第7回:『国際緊急援助活動・邦人輸送』(その1)
チャンネルNippon編集局


猪狩先生:皆さんしばらくご無沙汰していました。3月11日の東日本大震災以降、災害派遣で活動中の自衛隊の実情を知っていただくため、山下講師をお招きし4回にわたり特別講義をしていただきました。
自衛隊の災害派遣は8月31日を持って終結しました。自衛隊はピーク時、10万人態勢で人命救助や行方不明者の捜索などに当たり、その後も生活支援などを続け、被災地域の大きな力となりました。終結に当たり、防衛省は「東日本大震災への対応に対する教訓事項について」の中間とりまとめを公表し、今後の体制整備等の参考とすることにされました。
我が国の危機管理上、自衛隊の存在意義上も大変重要なテーマですので、この教訓事項に関連する大震災における自衛隊(軍事組織)の活動のあり方については、関東大震災の史実や諸外国の事例を含めて、改めて皆さんと議論をしたいと思います。
とりあえず、この講座については元の計画に戻り、その他の分野での自衛隊の行動をテーマとしていきたいと思います。今回は「国際緊急援助活動・邦人輸送」についてです。


安田社長:今回の東日本大震災でも各国から救援隊が来ましたが、そのことについてですか。
猪狩先生:地震や災害時に海外に派遣する救援隊については、各国ともその国内法に基づいて体制を整備し、災害発生時にはいち早く救援隊を派遣する態勢をとっていますが、今回は我が国についてのその体制と自衛隊がどのように関係しているかを勉強します。
まず、教材として次の報道記事をご覧ください。

報道記事
政府専用機でNZへ国際緊急援助隊(2011.2.23)
 政府は23日午後、地震被害にあったニュージーランド南部のクライストチャーチに、70人規模の国際緊急援助隊を派遣する。政府専用機で午後2時ごろ成田空港を出発し、日本時間の24日午前0時40分ごろ、現地に到着する予定だ。 援助隊は警察庁22人、海上保安庁14人、消防庁17人、医師などの民間人6人らで構成。外務省の徳永久志政務官が同行し、現地で指揮にあたる。菅直人首相は23日午前の衆院予算委員会で「邦人もかなりいる町。被災者救出に全力を挙げる。省庁が連携して、迅速な形で援助隊の派遣が進んでいる」と述べた。 (朝日新聞)


カオルさん:国際緊急援助隊って?
猪狩先生:海外で大規模な災害が発生し、又は発生しようとしている場合に、当該災害を受け若しくは受けるおそれのある国の政府又は国際機関の要請に応じて、我が国から派遣され、1救助活動、2医療活動、1、2のほか、災害応急対策及び災害復旧のための活動を行います。派遣要請を受けて、外務大臣が関係行政機関の長及び国家公安委員会と協議を行います。この協議に基づき、これら関係行政機関の職員等が活動のため派遣されます。
(国際緊急援助隊の派遣に関する法律第3条、第4条)


カオルさん:関係行政機関ってどんな機関が含まれるのですか?国際緊急援助隊についてもう少し詳しく教えて下さい。
猪狩先生:分かりました。少し長くなりますが、国際緊急援助隊として派遣されるチームの種類とその構成員についてお話しましょう。(参考:JICAホームページ)

 日本は、地震や台風などの自然災害が多いため、これまでに豊富な経験と技術的なノウハウを蓄積してきました。こうした経験を途上国の災害救援に活かしたいとの思いから、1970年代後半に医療チームの派遣を中心とする国際緊急援助活動が始まりました。
 1987年には「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」(通称JDR法)が施行。これにより、医療チームに救助チーム、専門家チームが加わり、現在の国際緊急援助体制の基礎が完成しました。1992年には、PKO法の改正にあわせて一部改正され、特に大規模な災害への自衛隊の派遣が可能になりました。同時に、PKO法とJDR法の対応範囲が整理され、紛争に起因する災害はPKOが、それ以外(自然災害、ビル倒壊などの人為的災害)の災害は、国際緊急援助隊が対応することで整理されました。
 現在はこの4チームを災害の種類や規模、被災国の要請に応じて、いずれかのチームを単独ないしは複数のチームを組み合わせて派遣しています。

安田社長:救助チーム、医療チーム、専門家チームについてもう少し詳しく説明して下さい。
猪狩先生:救助チームは、被災地での被災者の捜索、発見、救出、応急処置、安全な場所への移送を主な任務としています。チームは、外務省、警察庁、消防庁、海上保安庁、JICA(医療班・建築専門家・業務調整員)などの隊員から編成され、チャーター機の活用などにより、政府の派遣決定後、迅速に日本を出発する準備を整えています。これまでに17回の派遣実績があります。
(登録者数:都道府県警察の機動隊約440人、自治体消防本部の救助隊599人、海上保安庁特殊救難隊員など約600人、医療班隊員35人、建築専門家(構造評価)隊員8人、合計1600名以上)



2005年パキスタン救助チーム(JICAホームページから)

次に 医療チームは、被災者の診療または診療の補助を行い、必要に応じて疾病の感染予防や蔓延防止のための活動を行います。メンバーは、自発的な意志にもとづいてあらかじめJICAに登録された医師、看護師、薬剤師、医療調整員に加え外務省、JICAから編成されます。国際緊急援助隊の中で最も歴史が長く、1987年のJDR法制定前の1979年にカンボディア難民支援で派遣された時代まで遡ります。これまでに51回の派遣実績があります。
(登録者数:医師260人、看護師415人、薬剤師48人、レントゲン撮影、受付などを行う医療調整員214人、合計937人)



2006年インドネシアジャワ島中部地震医療チーム(JICAホームページから)

 最後に専門家チームは、災害に対する応急対策と復旧活動の指導を行います。たとえば、地震の被災国において建物の耐震性診断を行ったり、噴火の恐れがある火山を調査し、噴火予測や被害予測を行うなどの活動が含まれます。また新しい感染症に対して、被害の拡大を食い止めるため助言を行うこともあります。チームは、災害の種類に応じて、関係省庁や地方自治体から推薦された技術者や研究者などから編成されます。過去に公衆衛生、油流出対策、鑑識、感染症対策、火山活動予測などで派遣されています。これまでに34回の派遣実績があります。


2003年アルジェリア地震専門家チーム(JICAホームページから)

保クン:自衛隊の部隊はどんな事をするの?
猪狩先生:大規模な災害が発生し、特に必要があると認められるとき、自衛隊部隊を派遣します。自衛隊部隊は、緊急援助活動(医療・防疫)や船舶・航空機を用いた輸送活動、ヘリコプターによる空輸活動を行います。これまでに12回の派遣実績があります。
※数字は2011年5月時点。1987年「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」の公布・施行後の数字。

2006年インドネシアジャワ島中部地震自衛隊部隊(JICAホームページから)

安田社長:派遣はどのようなプロセスで行われますか。
猪狩先生:被災国ないしは国際機関の要請を受けて、外務省が国際緊急援助隊の派遣を決定し、JICAが実施しています。
派遣のプロセスを図示すると次のようになります。(JICAホームページから)

救助チームの場合
医療チームの場合



Mr. フォーク:これまでの派遣実績について詳しく教えて下さい。
猪狩先生:派遣実績は以下の通りです。(JICAホームページから)

国際緊急援助隊派遣件数
「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」施行以降の実績(1987年~2011年5月)


救助チーム派遣実績
医療チーム派遣実績


専門家チーム派遣実績
自衛隊部隊実績(輸送業務を含む)
※1987年以降2011年5月時点


年度 人的援助(国際緊急援助隊の派遣)
救助チーム 医療チーム 専門家チーム 自衛隊部隊 合計
昭62(1987) 0 0 2 0 2
昭63(1988) 0 4 2 0 6
平1(1989) 0 2 0 0 2
平2(1990) 2 2 2 0 6
平3(1991) 1 7 1 0 9
平4(1992) 0 1 2 0 3
平5(1993) 1 1 1 0 3
平6(1994) 0 0 1 0 1
平7(1995) 0 0 1 0 1
平8(1996) 1 1 0 0 2
平9(1997) 0 0 4 0 4
平10(1998) 1 4 1 1 7
平11(1999) 2 5 3 1 11
平12(2000) 0 3 0 1 4
平13(2001) 0 0 0 0 0
平14(2002) 0 0 2 0 2
平15(2003) 2 2 2 1 7
平16(2004) 1 8 4 2 15
平17(2005) 1 3 0 1 5
平18(2006) 0 1 1 1 3
平19(2007) 0 0 1 0 1
平20(2008) 1 2 0 0 3
平21(2009) 1 3 1 2 7
平22(2010) 3 2 3 2 10
合計 17 51 34 12 114
(次回に続く)