第6回:「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」
(22大綱)

平成22年12月17日、政権交代に伴い策定が遅れていた防衛計画の大綱の改定が、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」(22大綱)として安全保障会議、閣議で決定されました。今回は、公表された22大綱(以下「新大綱」)の内容について、主として16大綱(以下「前大綱」)との変更点について説明します。

Ⅰ 策定の趣旨
新大綱は、我が国を取り巻く新たな安全保障環境の下、今後の我が国の安全保障及び防衛力の在り方について、「平成22年度の防衛力整備等について」(平成21年12月17日安全保障会議及び閣議決定)に基づき、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」として、新たな指針が示されました。
それまでの「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(16大綱」)は、策定から5年後には、その時点における安全保障環境、技術水準の動向等を勘案し検討を行い、必要な修正を行うこととされていました。

しかし、このような大綱の見直しについては、国家の安全保障にかかわる重要課題であり、政権交代という歴史的転換を経て、新しい政府として十分な検討を行う必要があることから、平成22年中に結論を得ることとされ、その際には、国際情勢のすう勢や我が国を取り巻く安全保障環境、我が国の防衛力や自衛隊の現状等を分析、評価した上で、我が国の安全保障の基本方針を策定するとともに、効果的な防衛力の効率的な整備に向けて取り組むこととされていました。
また、「中期防衛力整備計画(平成17年度~平成21年度)」は、16大綱に定める防衛力の水準を達成するための中期的な整備計画、対象期間内の防衛関係費の総額の限度等を定めるものですが、次期の中期的な防衛力の整備計画は、16大綱の見直しの結論を踏まえて策定することとされました。
16大綱については、策定5年後必要な修正を行うとされていること、その後のわが国の安全保障環の変化に適切に対応するため、自民党政権下の平成21年1月、「安全保障と防衛力に関する懇談会」が設置され、今後の防衛構想と防衛力のあり方に関する指針を提示することとされました。
この懇談会は21年5月までに10回開催されましたが、民主党の政権交代に伴い平成22年2月、改めて「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(佐藤茂雄座長、以下「懇談会」という)として開催され、8回にわたる検討を経て同年8月、その報告書が菅首相に提出されました。本報告書も検討材料の一つとしつつ、16大綱の見直しが進められました。
Ⅱ わが国の安全保障における基本理念
この章では前大綱のわが国の安全保障の「基本方針」の部分を別章建てとし、強調しています。
安全保障の目標として次の3つを掲げていますが、③の他は前大綱と同じです。

我が国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともに被害を最小化することであり、もって我が国の平和と安全及び国民の安心・安全を確保すること
アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善により脅威の発生を予防することであり、もって自由で開かれた国際秩序を維持強化して我が国の安全と繁栄を確保すること
世界の平和と安定及び人間の安全保障の確保に貢献すること
Ⅲ わが国を取り巻く安全保障環境
安全保障環境を①グローバル ②アジア太平洋地域 ③わが国と区分して分析しています。
このうち、北朝鮮については前大綱とほぼ同じであるが、中国の動向については「中国の軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、地域・国際社会の懸念事項となっている」と分析し、前大綱の「今後も注目していく必要がある」と言う表現から一歩踏み込んでいます。

また、ロシアについては前大綱では言及していないが、新大綱では「極東地域における軍事力の規模を冷戦終結以降大幅に縮減しているものの、軍事活動は引き続き活発化の傾向にある」と分析しています。
Ⅳ わが国の安全保障の基本方針
「わが国自身の努力」として、国として戦略的に取り組むことを強調し、新たに次の4点を掲げています。
これらはいずれも「懇談会」の提言事項です。

首相官邸に国家安全保障に関し関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言等を行う組織を設置
国際平和協力活動を始めとするグローバルな安全保障環境の改善のための取組においては、関係機関の連携はもとより、非政府組織等とも連携・協力を図ることにより効率的かつ効果的に対応
国連平和維持活動の実態を踏まえ、PKO参加五原則等我が国の参加の在り方を検討
我が国の安全保障・防衛政策をより分かりやすくするための努力と同時に、国際社会における我が国の安全保障・防衛政策への理解を一層促進するため対外情報発信を強化
わが国の防衛力については、「防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくことが、我が国周辺の安定に寄与するとともに、抑止力の信頼性を高める重要な要素となってきている。

このため、装備の運用水準を高め、その活動量を増大させることによって、より大きな能力を発揮することが求められており、このような防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視していく必要がある」として『動的防衛力』と言う新しい概念を打ち出しています。
この概念は前大綱までの『基盤的防衛力』という概念に代わるものであり、今後の防衛力については、「各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものとしていくことが必要」とし、「このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する」としています。
この考え方も、「懇談会」報告書で言うところの「動的抑止力」という概念と同じです。
「同盟国との協力」においては前大綱と同様、米国との日米安全保障体制を中核とする日米同盟は必要不可欠なものとして、新大綱では新たな安全保障関係にふさわしい形で深化発展させていくとしています。
「国際社会における多層的な安全保障協力」においては、特にアジア太平洋地域における協力を強調し中でも米国のほかに韓国及びオーストラリアとは、二国間及び米国を含めた多国間での協力を強化するとしています。

また「アフリカ、中東から東アジアに至る海上交通の安全確保等に共通の利害を有するインドを始めとする関係各国との協力を強化する」としてインドを名指ししています。

更に、「この地域の安全保障に大きな影響力を持つ中国やロシアとの間では、安全保障対話・交流等を通じて信頼関係を増進するとともに、非伝統的安全保障分野等における協力関係の構築・発展を図る。

特に、中国との間では、戦略的互恵関係の構築の一環として、様々な分野で建設的な協力関係を強化することが極めて重要との認識の下、中国が国際社会において責任ある行動をとるよう、同盟国等とも協力して積極的な関与を行う」とロシア、中国との関係まで言及しています。
Ⅴ 防衛力のあり方
今後の我が国の防衛力については、上記の動的防衛力という考え方の下、適切にその役割を果たし得るものとするとして以下の分野を挙げています。

実効的な抑止及び対処
アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化
グローバルな安全保障環境の改善
このうち、③については前大綱とほぼ同様ですが、②で特に ジア太平洋地域の安定化について強調しています。
①では、「我が国周辺における各国の軍事動向を把握し、各種兆候を早期に察知するため、平素から我が国及びその周辺において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動(以下「常続監視」という。)による情報優越を確保するとともに、各種事態の展開に応じ迅速かつシームレスに対応する。

また、本格的な侵略事態への備えについて、不確実な将来情勢の変化への必要最小限の備えを保持する。」とし、その際、特に次を重視するとしています。

・ 周辺海空域の安全確保
・ 島嶼部に対する攻撃への対応
・ サイバー攻撃への対応
・ ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応
・ 弾道ミサイル攻撃への対応
・ 複合事態への対応
・ 大規模・特殊災害等への対応
これらの脅威や事態は、サイバー攻撃と複合事態のほかは前大綱でも言及されていす。
また、動的防衛力の考え方を強調するため、「周辺海空域の安全確保」が重視事項の一番目に位置づけられています。
〇自衛隊は、前述した防衛力の役割を実効的に果たし得るよう、各種事態等への対応に必要な態勢に加え、以下に示す態勢を保持するとして「自衛隊の態勢」という項目が追加されました。

①即応態勢
待機態勢の保持、機動力の向上、練度・可動率の維持向上等を行い、部隊等の即応性を高め、これを適切かつ効率的に配置することにより、迅速かつ効果的に活動を行い得るようにする。また、自衛隊が動的防衛力として抑止・対処において有効に役割を果たせるよう、基地機能の抗たん性を確保するとともに、燃料、弾薬(訓練弾を含む)を確保し、維持整備に万全を期すものとする。
②統合運用態勢
迅速かつ効果的な対処に必要な情報収集態勢を保持するほか、衛星通信を含む高度な情報通信ネットワークを活用した指揮統制機能及び情報共有態勢並びにサイバー攻撃対処態勢を保持することにより、統合運用を円滑に実施し得るようにする。
③国際平和協力活動の態勢
多様な任務、迅速な派遣、長期の活動にも対応し得る能力、態勢等の充実を図ることにより、国際平和協力活動を積極的に実施し得るようにする。
前大綱では防衛力の役割を果たすための基本的な事項と別表によりその体制が示されたのに過ぎませんでしたが、新大綱では「自衛隊の体制」という項目が追加され、基本的な考え方と体制整備に当っての重視事項、保持すべき各自衛隊の体制が具体的に述べられ、主要な編成、装備等の具体的規模が、別表により示されました。
体制の保持に際しては、効果的・効率的な防衛力整備を行う観点から、「各種の活動に活用し得る機能、非対称的な対応能力を有する機能及び非代替的な機能を優先的に整備する。

具体的には、冷戦型の装備・編成を縮減し、部隊の地理的配置や各自衛隊の運用を適切に見直すとともに、南西地域も含め、警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処、輸送、指揮通信等の機能を重点的に整備し、防衛態勢の充実を図る」とされ、具体的に南西地域が指定されました。
また、体制整備に当たっての重視事項として次が挙げられています。

統合の強化
島嶼部における対応能力の強化
国際平和協力活動への対応能力の強化
情報機能の強化
科学技術の発展への対応
効率的・効果的な防衛力整備
 このうち、②③以外は前大綱でも言及されています。
「各自衛隊の体制」については、前大綱では関単に別表で示されたのみでしたが、新大綱では保有すべき防衛力の役割、機能、部隊の種別等が具体的に述べられ、その編成、装備等の具体的規模が別表で示されました。
以下、各自衛隊の体制について別表で変更された部分について紹介します。

陸上自衛隊
編成定数:15万5千人から15万4千人に削減
常備自衛官定員:14万8千人から14万7千人に削減
地対空誘導弾部隊:8個高射特科群/連隊から7個高射特科群/連隊に削減
戦車:約600両を約400両に削減
火砲:約600門/両を約400門/両に削減
海上自衛隊
護衛艦部隊(地域配備):5個護衛隊から4個護衛隊に削減
護衛艦:47隻から48席に増加
潜水艦:16隻から22隻に増加
航空自衛隊
航空警戒管制部隊:8個警戒群から4個警戒群に削減
20個警戒隊から24個警戒隊に増加
作戦用航空機:約350機から約340機に削減
 
弾道ミサイル防衛にも使用しうる主要装備・基幹部隊
イージス・システム搭載護衛艦:4隻から6隻に増加
地対空誘導弾部隊:3個高射群から6個高射群に増加

注1: 「弾道ミサイル防衛にも使用し得る主要装備・基幹部隊」は海上自衛隊の主要装備又は航空自衛隊の基幹部隊の内数。
注2: 弾道ミサイル防衛機能を備えたイージス・システム搭載護衛艦については、弾道ミサイル防衛関連技術の進展、財政事情等を踏まえ、別途定める場合には、上記の護衛艦隻数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする。
Ⅵ 防衛力の能力発揮のための基盤
この章が新たに追加され、防衛力の整備、維持及び運用を効率的・効果的に行うため以下の事項を重視することとされた。
人的資源の効果的な活用
装備品等の運用基盤の充実
装備品取得の一層の効率化
防衛生産・技術基盤の維持・育成
防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討
防衛施設と周辺地域との調和
これらの項目は②を除き前大綱にも何らかの形で盛り込まれている。また、いずれも「懇談会」の報告書でも提言されている事項であるが、提言にある武器輸出三原則の見直しについては含まれていない。
Ⅶ 留意事項
この大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年後までを念頭に置き、防衛力の変革を図るものであるが、情勢に重要な変化が生じた場合には、その時点における安全保障環境、技術水準の動向等を勘案し検討を行い、必要な修正を行うこととされている。
また、この大綱に定める防衛力へ円滑・迅速・的確な移行が行われるよう、計画的な移行管理を行うとともに、事後検証を行う。
また、前項の見直しに資するため、あるべき防衛力の姿について不断の検討を行うこととされている。
(完)