新任務に対応し得る国家態勢の構築をこそ優先させよ!

平成28年11月18日
山下 輝男

1 初めに
 新平和安全法制の成立に伴う新任務の付与が、参議院選挙に悪影響を及ぼす可能性があるとの政治的な理由により先延ばしにされていたが、「駆け付け警護」等に係る任務の付与が閣議決定され、11月18日防衛大臣が命令を発した。
 新任務を付与されたPKO部隊が、今月末(平成28年11月)にも出発する予定である。
 本稿は、「駆けつけ警護」の概要を再確認し、新任務付与に関わる課題について検討しようとするものである。

2 駆けつけ警護について
(1)概要
 誤解を招かないようにして頂きたいのは、「駆けつけ警護」なる法律用語はないということです。


今般、新たに任務付与されることとなった「駆けつけ警護」とは、 離れた場所にいる国連職員やNGO職員、他国軍の兵士らが武装勢力に襲われた場合に助けに向かうという行動である。

 駆けつけ警護については、1994(平成6)年、ザイール(当時)のゴマ市内の難民キャンプで活動していた日本のNGOが使用していた車両が難民により強奪された際に、このNGOから、難民救援のために現地に派遣されていた自衛隊に対して救援の要請があり輸送との名目で保護した事例があり、同様な事例は東チモールPKOであったと云われる。
 PKO派遣の当初から駆け付け警護の必要性は指摘されていたのであるが、なかなか日の目を見ることはなかった。
 現在、自衛隊の活動の現場においても、平素より、国際機関やNGOの職員と情報交換や交流をはじめとする各種の連携を図っている。このような状況を踏まえれば、今後、自衛隊が危険に遭遇している活動関係者から救援の要請を受ける場合も十分あり得ると判断される。こうした考えに基づき、今般の平和安全法制の整備において、いわゆる「駆け付け警護」が認められた。
 PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況等において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するものとされる。
 ザイールや東チモールの場合、現地部隊は、苦肉の策として、ぎりぎりの判断で輸送任務を決断した筈だ。指揮官の苦悩や如何ばかりであったろう。任務が付与されることにより、そのような現地部隊の負担の軽減は可能となる。
 平和安全法制の整備で日本人等の保護が出来るようになり、共同防護が出来るようになり、日本人及びPKO部隊の安全度は高まるだろうし、外国からの信頼度もさらに増すだろう。国連PKOにとって、画期的な事であった。

(2)国連PKOにおける武器使用権限について
ア 概要
 国連PKOの要員は、自衛のため、武力を行使することができ、その権利は固有のものとされる。
 日本では、国連PKOの各種先例を検討し、武器の使用を、①自己防護のための武器の使用(Aタイプ)と②任務遂行のための武器の使用(Bタイプ)に分類して、検討した。結果、任務遂行型の武器使用については、国家または国家に準ずる組織の間において生じる武力を用いた争い、即ち憲法の禁ずる国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為に該当する恐れがあるとの判断から認められていないとの立場をとってきた。
 国連PKOの武器使用について、安保法制懇の提言では、国際基準を適用(AタイプのみならずBタイプをも)することを答申した。然しながら、政府は、国際基準の適用を認めるのではなく、いわば「わが国独自の基準」を維持しつつこれを国際基準に可能な限り近づけるという手法をとったと云われる。所謂「安全確保業務」や「駆け付け警護」における武器使用を『所謂任務遂行型の武器使用』とした。

イ 自己保存型の武器使用権限の拡充
 自己保存のための自然権的権利に基づく武器使用が、自己保存型の武器使用であり、従来は、防護対象を、自己だけではなく、自己と共に現場に所在する我が国の要員、自己の管理下に入った者としていたが、改正PKO法で、「自己と同じ宿営地に所在する者の生命と身体を防護」するために自衛官が武器の使用を認めた。これが、今般の任務付与となった「宿営地の共同防護」である。
 この自己保存型の武器使用では、たとえ相手が国家または国家に準ずる組織であったとしても憲法が禁止する「武力の行使」には当たらないとされる。
 自衛隊派遣部隊が、その防護能力がありながら、他国軍隊に守って貰うこと、並びに一緒に起居しながら守ってやれないことの不合理さ・不自然さを解消するものであり、肩身の狭い思いをしなくて済む。国際的責任を果たしうるというものである。

ウ 駆けつけ警護のための武器の使用
 前述したとおり、駆け付け警護のための武器使用は、所謂任務遂行型の武器使用(Bタイプ)と位置付けられている。
 防衛白書は、駆け付け警護に係る武器使用権限について次のように説明している。「いわゆる駆けつけ警護を行う場合は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用を認めた(ただし、人への危害が許容されるのは、正当防衛・緊急避難に該当する場合のみ)。かなり抑制的な武器使用権限である。本件については、紛争当事者及び当該活動が行われる地域の属する国の同意が、当該活動等が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められるときに限ることとされている。

3 閣議決定等について
 政府は、2018年11月15日、午前の閣議で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊に安全保障関連法に基づく「駆けつけ警護」任務を付与する実施計画案を決定した。閣議決定に先立ち、首相官邸で国家安全保障会議(NSC)の四大臣会合を開催し、現地の治安状況や部隊の訓練の習熟度を総合的に検討した結果、新任務の付与が妥当だと判断したとされる。
(1)実施計画の変更及び運用方針の概要
 南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更について(H28/11/15防衛省)によれば、国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に係る実施計画の変更内容が示されている。それによれば、変更点は、以下の3点である。
 ① 国際平和協力業務の種類及び内容
 PKO法第3条第5号ラに掲げる業務に係る国際平和協力業務を追加
*「ラ」号とは、「ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第二項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護」となっている。
 従来、自己保存型の武器使用の対象とされた、他の要員、自己の管理下又は宿営地にある者に加えて、本「ラ号」で云う活動関係者の防護をも認めるということであり、これこそが所謂「駆けつけ警護」であり、本実施計画の変更により、新任務付与となる次第である。
 ② 同意の安定的維持について、UNIMISSの活動内容、期間等に関して安保理における決議がなされる場合その他必要な場合においては、速やかに国家安全保障会議を開催し再確認する旨を追記
 ③ いわゆる参加5原則が維持されている場合でも、安全を確保しつつ有意義な活動を行うことが困難と認められる場合には、国家安全保障会議における審議のうえ、南スーダン国際平和協力隊及び自衛隊の部隊等を撤収する旨を追記
* 本件に関し、安倍首相は15日のTPP参院特別委で「・・・・撤収を躊躇することはない」と述べた。

 閣議決定に合わせて策定された「新任務付与に関する考え方」には、
 ①「駆けつけ警護」は「極めて限定的な場面で、応急的かつ一時的な措置として、能力の範囲内で行う。」とした。即ち現場付近に国連部隊が存在しないというような場面に限り「緊急の要請を受け、人道性及び緊急性に鑑み、応急的かつ一時的な措置であるとしたものである。
 ②活動範囲は、「(首都)ジュバ及びその周辺地域」に限定した。
 ③防護対象者については、「他国の軍人を駆け付け警護することは想定されない。」と明記した。
  宿営地の共同防護についても認めることとした。宿営地が襲撃された場合、他国要員と自衛隊員の共同対処は、結果的に安全性を高めると指摘している。

(2)南スーダン施設部隊の編成等
 UNIMISSの組織及び南スーダン派遣施設隊の概要は防衛白書によれば次のとおりである。

UNMISSには、日本以外の歩兵部隊が派遣されており、基本的には

 駆けつけ警護や宿営地の共同防護を担うのは、警備小隊である。平和安全法制の成立を受けて、何れ係る任務が付与されることを予期して、交戦規程(ROE)を理解し、それに習熟して、如何なる事態にも対応できるべく、部隊は相当な訓練を積んだはずである。その訓練状況が報道陣に10月24日公開された。隊員も指揮官も超一流の者が選ばれている筈だ(と確信する)。

(3)今後の予定等
 報道によれば、以下の通りである。
11月20日~:11次隊が南スーダンに向けて日本を随時出発
12月12日 :11次隊が現地で活動を開始。新任務の実施が可能
尚、11次隊は、陸上自衛隊第9師団を中心とする約350人とされる。

4 課題について
(1)殉職者への対応
 リスク低減の対策は採られるのだろうが、それでも万全という訳ではない。若しも万が一共同防護や駆け付け警護の任務遂行中に、殉職した場合、国家として如何なる対応をすべきかを早急に確立すべきだ。
 当該殉職者をどのような形で日本に送還し、出迎えるのか、葬送式はどのように行うのか、栄典や遺族補償はどうあるべきなのか、一般の殉職者と同列に扱うのかどうか、御霊をお祀りするのか、するとすればどこにどのような形式で行うのか、考えるべき課題は多い。本来はこのような課題を解決してから、任務を付与し部隊を派遣すべきであり、どうも順番が逆だ。
 内々には検討されていると信じているが、・・・最悪の事態を想定しているのかと追及されるのを回避しているのだろう。
(2)法的な課題解決を先延ばしするな!
ア 現地部隊レベルの課題
 宿営地の共同防護や駆けつけ警護は、いわば警察行為に近いものであり、軍事組織と云えども、無制限の武器使用が認められる訳ではない。武器使用については、危害許容要件に合致したのか、警察比例の原則に合致しているのか等が厳しく問われる。従って、事前に十分な教育を行う必要があり、指揮官を法的な側面からサポートする法務官も配置されるべきだし、正当性証明の証拠採取も必要だろう。
 それでも尚、罪に問われることがあるかもしれない。指揮官や隊員の違法性の阻却は有り得ないのだろうか?
 想定外の厳しい状況は、想定しないのだろうか?最悪に備えるのが危機管理の要諦な筈だが、そのような場合自衛隊はどのような行動をとるべきなのか?逃げろというのか、白旗を上げるのか?現地部隊指揮官の責任の負担軽減こそ国家の責任ではないのか?
 これを解決するためには、国際基準を適用することだろう。勿論、それでも指揮官の苦悩は消える訳ではないが、・・・

イ 国際標準の武器使用とすべし
 我が国の防衛に係る法制は、極めて解りにくい。ガラス細工のような精緻な論理が張り巡らされており、一般の者には難解である。
 国連PKOに武器使用に関しては、武力行使に当たるか否かが論争の焦点となってしまい、かかる事態に日本は何を為すべきかは殆ど問われないという特異的なお国柄だ。
 国連PKOで他国軍隊と共同行動を行う際に、日本と外国軍隊の認識ギャップがあれば、危殆に陥る可能性すらある。
 また、国連マンデートに基づいて任務を遂行すべきにも拘らず、日本部隊はそれは出来ない、出来るのはこれのみだという、国内事情を盾にした甘えや言い訳が通用するだろうか?このような事を続けていけば、何れ日本は、国連や諸外国からの信頼は得られないだろう。
 確かに、一挙に国際基準を適用するには日本の国内事情からはハードルが高いかも知れないが、避けては通れない道であるならば、早めに改善努力をすべきだ。

ウ PKO5原則について
 本稿は、駆け付け警護がメインであるので、多言は割愛したい。が、PKO5原則に不適合の場合、撤収するとの原則は解るが、現実問題として、そのようなことが可能なのか?もし仮に行うとすれば、どのような手続きや要領で行うのか、シュミュレーションがなされているのか。
 事前に了解を得るとしても、それが国連や他国に受け入れられるのか、疑問なしとはしない。日本独自の特異な基準は、正にガラパゴス的だ。

(3)国民理解の促進を!
 派遣される部隊は、我が国を代表して国際的責任を担っている。国民が挙って、ご苦労だが、頑張って欲しいと送り出してこそ、彼等は更に意気に感じて任務遂行に邁進してくれるはずだ。そのような国民意識を醸成するのは政府の責任であり、そのような努力を一層促進して欲しい。
 ある意味では、平和安全法制で分断された国民の理解を高めるための施策が講ぜられねばならない。国民の理解が進んでいるとは言えないようだ。
 リスクがないという詭弁に国民は辟易しているとも思われる。リスクは当然高くなるが、それを如何にして低減するのか、実効性ある方策・態勢を構築することが重要だ。好い加減、リスクがあるのかどうか等の議論と決別すべきだろう。
 未だに戦争法案と云い、武力行使が拡大する懸念があると喧伝する一部に踊らされることのない国民意識の醸成が肝要だ。

(4)現場を信頼すべし!
 小生が現職時代から、気になることがあるのだが、IT時代になればなるほど、現地の状況が直ちに国家の総司令部まで報告され、最高司令部等がややもすれば現地指揮官の判断に容喙する危険性がある。
 如何に情報手段が向上しても、現地の状況を正確に知り得るのは現地部隊のみだ。基本方針を示したならば、細部は現地部隊に任せるべきである。明確な指針を付与し、十分な教育を施し、細部は任せることが指揮の要諦だ。

(5)警護部隊の規模について
 警護任務を行うのは基本的には警備部隊(歩兵)である。日本が分散運用される施設部隊の警護を慮って倍或いはそれ以上の普通科部隊を派遣するとなると日本に対する国連マンデートが変更され、或いは過大な期待を抱かせる可能性もある。
 施設部隊が警護任務を果たすべきではないが、それでも状況によっては国連から緊急の要請が有るかも知れない。その場合に出来ませんと断っていいのだろうか?
 施設部隊と云えども軍事組織の一員であり、出来ませんと云えるか?そのような事態が起きない態勢のためには、余り分散させない方が良いのだろうが、それが望ましのか?派遣部隊長の苦悩が察せられる。

5 終わりに
日本の国連PKOへの対応は、まだまだ国際標準とはいかないが、今般の平和安全法制整備とそれに基づく新任務付与は大きなエポックとなるものである。
課題は多々あるものの、当面の任務を恙なく終えて、その成果をもって次なるステップに進んで欲しいものである。
 ただ、今般の任務遂行に当たっても、為さねばならぬことが十二分に検討され、措置されているとは云い難い。速やかに所要の処置をして頂きたいと切望するものである。