第4回:平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について
(07大綱)

昭和51年(1976年)に策定された防衛計画の大綱(51大綱)が約20年を経て改訂されることになり、平成7年(1995年)11月、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について」(07大綱)が閣議決定されました。
今回は、この07大綱の策定された背景やその内容について解説します。

07大綱の概要
 「防衛計画の大綱」の見直しが行われたきっかけは言うまでもなく平成元年(1989年)の冷戦の終結でした。
これに加え平成3年(1991年)の湾岸戦争とその後のペルシャ湾における機雷除去及び処理のための掃海部隊派遣、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災の経験も影響があったと考えられます。

「防衛計画の大綱」が策定されてから、約20年が経過し、冷戦の終結など国際情勢が大きく変化し、阪神・淡路大震災やペルシャ湾への掃海部隊派遣のような我が国を防衛するという以外の分野で自衛隊が役割を果たすことに対する期待が大きくなってきたこと、さらに、科学技術の進歩、若年人口の減少、厳しい経済財政事情といった新たな情勢をふまえ、今後の我が国の防衛力のあり方について新たな指針を示すことになりました。
 これまでの防衛計画の大綱では防衛力が果たすべき役割として「侵略の未然防止」と「侵略対処」が構想されてきましたが、「平成8年度以降に関わる防衛計画の大綱」では先に述べた国内外の情勢の変化を踏まえて防衛力の役割も大きく変わりました。
すなわち、これまでの「侵略の未然防止」と「侵略対処」は「我が国の防衛」として1つにまとめられ、新しく「大規模災害等各種事態への対応」と「より安定した安全保障環境の構築への貢献」が加えられました。
 これに伴い防衛の態勢にも変更が加えられました。防衛計画の大綱にあった「間接侵略、軍事力をもってする不法行為等に対処する態勢」と「直接侵略事態に対処する態勢」は1つにまとめられ、「侵略事態等に対応する態勢」として次のような細部が規定されました。

日米両国間における各種の研究、共同演習・共同訓練等を通じ、日米安全保障体制の信頼性の維持向上に努めるとともに、直接侵略事態が発生した場合、各種の防衛機能を有機的に組み合わせることにより、その態様に即応して行動し、有効な能力を発揮し得ること。
間接侵略及び軍事力をもってする不法行為が発生した場合には、これに即応して行動し、適切な措置を講じ得ること。
我が国の領空に侵入した航空機又は侵入するおそれのある航空機に対し、即時適切な措置を講じ得ること。

 新しく加えられた「大規模災害等各種事態への対応」に応じることができるように「災害救援等の態勢」として「国内のどの地域においても、大規模な災害等人命又は財産の保護を必要とする各種の事態に対して、適時適切に災害救援等の行動」が求められています。そして、「防衛計画の大綱」では6番目に記載されていた「災害救援等の態勢」はこの項目に取り込まれています。

また、「より安定した安全保障環境の構築への貢献」できるよう「国際平和協力業務等の実施の態勢」として「国際社会の平和と安定の維持に資するため、国際平和協力業務及び国際緊急援助活動を適時適切に実施し得ること」が必要とされました。
 「警戒のための態勢」と、「指揮通信及び後方支援の態勢」は整理し直され、「警戒、情報及び指揮通信の態勢」と「後方支援の態勢」とされました。

「警戒、情報及び指揮通信の態勢」では「機敏な意思決定に資するため」に途切れることなく常に警戒監視を行うとともに、「戦略情報を含む高度の情報収集・分析等を実施」することができなければならないとされています。
その際、「多様な情報収集手段の保有及び能力の高い情報専門家の確保」の重要性が指摘されています。
 「後方支援の態勢」は独立した項目となり、その意図するところは「防衛計画の大綱」とほとんど替わりはありません。
 「人事・教育訓練の態勢」では最初に人の構成を適正なものとすることが謳われ、「国際平和協力業務等の円滑な実施」を視野に入れながら「各自衛隊・各機関相互間及び他省庁・民間との交流の推進等」と「高い士気及び能力並びに広い視野を備えた隊員」の確保が主要な目標として設定されています。

そして、この目標を達成するために「隊員の募集、処遇、人材育成・教育訓練等」の適切な実施が必要であるとされました。
 以上の防衛の態勢のもとで「我が国の防衛」、「大規模災害等各種事態への対応」、「より安定した安全保障環境の構築への貢献」という3つの役割を果たすために必要な自衛隊の体制は次のように考えられました。

 海上自衛隊と航空自衛隊について先の「防衛計画の大綱」とほとんど変わりは有りませんでした。
陸上自衛隊については従来の体制に「高い練度を維持し、侵略等の事態に迅速に対処し得るよう、部隊等の編成に当たっては、常備自衛官をもって充てることを原則とし、一部の部隊については即応性の高い予備自衛官を主体として充てること」が追加されました。
さらに、防衛力を整備する際の指針ともなる「防衛力のあり方」として
   ・ 合理化
   ・ 効率化
   ・ コンパクト化
の3点が示されました。

以下、平成8年度版「日本の防衛」(防衛白書)を参考に、①07大綱の策定にいたる背景②その基本的考え方③具体的な防衛力の内容について詳しく説明します。

07大綱の策定に至る背景
 51大綱では、国際情勢について次のような認識に立っていました。

全般情勢について、核相互抑止を含む軍事均衡やさまざまな国際関係安定化の努力により、東西間の全面的軍事衝突又はこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が生起する可能性は少ない。
   
我が国周辺においては、限定的な武力紛争が生起する可能性を否定できないが、米・ソ・中という大国間の均衡的関係や日米安保体制の存在が国際関係の安定維持及び我が国に対する侵攻の防止に大きな役割を果たし続ける。
 51大綱は、このような国際情勢などが当分の間大きく変化しないという前提に立って、我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方、すなわち、「基盤的防衛力構想」を採用していました。
 51大綱策定後、既に約20年が経過し、我が国防衛を取り巻く環境に変化が見られています。
まず、冷戦の終結などに見られるように国際情勢は大きく変化しました。

また、阪神・淡路大震災やカンボディアなどにおける国際平和協力業務における自衛隊の活動の実績を背景として、主たる任務である我が国の防衛に加えて、大規模な災害など各種事態への対応や国際平和協力業務の実施などを通じたより安定した安全保障環境の構築への貢献という分野における自衛隊の役割に対する期待が高まってきています。

さらに、近年の科学技術の進歩に伴う装備の格段の性能向上、将来の若年人口の減少見込み、経済財政事情の厳しさによる防衛費の厳しい状況予想など自衛隊を取り巻く環境は前大綱時とは大きく変化しています。
以上のような国内外の環境の変化を踏まえ、長期にわたる広範な国民的議論の積み重ねを経て、平成7年11月、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について」(07大綱)が策定されました。

07大綱における基本的考え方
保有すべき防衛力についての基本的考え方
基盤的防衛力構想の基本的踏襲

 07大綱においては、ソ連の崩壊により、名実ともに冷戦が終結したことを受けて、1)不透明・不確実な要素をはらみながらも国際関係の安定を図るための様々な努力が今後も継続していくこと、2)わが国の安全及び周辺地域の平和と安定にとって日米安保体制が引き続き重要な役割を果たし続けるという点において、51大綱と基本的に同様の情勢認識を有していることから、これまで防衛力整備の指針として有効に機能してきた「基盤的防衛力構想」を成り立たせる前提に変わりはないと判断し、これを基本的に踏襲することとしたものです。

 なお、51大綱における「限定的かつ小規模な侵略については原則として独力で排除する」との表現については、限定的かつ小規模な侵略の蓋然性が特に高いというような誤解を招く向きがあったことなどに加え、後述するように、防衛力の役割の拡大などを踏まえ、わが国に対する侵略のみに焦点を当てたような表現はふさわしくないとの判断の下、削除しました。
防衛力の果たすべき役割の明示及び保有すべき防衛力の内容の見直し

 保有すべき防衛力の具体的な内容については、わが国周辺地域の一部における軍事力の削減や軍事態勢の変化が見られることに留意しつつ、その具体的なあり方を見直し、最も効率的で適切なものとする必要があるとしています。

 また、内外諸情勢の変化や国際社会においてわが国が置かれている立場を考慮すれば、自衛隊は、主たる任務がわが国の防衛であることを基本としつつ、「大規模災害など各種の事態への対応」、「より安定した安全保障環境の構築への貢献」という分野においても、適時適切にその役割を担っていくべきとしています。

 07大綱においては、以上の点を踏まえて、防衛力の規模及び機能の見直しを行い、その合理化・効率化・コンパクト化を一層進めるとともに、必要な機能の充実・防衛力の質的な向上も図ることにより、多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力を整備し、同時に事態の推移にも円滑に対応できるよう適切な弾力性を確保し得るものとすることが適当であるとしたものです。

日米安全保障体制の重要性の再確認

 07大綱では、冷戦終結後の国際社会における日米安保体制の役割が再認識されているという認識の下、これまでの日米防衛協力の成果を再確認しつつ、また、日米両国が行ってきた対話の成果も踏まえ、日米安保体制の意義及びその信頼性の向上を図り、これを有効に機能させていくための具体的な取組の重要性について整理して述べています。

防衛力の今後の役割
 防衛力の中心的な役割が「我が国の防衛」であることは言うまでもありませんが、近年における環境の変化、特に自衛隊の活動に対する期待の高まりなどを考慮すると、防衛力はより幅広い役割を果たすことを求められていると考えられます。

①我が国の防衛

 我が国の防衛に関しては、まず、侵略の未然防止に努めることが重要であります。
また、核兵器の脅威に対しては、核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮の国際的努力の中で、我が国として積極的な役割を果たしつつ、米国の核抑止力に依存する必要があります。間接侵略などが発生した場合には、自衛隊は事態に即応して行動し、早期にこれを収拾しなければなりません。
また、直接侵略事態が発生した場合には、速やかにこれを排除しなければなりません。

②大規模災害など各種の事態への対応

 阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件のような人命又は財産の保護を必要とする大規模災害など各種の事態に際し、自衛隊が派遣を要請された場合などには、地方公共団体などとの緊密な協力の下、状況に応じた適切な救援活動などを速やかに実施する必要があります。

また、我が国周辺地域において我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生した場合には、自衛隊としても、憲法及び関係法令に従い、適切に対応する必要があります。

③より安定した安全保障環境の構築への貢献
 国際平和協力業務の実施を通じ、国際平和のための努力に寄与するとともに、国際緊急援助活動の実施により国際協力の推進に寄与します。
また、防衛首脳間の対話を含めたさまざまなレベルでの防衛当局間の対話・交流などを引き続き推進し、我が国周辺諸国を含む関係諸国との間の信頼関係の増進を図ります。

さらに、国連・国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野における諸活動に協力していく必要があります。
07大綱における具体的な防衛力の内容

各自衛隊の体制

① 陸上自衛隊
・平時地域配備する部隊については、現在の12個師団、2個混成団から、8個師団、6個旅団
・主として機動的に運用する各種の部隊については、従来と同様、機甲師団、ヘリコプター団、空挺団をそれぞれ1個保有

・地対空誘導弾部隊については、引き続き8個高射特科群を保有
・編成定数は、現在の18万人から16万人。また、部隊などの編成に当たっては、原則として常備自衛官を充て、一部の部隊については即応予備自衛官を主体として充てる。これにより、常備自衛官14.5万人、即応予備自衛官1.5万人

・陸上自衛隊の装備について、戦車は現在の約1,200両から約900両、主要特科装備は現在の約1,000門/両から約900門/両

② 海上自衛隊
・ 機動的に運用する護衛艦部隊について、引き続き4個護衛隊群を保有
・ 沿岸海域の警戒及び防備に当たる護衛艦部隊については、現在の10個護衛隊から7個護衛隊。これに伴い、護衛艦部隊(機動運用及び地方隊)の護衛艦の隻数は、前大綱の約60隻から約50隻
・ 潜水艦部隊については、引き続き6個隊16隻を保有
・ 掃海部隊については、2個掃海隊群を1個掃海隊群に集約化
・ 陸上哨戒機部隊については、1.周辺海域の哨戒などに当たる固定翼哨戒機部隊を10個隊から8個隊 2.主要な港湾、海峡などの警戒及び防備に当たる陸上回転翼哨戒機部隊を6個隊から5個隊

③ 航空自衛隊
・ 航空警戒管制部隊については、現在の28個警戒群を、8個警戒群及び20個警戒隊。また、警戒飛行部隊については、引き続き1個飛行隊を保有
・ 戦闘機部隊については、現在の13個飛行隊を12個飛行隊
・ 地対空誘導弾部隊については、引き続き、6個高射群を保有
・ 航空偵察部隊については、引き続き1個飛行隊を保有し、航空輸送部隊については、引き続き3個飛行隊を保有
・ 作戦用航空機については、約430機から約400機とし、そのうち戦闘機は約350機から約300機

各種の態勢
 07大綱では、防衛力の役割を果たすために各自衛隊が保持すべき各種の態勢、つまり、 (1)侵略事態などに対応するための態勢  (2)災害救援などの態勢  (3)国際平和協力業務などの実施の態勢  (4)警戒、情報及び指揮通信の態勢  (5)後方支援の態勢  (6)人事・教育訓練の態勢のそれぞれについて説明しています。

防衛力の弾力性の確保
 07大綱は、事態の推移に円滑に対応できるよう、防衛力の適切な弾力性を確保することとしています。
この弾力性の確保としては、取得に相当な期間を必要とする装備や養成に長期間を要する要員を教育訓練部門などにおいて保持することや、新たに即応予備自衛官を確保することが考えられます。

防衛力の整備、維持及び運用における留意事項
 07大綱では、経済財政事情などを勘案して国の他の諸施策との調和を図るなど、防衛力の整備、維持及び運用を行う際の留意事項を記述しています。
また、将来、情勢に重要な変化が生じ、防衛力の在り方の見直しが必要となると予想される場合には、その時の情勢に照らして、新防衛大綱の自体の見直しを含めて、改めて防衛力の在り方を見直すべきかどうかを検討することとしています。