさらに向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずることとした。

[ 解 説 ] 「いずも」型護衛艦の改修について

近年、諸外国の航空戦力の近代化が著しい状況にあり、また、わが国の南西諸島の列島線を超えて、太平洋側に進出する戦闘機や爆撃機の飛行が増加するなど太平洋の空域における軍用機の活動が急速に拡大し、かつ、活発化しています。こうした状況は、2013(平成25)年に25大綱を策定した時点までには見られなかったものであり、今後、一層の拡大・活発化が見込まれます。
こうした状況の中でわが国の防衛に万全を期すためには、高い性能を有する戦闘機を用いて航空優勢を間断なく確保できるよう、より多くの飛行場から対処が行えるなど、その柔軟な運用を確保することが極めて重要です。この点、国土が狭隘で活用できる滑走路にも限界があるわが国の特性を踏まえれば、護衛艦からの短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機(STOVL機)の運用は、その実現によって戦闘機の運用の柔軟性を一層向上させ、特に、飛行場が1か所(硫黄島)しか存在せず、自衛隊の展開基盤が乏しい太平洋上での防空任務の円滑な実施に大きく貢献するものです。


このような観点から、新たな安全保障環境に対応し、広大な太平洋側を含むわが国の海と空の守りについて、自衛隊員の安全を確保しながら、しっかりとした備えを行うためには、「いずも」型護衛艦を改修し、洋上においてSTOVL機の離発着を可能とすることが必要不可欠であり、これは自衛のための必要最小限度のものです。
なお、「いずも」型護衛艦は、ヘリコプター運用機能、対潜水艦作戦機能、指揮中枢機能、人員や車両の輸送機能、医療機能等を兼ね備えた「多機能な護衛艦」です。今後、これに航空機の運用機能が加わっても、引き続き「多機能な護衛艦」として活用することに変わりなく、有事における航空攻撃への対処、警戒監視、訓練、災害対処など、必要な場合に、STOVL機を搭載した運用を行うこととしています。

スタンド・オフ防衛能力
島嶼部を含むわが国への侵攻を試みる艦艇や上陸部隊などに対して、脅威圏の外からの対処を行うためのスタンド・オフ火力などの必要な能力を獲得するとともに、軍事技術の進展などに適切に対応できるよう、関連する技術の総合的な研究開発を含め、迅速かつ柔軟に強化することとした。

総合ミサイル防空能力
弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機などの多様な空からの脅威に対し、各種装備品を一体的に運用する体制を確立し、平素から常時持続的にわが国全土を防護するとともに、空からの多数の複合的な脅威にも同時対処できる能力の強化や将来的な空からの脅威への対処のあり方についての検討を行うこととした。

機動・展開能力
適切な地域で所要の部隊が平素から常時継続的に活動するとともに、状況に応じた機動・展開を行うため、水陸両用作戦能力などを強化すること、また、迅速かつ大規模な輸送のため、島嶼部の特性に応じた基幹輸送及び端末輸送の能力を含む統合輸送能力を強化するとともに、平素から民間輸送力との連携を図ることとした。

(3)持続性・強靭性の強化
各種事態の際に、弾薬、燃料などの十分な確保・補給や、万が一施設が被害を受けても迅速に復旧することなどは重要である。新防衛大綱はこの点を重視し、弾薬、燃料などの確保、海上輸送路の確保、重要インフラの防護などに必要な措置を推進すること、特に、関係府省などとも連携を図りつつ、弾薬、燃料等の安全かつ着実な整備・備蓄などにより活動の持続性を向上させることと した。また、防衛関連施設など自衛隊の運用にかかる基盤などの分散、被害を受けた際の復旧、代替などにより、多層的に強靭性を向上させ、さらに、装備品の維持整備方法の見直しなどにより、高い可動率を確保することとしている。

3 防衛力の中核的な構成要素の強化における優先事項
新防衛大綱では、自衛隊がわが国の防衛のために万全の体制を整え、十分に活動するための基盤となる人、産業、技術、情報などについて強化することとしている。
(1)人的基盤の強化
人口減少と少子高齢化の急速な進展を踏まえ、自衛隊員を支える人的基盤の強化をこれまで以上に推進していく必要がある。
このため、地方公共団体などとの連携を含む募集施策の推進、採用層の拡大や女性の活躍推進のための取組といった、より幅広い層から多様かつ優秀な人材を確保するための取組に加え、人工知能などの技術革新の成果を活用した無人化・省人化を推進することとしている。
また、全ての自衛隊員が士気高くその能力を十分に発揮し続けられるよう、生活・勤務環境の改善を図るとともに、ワークライフバランスの確保のため、防衛省・自衛隊における働き方改革を推進するとした。
さらに、統合教育・研究の強化など、教育・研究の充実を促進するほか、防衛省・自衛隊の組織マネジメント能力に関する教育の強化を図ることとした。

(2)装備体系の見直し
現有の装備体系を統合運用の観点も踏まえて検証し、合理的な装備体系を構築することとし、その際、各自衛隊の運用に必要な能力などを踏まえつつ、装備品のファミリー化、仕様の最適化・共通化、各自衛隊が共通して保有する装備品の共同調達などを行うとともに、航空機などの種類の削減、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効果の低いプロジェクトの見直しや中止などを行うこととした。

(3)技術基盤の強化
新たな領域に関する技術や、人工知能などのゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術をはじめとする重要技術に対して選択と集中による重点的な投資を行うとともに、研究開発のプロセスの合理化などにより研究開発期間の大幅な短縮を図ることとしている。また、国内外の関係機関との技術交流などを通じた民生技術の積極的な活用、国内外のシンクタンクの活用などによる革新的・萌芽的技術の育成に向けた体制強化を図ることとした。

(4)装備調達の最適化
徹底したコスト管理・抑制を行う必要があることから、装備品の効率的な調達に資する計画的な取得方法の活用や維持整備の効率化、国内外の企業間競争、米国の高性能な装備品を効率的に調達するため、FMS調達3 の合理化などを推進するとともに、ライフサイクル全体を通じたプロジェクト管理の取組をさらに強化することとした。
3 Foreign Military Sales(有償援助)。米国政府が、経済的利益のためでなく、安全保障政策の一環として、武器輸出管理法に基づき、同盟諸国等などに対し、装備品等などを有償で提供するもの。

(5)産業基盤の強靭化
企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直しを行うなど、各種施策を通じて、コストダウンと企業競争力の向上を図ることにより、強靱な産業基盤の構築を目指すこととした。

(6)情報機能の強化
各種事態などの兆候を早期に察知し迅速に対応するとともに、中長期的な軍事動向などを踏まえた各種対応を行うため、情報の収集・処理、分析・共有、保全の各段階における機能を強化することとした。その際、電波情報、画像情報、人的情報、公開情報などに関する収集能力・態勢の強化、情報収集衛星を運用する内閣衛星情報センターなどの国内の関係機関や同盟国などとの連携の強化などを行う。

自衛隊の体制など

新防衛大綱では、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を含め、領域横断作戦を実現するため、1のとおり統合運用を強化するとともに、各自衛隊の体制を2から4までのとおり整備することとしている。

[ 参 照 ]
図表Ⅱ-3-2-1(新防衛大綱の別表)
図表Ⅱ-3-2-2(防衛計画の大綱別表の変遷)





1 領域横断作戦実現のための統合運用
あらゆる分野で陸海空自衛隊の統合を一層推進するため、必要な態勢を統合幕僚監部において強化するなどの施策を講じる。
宇宙領域については、航空自衛隊において宇宙領域専門部隊を保持するとともに、統合運用にかかる態勢を強化する。
サイバー領域については、サイバー防衛能力を抜本的に強化し得るよう、共同の部隊としてサイバー防衛部隊を保持する。
電磁波領域については、統合幕僚監部及び各自衛隊における態勢を強化する。
また、陸上自衛隊において地対空誘導弾部隊及び弾道ミサイル防衛部隊、海上自衛隊においてイージス・システム搭載護衛艦、航空自衛隊において地対空誘導弾部隊を保持し、これらを含む総合ミサイル防空能力を構築する。
統合運用の下、自衛隊の部隊などの迅速な機動・展開を行い得るよう、共同の部隊として海上輸送部隊を保持する。

2 陸上自衛隊の体制
各種事態に即応し得るよう、高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団、機動旅団及び機甲師団)のほか、サイバー領域や電磁波領域における各種作戦などを有効に実施し得るよう、専門的機能を備えた部隊を、機動運用部隊として保持する。
この際、高い練度を維持した機動運用を基本とする作戦基本部隊の半数を北海道に保持する。
また、平素からの常時継続的な機動、自衛隊配備の空白地域となっている島嶼部への部隊配備などにより、抑止力・対処力の強化を図る。
島嶼部などに対する侵攻に対処し得るよう、地対艦誘導弾部隊及び島嶼防衛用高速滑空弾部隊を保持する。
機動運用を基本とする部隊以外の作戦基本部隊(師団・旅団)について、戦車及び火砲を中心として部隊の編成・装備を見直すほか、各方面隊直轄部隊についても航空火力にかかる部隊の編成・装備を見直し、効率化・合理化を徹底した上で、地域の特性に応じて適切に配置する。
編成定数については15.9万人を維持する。

3 海上自衛隊の体制
多様な任務への対応能力を向上させた新型護衛艦(FFM)などを含む増強された護衛艦部隊、掃海艦艇部隊及び艦載回転翼哨戒機部隊を保持し、これら護衛艦部隊及び掃海艦艇部隊から構成される水上艦艇部隊を編成する。また、わが国周辺海域における平素からの警戒監視を強化し得るよう、哨戒艦部隊を新編する。
水中における情報収集・警戒監視を平素からわが国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒及び防衛を有効に行い得るよう、増強された潜水艦部隊を保持する。その際、試験潜水艦の導入により、潜水艦部隊の運用効率化と能力向上の加速を図り、常続監視のために体制を強化する。
洋上における情報収集・警戒監視を平素からわが国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒及び防衛を有効に行い得るよう、固定翼哨戒機部隊を保持する。

4 航空自衛隊の体制
太平洋側の広大な空域を含むわが国周辺空域の常時継続的な警戒監視などを行い得る警戒管制部隊のほか、グレーゾーンの事態などの情勢緊迫時において、長期間にわたり空中における警戒監視・管制を有効に行い得る増強された警戒航空部隊からなる航空警戒管制部隊を保持する。
能力の高い戦闘機で増強された戦闘機部隊を保持する。また、増強された空中給油・輸送部隊を保持する。 陸上部隊などの機動・展開などを効果的に実施し得る航空輸送部隊を保持する。
わが国から比較的離れた地域での情報収集や事態が緊迫した際の空中での常時継続的な監視を実施し得る無人機部隊を保持する。

防衛力を支える要素

新防衛大綱では、防衛力がその真価を発揮できるよう、防衛力を支える要素として以下の取組を重視するとしている。
1 訓練・演習
新防衛大綱では、関係機関、地方公共団体や民間部門とも連携しながら、より実践的で効果的かつ計画的な訓練・演習を実施すること、その際、北海道を始めとした国内の演習場などや国外の良好な訓練環境の整備・活用に加え、米軍施設・区域の共同使用、自衛隊施設や米軍施設・区域以外の場所の利用などを促進すること、シミュレーターなどをより積極的に導入することなどを挙げるとともに、事態に対処するための各種計画を不断に検証し、見直すため、訓練・演習を積極的に活用することとしている。

2 衛生
新防衛大綱では、隊員の生命を最大限守れるよう、第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢を強化し、地域の特性を踏まえつつ、南西地域における自衛隊の衛生機能の強化を重視すること、自衛隊病院の拠点化・高機能化などにより、効率的で質の高い医療体制を確立すること、自衛隊の部隊の衛生にかかる人材確保のため、防衛医科大学校の運営改善をはじめとする取組を行うこと、戦傷医療対処能力の向上を含む教育・研究を充実・強化することなどを挙げている。

3 地域コミュニティーとの連携
新防衛大綱では、平素から防衛省・自衛隊の政策や活動に関する積極的な広報を行うとともに、自衛隊及び在日米軍の部隊や装備品の配備、訓練・演習などの実施にあたっては、地元の要望や情勢に応じたきめ細かな調整を実施すること、騒音などへの対策を含む防衛施設周辺対策事業を引き続き推進すること、各種事態において自衛隊が迅速かつ確実に活動を行うため、地方公共団体、警察・消防機関といった関係機関との連携を一層強化することを挙げた。
部隊の改編や駐屯地・基地などの配置にあたっては、地方公共団体や地元住民の理解を得られるよう、地域の特性に配慮するとともに、駐屯地・基地などの運営に当たっては、地元経済への寄与に配慮することとしている。

4 知的基盤
新防衛大綱では、安全保障・危機管理に対する国民の理解を促進するため、教育機関などにおける安全保障教育の推進に取り組むこと、防衛研究所による研究と政策支援を高い水準で両立させるため、政策部門との間の連携を促進するとともに、防衛研究所を中心とする研究体制を一層強化すること、その際、政府内の他の研究教育機関や国内外における優れた大学、シンクタンクなどと組織的な連携を推進することとしている。

留意事項

新防衛大綱では、その定める防衛力のあり方は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものであり、各種施策・計画の実施過程を通じ、国家安全保障会議において定期的に体系的な評価を行うとともに、今後のわが国の防衛に必要な能力に関する検証を実施することとし、また、評価・検証の中で、情勢に重要な変化が見込まれる場合には、その時点における安全保障環境などを勘案して検討を行い、所要の修正を行うこととした。
格段に厳しさを増す財政事情と国民生活にかかわる他の予算の重要性などを勘案し、防衛力整備の一層の効率化・合理化を図り、経費の抑制に努めるとともに、国の他の諸施策との調和を図りつつ、防衛力全体として円滑に十全な機能を果たし得るようにすることを明示した。(了)

参考資料:令和元年度防衛白書「日本の防衛」(防衛省)