第8回:『国際緊急援助活動・邦人輸送』(その2)
チャンネルNippon編集局


保クン:政府専用機って自衛隊が運航しているの?
猪狩先生自衛隊法第100条の5で、防衛大臣は、国の機関から依頼があった場合、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、国賓等の輸送を行うことができるとし、同条第2項で、自衛隊は、国賓等の輸送の用に主として供するための航空機を保有することができる、としています。自衛隊はこれを根拠に保有し運航しています。


保クン:どういう場合使用するの?
猪狩先生自衛隊法第100条の5及び同施行令第126条の16により、以下の者を輸送する場合に主として使用するとされています。
 1国賓、2内閣総理大臣、3天皇、4皇族、5国賓に準じる賓客、6衆議院議長、7参議院議長、8最高裁判所長官、9内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長又は最高裁判所長官に準ずる者、10国務大臣(内閣総理大臣又はこれに準じる者を除く)ただし重要な要務の遂行のため特に必要があると認められる場合に限る

また、第100条第2項で「国賓等の輸送の用に主として供する」と規定していることは、同航空機を国賓等の輸送以外の用途に供する途を排除したものではない旨が明示されているものとされます。当該機の機能に着目すれば、全く防衛の用に使用し得ないものではないと考えられ、国賓等の輸送以外の用途にも使用できる余地を残すことが不合理ではなく、むしろ当該機の効率的な利用・運用の観点からも適切であるからです。※
※田村重信他編「日本の防衛法制」内外出版206頁参照

 必要に応じ、国際緊急援助活動実施のための輸送及び国際平和協力業務実施のための輸送にも使用されます。
 また、自衛隊法第84条の3に基づく在外邦人等の輸送を実施する手段として、第1に政府専用機が挙げられています。


さくら女史:どのような場合、自衛隊は国際緊急援助隊に編成されるのですか?
猪狩先生国際緊急援助隊の派遣に関する法律により、被災国政府等から派遣の要請があった場合で、外務大臣が、特に必要があると認める場合、防衛大臣と協議を行い、それに基づいて防衛大臣が自衛隊の部隊等に活動(国際緊急援助活動、同活動を行う人員又は同活動に必要な器材その他の物資の海外の地域への輸送)を命じることができます。自衛隊法では、第84条の4第2項第3号に規定があります。


さくら女史:自衛隊が国際緊急援助隊として派遣された実績を教えて下さい。
猪狩先生:前回表で示したとおり、ニュージーランド地震のほか、国際緊急援助隊として自衛隊は過去12回派遣されており、最近は平成22年1月にハイチ地震における国際緊急援助活動として、在ハイチ被災民の米国への輸送、医療援助活動を実施しました。


さくら女史:このニュージーランド地震の時、何故自衛隊が行かなかったのですか?
猪狩先生:ニュージーランド政府から我が国政府に対して国際緊急援助隊の派遣が要請され、同要請を踏まえ、外務大臣から防衛大臣に自衛隊による国際緊急援助活動等の実施について協議があり、これを受けて、防衛大臣から活動の実施について命令が発出されました。B-747型機2機(うち1機は予備機)を装備するニュージーランド国際緊急援助空輸隊(約40名)を編成―被災地域への国際緊急援助隊の航空輸送等をB-747型機により行うとの内容です。したがって、自衛隊の活動としては輸送を実施したのみで、現地での活動は含まれておりませんでした。
※防衛省HP報道資料「ニュージーランド南島における地震災害に対する自衛隊部隊による国際緊急援助活動等の実施について」(23.2.23)参照


安田社長:民間人や民間の救助犬は乗れますか?私の加入している災害救助犬のNPO法人が、ニュージーランド地震の際生き埋めになった日本人を救出するためINSARAG認定の出動資格を持つ救助犬1頭と人員2名を派遣しようとして外務省に断られたと聞いていますが。
猪狩先生:次問の回答にあるように、国際緊急援助活動に必要な器材その他の物資の海外の地域への輸送を行うこととされています。輸送量には限りがあるため、ニュージーランドへの国際緊急援助活動関連の輸送の際には、何を優先的に乗せるかはJICA(独立行政法人国際協力機構)が窓口となって決定に関わったとのことです。その際、国の救助機関の救助犬は乗せているとのことです。JICA関連の輸送が最優先であり、容量の関係でNPOの救助犬については、優先順序から断ったのではないのでしょうか。


安田社長:救助犬のNPO法人は外務省国際緊急援助・人道支援課に調整したようですが、課長の判断ということで政府専用機には乗れなかったようです。その理由も1.救助犬の動物検疫手続き上、2.政府専用機運行当局の防衛省が難色、の問題点を上げ極めて官僚的に対応されたようです。最終的には選挙区の議員を通じ外務省政務官まで陳情したそうですが、事務手続きが間に合わないということで断られたとのこと。防衛省に直接確認した所、公的機関の犬であれ民間の犬であれ差別はしないということだったようで、自国民の生命の救出(国益以前の問題)よりも事務手続きを優先する小役人的な態度にカンカンになっていました。
猪狩先生:法的には国際緊急援助隊の派遣に関する法律第5条により、外務大臣は、適当と認める場合、JICAに対し、国、地方公共団体又は独立行政法人の職員その他の人員を国際緊急援助隊として派遣するよう命ずることができます。(休憩)


猪狩先生:皆さん、まず配布した報道記事を読んで下さい。質問のある方からどうぞ。


報道記事

中国政府支援で3万6000同胞が無事脱出 新華社系出版社が記録DVD発売(2011.3.8)
 7日の新華社電によると、中国政府がリビアに滞在していた約3万6000人の中国人全員を脱出させる映像を記録したDVD「リビア脱出」を新華社系の出版社が発売した。
 中国では国営中央テレビなどが、政府がチャーター機や空軍輸送機を派遣して脱出を支援する模様や、脱出して政府に感謝する市民の声を繰り返し放送。DVDは「海外の同胞の安全を守る政府の決意を表している」といい、国威発揚が狙いとみられる。
 新華社は脱出劇を報道するため、50人余りの記者がリビアなどで取材に当たったという。リビアに滞在していた中国人は、中国企業が請け負った建設工事の現場などで働く労働者が多かったとみられ、2日夜までに全員が脱出した。(共同)

韓国企業の268人脱出 リビア北部、邦人1人も(2011.2.27)
 韓国外交通商省は27日、リビア北部シルト周辺に進出している韓国企業で働いていた韓国人60人と、日本人1人を含む外国人208人の計268人が同日、エジプト航空のチャーター機でカイロに脱出したと発表した。同省によると、脱出した外国人はフィリピン人やベトナム人の労働者が多い。脱出者の一部は当面、エジプトなどに在留し、リビアの状況を見ながら現地での事業再開に備える予定。(共同)

米手配船でマルタに脱出へ リビア、邦人十数人(2011.2.24)
 在リビア日本大使館は23日、同国に滞在中の日本人十数人が、首都トリポリの港から地中海のマルタに向け脱出するため、米国がチャーターした民間船舶に乗船を試みていると明らかにした。同日夕(日本時間24日未明)にも出港の予定という。乗船を待っている日本人の男性企業駐在員は共同通信の電話取材に「トリポリ市内で昼間は発砲はほとんどないが、夜は非常に危険。いつ撃たれるか分からない」と緊迫した首都の状況を説明した。 男性によると、市内の要所には警察や軍が検問などを設け警戒に当たっているといい、首都は依然、政権の統制が効いているとみられる。男性は、港の待合ロビーでは他に日本人旅行者4~5人のグループが乗船を待っていると話した。(共同)



Mr.フォーク:各国はチャーター機や軍用機で自国民を救出しているようですが、こういう場合我が国は政府専用機や自衛隊機を派遣して救出できないのでしょうか?
猪狩先生:第1回講義でも述べましたが、自衛隊法第84条の3に基づき、外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人について、外務大臣から依頼を受けて、自衛隊の政府専用機等を用いて、邦人を輸送することができます。この場合、防衛大臣と外務大臣の協議で、輸送の安全が確保されていると認められていることが前提となります。リビアについては、上記の要件を満たせば、邦人の輸送を実施することができます。


安田社長:過去にこのような場合自衛隊機(政府専用機)が派遣されたことはありますか?
猪狩先生:イラク復興支援派遣輸送航空隊のC-130が、自衛隊法100条の8(在外邦人等の輸送)に基づいてイラクの報道関係者をクウェートへ避難させました。



さくら女史:米国などは、どのような根拠に基いて遠路軍用機やチャーター機を派遣して在外自国民救出に当るのですか?
猪狩先生:米国では、自国民保護が国連憲章第2条第4項に違反しない場合、すなわち、兵力の使用が他国の領土保全及び政治的独立を侵すものではない場合には合法であるとの見解を示しています。米国政府が現行法を明示しているものとして利用している米法律協会作成の『リステートメント対外関係法』は「その目的に厳密に限定され、かつ、救出が行われる国で人命又は財産に不均衡な破壊をもたらさない行動の場合には、国家が犠牲者又は潜在的犠牲者を救出する行動をとり得るということは、ますます承認されるようになっている。」としています(注1)。1990年にリベリア国内の反乱で在リベリア米国民に対する危害が高まったため、米軍は強襲揚陸艦等から成る救出部隊を派遣し、LCM、ヘリ等により米国民及び外国人を退避させました(注2)。これについて国際社会から非難は報じられませんでした。同様の作戦が、1997年に暴動で無政府状態となったアルバニアからの自国民脱出においても行われました(注3)。

  注1:R. Lillich, Naval War College, International Law Studies 1980
  注2:”Operation Sharp Edge,” U.S. Naval Institute, Proceedings May 1991, p.102.
  注3:U.S. News & World Report, March 24, 1997

(了)